行間 その2
時間は宇都がヘヴン・ヘルタウンから離脱する五分前に遡る。
ヘヴン・ヘルタウン周辺の路地裏に、一人の少女が佇んでいた。
昼だというのに辺りは薄暗く、建物と建物の隙間を通り抜けていく構造となった道であるため、人目や監視カメラの死角に入るのに容易くなっていた。
噂によると、この路地裏で秘密の取引が行われていたり、非合法な薬が売られていたり、宇宙人が出現していたりと何かしら噂が絶えない場所らしい。
その少女は背中に「R」と大きく書かれた赤いマントを羽織っている。
ポニーテールが印象的で、少し童顔だ。
が、マントについている帽子を深くかぶっているので、顔の様子は一目で確認することができない。
その少女は、無線機を持って誰かと話をしている。
「いやー、まさか四賀君が暴れるとは思わなかったね! これはびっくり」
『四賀等、どうでもよい。自分の能力に現を抜かし、結局宇都に敗北した奴など興味は無い』
無線機から聞こえてきたのは、冷淡さを存分に含んだ声。
男性の声であり、濁りの無い綺麗な声を発している。
「もう、冷たいなあ、T君」
『Tはコードネームだ、慎め、R』
「誰も聞かないでしょ、こんな無線機の内容なんて。しかも国家容認機関に所属の私たちだよ? 身の安全に関して優遇されないわけないじゃない!」
『ふん、どうだか。国のやることだ。いつか俺たちも切られるだろうな』
Tと呼ばれるその男性は、冷静な口調で、感情をこめず言い切った。
無線機の向こうでは何か食べているのだろうか。
かちゃかちゃと食器を立てる音、グラスを置く音が無線機の音に乗って聞こえてくる。
「まあ、覚醒アビリティの能力名の頭文字を取ってコードネームをつけているんだからね。コードネームを知られたところで誰かが得するわけじゃないし」
『まあな......で、宇都の方はどうだ?』
「うーん、あとちょっとかな。まだまだ近くで見ていることしかできていないけれど、もう少し様子を見てみることにするよ。四賀の奇襲は予想外だったもんね」
『そうか。あれに関して、あまり遅くなるなよ』
かちゃ、とナイフかフォークを置く音が無線機から聞こえた。
「分かってるよ、T。彼が来れば、私たち『マリオネット』は本当の力を得るんだもんね!」
『組織名をそこで出すな。口を慎めと言っているぞR』
「もーお! もう少し大学生らしい口調で話してくれないかなあ」
その少女は無線機に向かってわざとらしくため息をついた。
無線機の向こうから、なんだという声が聞こえてきたが、少女は間髪入れず質問する。
「ところで、四賀君が能力を使えなくなってしまったから敗北したらしいけど、どうしたのかな?」
『そればかりは分からない。私たち超能力者は能力を使う回数に限度は無いしな。何か不調でも起こしたのではないか?』
「うーん、そうかなあ。なんでだろうね」
少女は鼻の頭を指でつついている。
そうして三秒ほど間をおいてから無線機から冷たい声が降りかかってきた。
『さて、あと一時間ほどで超機密事項の重要会議が始まる。分かってるな?』
「はいはい。すぐに本部へ向かいますよーだ!」
その少女はそれだけ言ってから、無線機の電源を乱暴に切った。
わざとノイズを残して切ってやり、いつも冷淡な態度で接してくるTへの嫌がらせをしてやったのだ。
些細な嫌がらせである。
少女は辺りを見回してみた。
ビルの建物と建物が作り出す隙間で、この路地裏は存在する。
道の幅は、人二人分、お相撲さん一人分の幅と言ってよいほど狭い。
「はーあ。まあ、ヘヴン・ヘルタウンが近くにある路地裏だから仕方ないけれど、この場所は体に悪そう!」
その少女は綺麗な空気を求め、路地裏を駆け抜けようとする。
が。その瞬間。
大きな轟音と共に、地面が上下に揺れた。
立っていることができない。
「な、なに!?」
少女は誰もいない路地裏で一人驚きの声をあげる。
これは、ヘヴン・ヘルタウンが崩壊の瞬間を迎えた瞬間。
建物の破片、コンクリート、砂嵐がヘヴン・ヘルタウン周辺を巻き込んでゆく。
彼女がいる場所はヘヴン・ヘルタウンの周辺なので、当然ながらその路地裏にも被害が起こる。
コンクリート、柱を支えていたであろう立派な鉄骨が、その路地裏を埋め尽くしてゆく。
ドンドンと耳を劈くような音を立て、それは落下する。
しかし少女はその状況に、ちっとも驚いていない。
ああなんだ、この程度かという表情を隠れたマントの中から作り、路地裏を駆け抜け、出口へと突撃する。
刹那。
少女のすぐ頭上に、五メートル級の鉄骨が少女めがけて落ちてきた。
当たれば即死。
普通の人間ならば死の瞬間を味わうことになる。
しかしながら。
その少女は違った。
「あはは、ラクショー!」
全く曇りの表情を見せず、その鉄骨を。
折った。
その鉄骨は、ばきばきと現実では体験できないようなおぞましい音を立て、少女の背後へと墜落する。
恐ろしいことにデパートの柱を支える、大きな鉄骨を半分に折ったのである。
それも、手を使わずに。
理由は分かり切っている。
彼女は、覚醒アビリティ持ちの超能力者なのだ。
ちなみに、念力で鉄骨を破壊することはできない。
人間にも力の限界があるように、念力にも扱う物に限界がある。
例えば、人間は手でバナナを簡単に折ることができるが、厚い鉄板はそれができない。
超能力にも同じことが言えるのだ。
「さーて、さっさと退散しましょうかね!」
一人呟いた彼女は、能力を使用しながら離脱し、彼女の目的地へと足を急がせた。
行間 その2 完
伏線って大切ですよね。
うまくできるようになりたい......! 2015/02/02




