第18話
宇都は持てる力をすべて使い、外へと離脱した。
ヘヴン・ヘルタウンの周りは警察官達によって出入りが完全に閉鎖され、関係者以外立ち入り禁止エリアとなっていた。
先ほどまで、渋滞に腹を立てたドライバーがクラクションを鳴らしまくっていたり、命かながら逃げ出した人たちが道路へなだれ込んでいたが、それももう完全に解消されている。
外は寒い。
とてもとても。
宇都は、呟く気力もなく、ただただそんなことを感じながら体の力をすべて使い足を動かして脱出を試みる。
この日は年明けが近い休日。
時刻は夕方に差し掛かり、気温も急に下がってくる時間帯になっていた。
ヒュウヒュウと冷たい風が宇都のすぐわきを通過していく。
その風を感じ、ああもうすぐ年明けかと宇都は考えた。
ヘヴン・ヘルタウン。
二十五層立ての大型デパート。
そんな建物が、柱という支えの部分を失い、崩れ落ちようとしている。
何かに例えるならば、ジェンガという玩具。
律儀に積み上げられたブロックをプレイヤーがうまく引き抜いていき、そのブロックの建物を壊さないようにするゲームだ。
そんなジェンガに例えられた建物は、プレイヤーたちの興奮を呼ぶフィナーレ、つまり崩壊を迎えようとしていた。
宇都は、堂々と入り口から、疲れ切った体に鞭をうち、体を引きずる形で入り口から脱出する。
「人が出てきたぞ! 救助しろ!」
それを見つけた一人のレスキュー隊が叫んだ。
叫ぶと同時に五人組のグループが宇都へ駆け寄る。
「君! 大丈夫か。すぐここを離れるぞ!」
宇都はレスキュー隊の人にタンカーで担がれ、その場を離れることができた。
宇都が離れると同時に、そのジェンガはゲームのフィナーレを迎える。
つまり、崩壊だ。
何かの映画の撮影のような、またテロリストが起こした事件と勘違いしてしまいそうな出来事が、そこで起きたのだ。
支えを失ったヘヴン・ヘルタウンは西側へ向けて頭から墜落する。
頭の部分は完全に折れていて、コンクリートの破片をまき散らしながら地面へと落ちていった。
大きな地震によって、辺りが上下に大きく揺れ動いた。
そして多量の砂埃が同時に巻き起こる。
つまり、砂嵐が発生したのだ。
「砂嵐だ!! 全員退避せよ!!」
チーフだろうか。
統括なのか分からないが、お偉いさんであることは間違いないであろう。
宇都は薄れゆく意識の中、その人が危険を知らせているセリフを言っているのを感じ取っていた。
巨大な砂嵐は、車を軽々と追い抜くスピートで、ヘヴン・ヘルタウン周辺を飲み込む。
轟々。ゲームやアニメの中でしか聞いたことの無いような轟音が響き渡る。
普段体感できることのない状況。
建物が崩壊し、その影響があたりにまで及ぶことなど誰が予想できたであろうか。
(四賀......)
そのような危機的状況の中、宇都は建物内に残されている四賀の事を心配していた。
結局、改心させることができたのであろうか。
殺人を犯し、同級生を攻撃する四賀の非行態度。
宇都は力でねじ伏せて解決させてしまった事を、後悔しているのだ。
「君、大丈夫か! 砂嵐が酷いが、とにかく我々と病院へ急ぐぞ!」
救急隊の人に声をかけられたようだ。
心強い言葉かけ。
いつの間にか、救急車へと運ばれていたのが、声をかけられてから気が付いた。
その言葉と、救急車にいるという状況は、宇都に大きな安心感を与えさせた。
そこで安心したのだろうか。
宇都の体の中にあった膨大な緊張感が一気に抜けたみたいだ。
まるで炭酸飲料のガスが一度にたくさん抜けたように、体から緊張感諸々が無くなる。
安心した宇都は、そこで眠りに落ちてしまった。
宇都は目が覚める。
綺麗な、清潔感満載な部屋に宇都はいた。
壁の色は白色で、壁紙などの煩わしいものは一切貼っていない。
宇都はベットに横になっていたが、体を起こして辺りを見回してみる。
ベットの上に、『宇都忠 様』という表示が緑色の文字で浮かび上がっていた。
この技術はAR。拡張現実の応用技術を駆使したものらしい。
ベットの近くには小さな小窓が付いていた。
外を覗いてみると、大きな噴水、豊かな自然、お天道様がはっきりとよく見ることができた。
「なるほど、病院ね」
一瞬にして状況を理解した彼は、靴に履き替えて病院内を探索してみることにした。
服は患者用のものに着替えさせられているようだが、体に特に異常はない。
「患者用なんて着ていられるか!」
と叫んで脱ぎ捨ててもよかったのだが、それだと色々と面倒なことになりそうなので宇都は止めておいた。
ベットから軽々と降り、部屋のドアをゆっくりと開け、廊下へ出てみる。
どうやらここは大病院らしい。
ヘヴン・ヘルタウンに負けないくらい、とてつもなくキャパの広い病院のようだ。
廊下はまっすぐと続いていたが、他の病院と異なるところが一目でわかる。
それは、そのフロアから上のフロアを見渡すことができるという点だ。
まるで、デパートのような縦に大きな建物となっている。
エスカレータで上へと上がる人々を宇都のいるフロアから見ることができた。
宇都は、とりあえずトイレへ行こうと思い、トイレの標識を頼りにトイレへと駆け込もうとした。
その時に分かったのだが、宇都が今いるフロアはどうやら三階らしい。
「まったく。本当に栄えまくっているな、この町は」
独り言をつぶやき用を足す。
手を洗ってから、もう一度廊下を歩いてみる。
この日は休日なのだが、病院は営業しているらしい。
また、休日の影響なのか受付には大勢の人が検査待ちの為に列を作って待っている人々が見えた。
人気テーマパークのアトラクション待ちのような、長蛇の列ができていることに誰もが驚くだろう。
そんなことを考えながら辺りを散策している宇都。
不意に背後から白衣の男が近づいてきているのに気が付かない。
「宇都君......」
「うわ!! びっくりした!!」
宇都は急に背後から話しかけられ、電撃でも浴びせられたかのように上に大きく飛び上った。
「病院内では静かにね......」
またもや声のトーンが恐ろしく低い男性に声をかけられる。
宇都の周りでは、宇都の急な大声に驚いた人々が宇都をじろじろと見ていた。
完全に目立ちすぎている。
「あ、その......ごめんなさい!」
周りの人に頭を下げた。
それを見た周りの人は、何事も無かったかのように歩き始めていく。
「ちょっと、あなた誰ですか。急に話しかけられたらびっくりするでしょう!」
宇都は小さな声でその白衣の男に抗議した。
その白衣の男は、文系か理系かと問われたら一目で分かる風貌をしていた。
細身の体に、サイズの小さい眼鏡をかけている。
細身という特徴を持ちながらも、身長は高い。百八十ぐらいだろうか。
そして年齢は二十代後半だろうか。そんな感じがする。
ロングコートのような長めの白衣を着て、右ポケットには無駄に沢山のペン、謎の機械が詰まっている。
実験オタクか! と思わず突っ込みたくなる風貌。
研究員だろうか? と宇都は検討をつける。
しかし、その白衣の男は。
「誰とは酷いな。君の処置をしたのは僕なのに......」
その男は、小さな声でぽつりと言った。
「あれ、という事はあなたが私の担当医さんでしょうか?」
宇都は、医者と研究員とのギャップが埋められず。状況が飲み込めていない。
思わず確認の質問をする。
「ああ、いいんだ......。僕、よく研究員と勘違いされるの、慣れてるから」
こんなことを言ってはいけないのだろうが、彼は完全に根暗みたいだ。
宇都は、少々対応に困ったが自分の命を助けてくれた担当医なのでお礼をしようと考える。
というか、研究員と勘違いされるのかい!
と笑ってしまいそうにもなったが、それを宇都はこらえた。
宇都のいるフロアは病棟であったため、関係者以外立ち入り禁止となっていた。
検査に来ているだけの人は入ることができない。
それゆえ、このフロアは混雑をしていなかった。
ただ、突き抜けの構造になっているので、下からのガヤガヤしている音は上のフロアまで響いてきていた。
その音が響いている中で、聞こえるように配慮しながら、宇都はその男に言った。
「あの、この度は私を治療してくださってありがとうございました」
「まあ、君に関しては何もしていない同然なんだけど。とりあえず、お礼として受け取っておくよ......」
暗い。
とにかく暗い。
トーンが暗すぎて、こちらまで暗くなってしまいそうな感じがするが。
このような人が本当に医者なのだろうか?
という考えは失礼なので、正義感が強い彼は、変な正義論を持ち出してそんなことを必死で考えないように努める。
脳裏には浮かんでいるようであるが。
「そうだ。ここの病院、ヘヴンホスピタルっていうんだけどさ......。君の住所からそう遠くないだろう?
僕の名刺あげるから、困ったらまた来なよ。助けてあげるからさ......」
病院にヘヴン(=天国)って名は倫理的にOKなのだろうか? 気になるところである。
そして彼は人づきあいに積極的なのか、それとも商売に積極的なのか良く分からないが、宇都に一枚の名刺を渡した。
今時紙かよ。電子名刺じゃねえのか! このレトロ野郎!
と叫んでもよかったが、宇都の中で何かが邪魔をしてそれができなかった。
「その名刺、受付で見せれば僕に直接連絡が取れるようになっているんだ......すごいだろう? これで君は僕の物だ。患者だ......」
「なんですかそれ。また怪我をして来いとでも?」
「さあね......。どうだか」
その名刺には、闇乙姫と名前が書いてある。
というか、男なのに乙姫?
不思議な名前だ。この世は不思議でいっぱいだと考えさせられる。
「さて、君はもうすぐに退院手続きをして帰ったほうが良い......。じゃないと、いつまでも病院生活が続いてしまうし、金もその分かかってしまうから」
闇は、それじゃと言ってから宇都に背中を見せ、すたすたと廊下を歩いて行ってしまった。
後ろを振り返らずに、バイバイと手を左右に振っており、やがて姿を消す。
ともかく、すぐに病院を出よう。
まだまだ気になることがある。
宇都は闇を見送ってから、すぐに自室へと戻り退院手続きを終えた。
かくして宇都は、このヘヴン・ヘルタウン事件に終止符を打ったのである。
このヘヴン・ヘルタウンでの事件は、のちにニュースで大きく取り上げられる。
しかし、その詳しい詳細について知る者は、宇都と秋芽、そしてトム以外誰もいなかった。
この事件は迷宮入りとして処理され、閉幕したのである。
第二章 冬休み位ゆっくりさせてくれ 完
段々一話分の分量が多くなってきてる。
うまく調整していこう。
2月も頑張りましょう! 2015/02/01




