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魔法を撃たないと死ぬ病弱少女は、今日もダンジョンを徘徊します  作者: 京々
一章

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11話 可愛い生き物(飼丸視点)


 もふもふ専門、飼丸。


 合同会社にじいろ迷宮という事務所に所属するダンジョン配信者である。


 探索者としての等級はB、「上位一握りの実力者」と称して全く問題のない強さ。探索歴も業界内では長い方で、また自分で言うのもなんだが整った華やかな顔面をしている。


 何よりの特徴は、チャンネル名の通りもふもふが大好きすぎること。


 ダンジョン内のもふもふなモンスターを観察するために探索者となったと言ってもいいほどに、もふもふした生き物が大好きだ。いや、なんならもふもふしていない生き物だって大好きである。


 趣味が高じてモンスターの知識は専門家にも迫る。

 配信だって、希少なモンスターを観察するために耐久三十六時間とか平気でやる。様々なモンスターをその知識で見つけ出しては、自分の配信内から切り抜いてモンスターの解説動画を出したりなんてことも。


 また、ダンジョン内にペットを連れていくことに関する第一人者でもある。


 ダンジョンに潜ってモンスターとの戦いを経た人間は身体強化されることがすでに有名だが、実は人間以外にもそういう効果が確認されている。


 飼丸の動物好きは筋金入りで、自宅ではさまざまなペットを飼育していた。彼らと一緒に探索するのだ。


 ダンジョンに潜って強化されたペットはものすごく有能だ。

 飼丸が飼っている犬たちなんか、モンスターの探索能力に優れるし、いざというときに人も荷物も運べる。モンスター相手に一歩も引かない戦いだって演じてくれる。可愛いヤツらなのだ。

 飼丸のペットの猛禽類だって空からの探索や奇襲を従順にこなしてくれる可愛いヤツだし、ネズミは罠を見つける名人で何より可愛い。

 まだまだいるのだがもう本当にみんな可愛い。


 もちろん不都合もある。強化されたペットの扱いは非常にセンシティブだ。今ではダンジョンへの生き物の連れ込みは厳しい試験を突破して資格を持たないと認められない。

 飼丸はそういった資格のない黎明期からペットと共に探索をしており、資格の施行にも貢献したりしている。


 また、最近は親戚の新人探索者アキアツとアキヒメも交え、もふもふ専門チャンネルは賑わいを見せていた。


 そんな最中の、放送事故であった。


 出るはずのないところに出たモンスター。奥の手の目眩しの魔法を使っても全く怯まず、挙句守るべき存在であるアキアツとアキヒメを殺しかけてしまった。


 目の前が真っ暗になるというのはああいうことを言うのだろう。


 あれは飼丸の落ち度だ。二人を三層に連れていくにはちょっと時期尚早だった。せめて不測の事態に冷静に救難要請が出せる程度にダンジョン慣れさせてから行かないといけなかった。

 入念に下調べをしたなんて言い訳にもならない。だって不測の事態は起こるのだから。


 いきなり出現したモンスターに飼丸が対応して、しかし目眩しの魔法が効かずに片腕を失った飼丸。

 そこで救難要請を出せればよかったのだが、飼丸が止血する間に二人は激昂してモンスターに立ち向かってしまった。


 なんとか要請を出した直後にアキアツが瀕死の重傷だ。


 アキヒメは余程怖かったのだろう。あれからアキアツとひとときも離れない。

 飼丸も、もしアキアツの命が助からなかったらそのまま探索者を辞めていた可能性がある。


 それほど追い詰められたところを救ってくれたのがあの謎の少女だった。


 怪獣を模した可愛らしいパーカーを着て、体に見合わぬ大きな探索用リュックを背負った少女。丈が長いパーカーとはいえ小鹿のような足は丸出しで、もともと小柄だろうに姿勢が悪いせいで余計に小さく見える。ボブくらいの髪はくるんと跳ねて広がっていて、眠たげな目に反して八重歯が目立つ。


 身体強化アンプルを使ってまで駆けつけてくれたのだろう。あり得ない高さまでジャンプして、小さめなビルくらいの高さはあるだろうキングワームに上からアイスブレスを浴びせるという強烈な登場。


 しかもおそらくあの魔法はランク5くらいはあった。しかも二連発だった。


 ランク5。

 飼丸もランク5の魔法アンプルは持っているが、虎の子である。滅多に使うものではない。一度撃ったらその日の探索は終了だ。魔力中毒になって強烈な体調不良に苛まれる。あと値段的にも大層痛い。


 弱ったキングワームに、彼女はさらに追撃した。目を爛々と輝かせてランク5はありそうな氷を両拳に纏い、ガツガツ殴る。


 凶暴すぎる。S級でももうちょっとアンプルの節約を意識した戦い方をする。


 それに反して、話しかけてみると心配になるほどぼんやりした受け答え。


 まああれだけアンプルを使ったら普通は魔力中毒で瀕死だ。それにしては症状が氷魔法に対応する凍結症状(クライオ)とは違うようだが……。


「ランク6、は、多分あります」


 さらにさらに、治癒魔法のランク6が使えると言う。


 あのときは必死だったからツッコミはしなかったが、さすがに盛り過ぎだろうと思う。


 治癒魔法は病院に専門の使い手がおり、何人かで分担することによりランク6の治癒魔法を実現している。厳しい使用制限はあるらしいが。

 あと、個人のランク6治癒魔法の使い手として有名なのはイタリアの聖女か。


 もちろん、情報公開していないだけでランク6の治癒魔法が使える探索者は他にもいるだろう。

 けれど、あの場所にポンッと居合わせたあの子がまさかそんな使い手の一人だとは。


 アキアツのひしゃげた体も飼丸の食いちぎられた片腕も実際に治ったのだ、誇張ではなかった。


 まあ絶対にタダものじゃないだろうな、と探し始めて、そんな折の古杜ヶ窪ダンジョンスタンピードである。


「まあ、絶対にあの子だろうな」


 なぜか飼丸には確信があった。あの怪獣パーカーの少女が『迷宮喰らい』だろうと。


 その少女が、『迷宮喰らい』が、なんなのかは未だに分からない。


 ただひとつ確かなことがある。それは。


「可愛い生き物だったな……」


 飼丸の可愛いモンスターセンサーに反応したということだ。

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