表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幾千の夜と暁を越えて  作者: 白明


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/48

第五章 廉貞星 壱 絶対帝王学

 カヲルさんとの話は私の想像をはるかに越えるモノだった。

 その中でのじいちゃんは、悩み、もがき、そしてがむしゃらに生きていた。

 私の知らないじいちゃんがそこにいて、自分の人生に一生懸命向き合い、走っていた。

 私がそんなじいちゃんからもらったのは、多くの意識高い考え。

 それはもしかしたら、じいちゃんなりに私に伝えたかった帝王学なのかもしれない。


 そんなことをベッドルームで考える。

 隣で眠る妻の寝息の何たる平和なことか。

 しかし、この平和は、私たちの世代だけで築き上げたモノではない。

 私たちの両親の世代、そして祖父母の世代が一生懸命に生き、そして引き継いできたもの。

 隣室で眠る子どもたちも、そこに私たちの生きた道を加え、次の人生を紡いでいく。

 そんな当たり前なことだが、日々、感じることが少ないことをぼんやりと思う。

 私たちは、「生きている」のではなく。「生かされている」のではないかと。


***


 じいちゃんとの生活とその「教え」を少し、思い出す。


 じいちゃんとは、幼い頃一緒に暮らしていた。時に厳しく、そして優しい子供好きな人だった。

 両親が仕事の間、じいちゃんの部屋で花札や軍人将棋を楽しむのが日常。

 小学校で大きなケガをしたときには、真っ先に駆け付けてくれた。

 そんな孫想いの優しい人だった。



 私が十六歳のある日突然、じいちゃんと別居することになった。

 じいちゃんは、愛人と生活をはじめることになったのだ。

 別居といっても、車で一時間程度の距離。

 年に数回は、私はじいちゃんに会いに行っていた。

 会いに行くと「これでもか」と言うほどの料理。とても愛されていた。

 しかし、大学生、社会人になるに従い、会いに行く機会は、減っていった。

 当然だろう。年頃の青年は、家族よりも遊びを優先する。

 そんな、誰しもが浸る青春を恥ずかしながら、私も謳歌していた。


 私が社会人になる頃には、じいちゃんも自由に仕事をしていた。

 定年後会社を設立し、悠々自適な生活を送っていたのだ。

 そんなある日、仕事中の私の携帯電話に連絡があった。


 私は一瞬で青ざめた。


 じいいちゃんは、いわゆるオレオレ詐欺にひっかかりそうになっていたのだ。

 急いで父に連絡し、じいちゃんの様子を見に行ってもらう。

 幸い、大事には至らなかった。

 この出来事を機に、じいちゃんは一人で暮らす自信を失ってしまったようだった。

 それ以後、じいちゃんは私の両親と同居することとなった。



***


 タイミングとは、重なるものである。

 私もじいちゃんと両親の住む実家から、歩いて五分の分譲マンションを購入した。

 妻との共働き。しかも、子供達はまだ幼い。

 必然的に夕食は実家で揃って食べる生活がはじまったのだ。

 私からすれば、食費も節約できるし、子供達の面倒も見てもらえる。しかも、じいちゃんや両親の喜ぶ顔を毎日見ることができる。

 本当に毎日、幸せを噛みしめさせてもらった。


 子供達もじいちゃんと遊ぶのが好きなようで、毎日のようにじいちゃんの部屋で遊んでいた。

 その、どことなく懐かしい風景に、心が温かくなる毎日だった。

 この頃のじいちゃんの楽しみの一つが、私とお酒を飲むこと。

 私も楽しかった。特にじいちゃんの昔語りが。

 じいちゃんの話を聞きながら、時には笑い、時には厳しく言いつけられることもあった。

 とても貴重で素敵な時間だった。


 いつの頃からか、私はじいちゃんの会社の経営を伝いを行い、支えることも多くなっていった。

 私には本業があるのだが、じいちゃんは手伝いを強いた。

 こういう強引なところが、面倒だった。

 でも楽しかった。悲しいこともあった。多くを学んだ。


 流行病が蔓延しはじめた頃。

 電車での移動が多い私は、実家での夕食を自粛した。

 外出や人と接することが多いため感染リスクの高い私が、実家に行くことで、じいちゃんや両親を危険にさらす可能性がある。

 子供達の学校も閉鎖され、世の活動は完全にストップ。

 しかし、私の会社は、全員出社の命令。

 家族よりも世の中のために働かなければならなかった。


***


 そんなある夜、母からの電話があった。

 じいちゃんが倒れ、病院に運び込まれたとのことだ。

 完全なる面会謝絶。

 流行病が蔓延する中でこのような経験をされた方は、多いのではないだろうか。


***


 次にじいちゃんに会ったのは、葬儀場の安置室だった。

 いまでも思い出すだけで涙が止まらなくなる。それがじいちゃんとの生活の終幕だった。


 幼い頃から受けてきたじいちゃんからの「教え」。

 じいちゃんの昔語りや経営の中での「教え」、そして最後の「教え」。

 私にとって最も根本的であり、大切な「教え」。

 それを今日はちょっとだけ、思い出す……。


(つづく)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ