表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
四つ葉の郷の物語  作者: 村野夜市


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/40

36

―― ちょっと疲れて休んでたら、オクサンがやってきてね?

    こんなところにいると風邪を引くよ、って、手、引っ張ってくれたんだ。

    妖精さんも、こんなところに落ちてるから、拾ってく、って。

    でも、妖精さんなんて、どこにも見えなかったんだけどなあ。


その後のドメニカの証言だ。


―― アイス?

    ああ、オクサンと一緒に食べたよ。

    オクサンのためにスプーン作って行ったんだけど、どこかでなくしちゃって。

    そしたら、オクサン、スプーンなら自分のがあるからいいんだ、って。

    妖精さんがそのスプーン、見つけてくれたんだ、って言ってた。


―― オクサンね、そのスプーンをずーっと探してたんだって。

    どうしてもそれを見つけないとって思ってたんだって。

    だから、妖精さんにはとっても感謝してるんだって。

    有難う、って言ってた。


そういえば、扉の前で拾った、ドメニカ手作りの下っ手くそなスプーン。

ポケットに突っ込んでおいたはずなのに、いつの間にかなくなってた。

どこかに落としてきたのかな。

ちょっと悪いことしたかもしれない。


あの夜、僕のいないことに真っ先に気づいたのは、何故か、フィオーリだったらしい。

僕らの歓迎会パート2だったあの夜、やつは、それこそ、パーティの最重要人物だった。

あっちからもこっちからも声がかかって、引っ張りだこだったはずだ。

それなのに、僕のことに気づくなんて、さっすが、パーティ1の気配り男というか、なんというか。

まあ、そのお陰で助かったんだから、とりあえず、感謝はしておくよ。


はじめは、疲れて休んでいるのかな、くらいに思ったそうだ。

さんざんアイスの巨大化をやってたのは知っていたから。

それで、さり気なく会場を回りつつ、僕の姿を探したんだって。

なのに、僕はどこにもいなかったからさ。

それで、おかしい、って思ったんだって。


「だって、ミールムって、すっごい淋しがりでしょ?

 疲れて休むんだって、人の気配のしないところには行かないと思ったんっすよ。」


・・・ふーん?

僕って、そういう印象だったんだ?


・・・・・・まあ、否定は、できないけど。


「けど、会場のどこ探しても、ミールムはいないし、これは、変だぞ、って。」


その時点で仲間全員にそのことを話したらしい。

それは、おかしい、ってみんな言って、僕のこと、手分けして探そうってなったんだ。


って・・・

・・・みんなが僕のことどう思ってるか、よっく分かるなあ・・・


家に戻ったり、近所を見て回ったり。

まあ、その辺りはドメニカを探していた僕と同じルートをたどったわけだ。

その時点で、氷室の前も何度か通ったらしいんだけど。

氷室の扉が閉まっていたから、まさか、その中にいるとは思わなかったらしい。


けど、どこにもいない、ってなって。

そのころになって、やっと、ドメニカもいない、ってのに気づいたらしい。


いなくなったドメニカを僕が探しに行ったんじゃないか。


それに気づいたのはシルワだった。

黙って僕がいなくなったのは、ドメニカが叱られるって思ったからじゃないか、って。


・・・まあ、当たらずとも遠からずなんだけどね。


ドメニカなら、オクサンのところじゃないか。

そう言ったのはマリエだったそうだ。

氷室の前は何回も通ったけど、そういえば、中は見ていない。

それで、みんな大急ぎで氷室にむかった。


そしたらグランが、氷室の前に落ちていた僕のスプーンを見つけた。

流石ドワーフ。光るものには人一倍目敏い。

しかし、あのスプーン、あそこに落としておいて大正解だったよ。


あとは、みんなして、ひらけ~、ごま。

ちょうどそのとき、オクサンが、僕らを氷室の出口まで連れてきてくれていた。


けれども、そのせいで、オクサンは光を浴びてしまった。

僕らを助けなければ、ずっと氷室の奥にいて、楽しく暮らしていられたかもしれないのに。

そのことを思い出すと、僕は今も、ちょっとだけ、胸がずきっとするんだ。


考えてみれば、おかしな話なんだ。

僕らフェアリー族はさ、オークを見たら、とにかく滅ぼせって。

もう至上命令みたいに思い込んでいるのにさ。

なのに、オクサンが光を浴びたことに罪悪感を覚えるなんて。


まさか、情が移ったとでもいうのか?

いや、まさかね。

そんなはずはないんだけど。


どうしてか、ドメニカはそのことをそんなには悲しまなかった。

氷室の奥で、ふたりは一緒にアイスを食べながら、たくさん、話したらしい。

オクサンと話した、なんて、夢でも見たんじゃないの、って、前の僕なら思ったんだろうけどさ。

あのとき、僕がオクサンにぶら下げられて、運ばれてたときにさ。

ふたりが会話しているのを、確かに、聞いてるんだよね。

もっとも、あれも夢だったんじゃないかって、その考えも捨てきれないんだけどさ。


オクサンは言ったんだってさ。

自分はあと一つ、なにかいいことをすれば、赦されて、次に行けるんだ、って。

今はそのチャンスを待っているんだ、って。

赦されるとき、自分は消えてしまうだろうとも言ったそうだ。

けど、それは、必要なことだから、どうか悲しまないでほしい、とも。


なんだろう。

オークにはオークにしか分からない事情、みたいなものもあるのかもしれない。

僕らが、オークを見たら滅ぼさないといけないと思ってるみたいに。


あのとき、オクサンは、アリガト、って言って、笑った。

オークが笑うのなんて、初めて見たけど。

確かに、笑ったんだ。


オクサンの布の下には、オークの涙がひとつと、小さな金属の棒が一本、落ちていた。

棒は真っ黒く変色して、ところどころ白錆が浮いていて、いったいなんなのか分からなかった。

けど、大きさといい、これはたぶん、あのチーズのなかから出てきたやつなんじゃないかな。

あのとき見たのは、やっぱり、見間違いじゃなかったらしい。


ホビットたちはそれを全部大事に拾って、小高い丘の上に塚を作って埋めた。

そこは一日中日当たりがよくて、新しく作った畑がよく見渡せる場所だった。

オクサンは、ここからずっと、郷のみんなを見守ってくれているだろう。

今度こそ、明るい光をたっぷりと浴びながら。


オクサンは、郷の大事な子どもを救ってくれた。

それから、郷にたくさんの畑をもたらしてくれた。

文句なしにこの郷の英雄だ。


オークが英雄だなんて、なんだかやっぱり違和感を感じるけど。

この郷のホビットたちにとっては、オクサンはやっぱり敵じゃなくて、郷の仲間だったんだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ