28
昼間は眠って、夜は畑仕事を手伝う。
そんな平和な日々はしばらく続いた。
フィオーリはどうするつもりなのか、分からないままだったけど。
思い切って聞き出す勇気は、誰にもなかった。
ああは言ったけど、みんな、フィオーリとこのままお別れってのは、やっぱり淋しかったんだ。
シルワもグランも、旅の目的はそれぞれあるみたいだったけど。
なんとはなしに、ずるずると、四つ葉の郷にお世話になっていた。
賑やかなホビット式の食事にも慣れたころ、ある日唐突にばあちゃんが言った。
「明日から満月休みだからね。
明日は、フィオーリと仲間たちの歓迎会を、もう一回しよう!」
うん?
満月休み?
それにしても、フィオーリと仲間たちって、そのネーミングはなに?
それに、歓迎会なんて、そう何回もするものなの?
・・・だめだ。
ツッコミどころが多すぎて、口が追いつかない。
仲間たちもみんな同じ気持ちだったのか、きょとんとしている。
その周りで、ホビットたちは、みんな、きゃあ、とか、わーい、とか歓声をあげていた。
「楽しみだねえ、満月休み。」
「今回は、お客さんもいるし、いつもより、もーっと楽しみ。」
「兄ちゃんもいるし。みんなでゲーム大会とかしよう!」
「いいね、ゲーム大会!」
「ねえねえ、ゲーム、一等になったら、なにかもらえるようにしようよ!」
「なにがいい?」
「なににしよう?」
「兄ちゃんと一日一緒にいられる券!」
「ああ、それいいね。」
「それにしょう!!」
・・・って、おいおい。
フィオーリ、いつの間にか君、勝手に景品にされてるよ?
「すいません。
みんな、何か言い訳があれば、とりあえず、騒ぎたいだけなんっす。
まあ、大目に見てやってください。」
フィオーリはわざわざそう言って仲間たちに頭を下げた。
いや、謝るほどのことじゃないけどさ。
それにしても、ホビットのお祭り好きは折り紙つきだね。
毎日の日常のご飯からして、わいわい大騒ぎなんだけど。
この上、理由をつけてまだ騒ぎたいなんて。
いやまあ、嫌いじゃないけどね。
「満月休みとは、いったい、なんなのですか?」
基本的なことをシルワが尋ねた。
そう、それだ。
それ、僕も聞きたかった。
「ああ。
満月を挟んで七日間は、月が明るすぎるんで、オクサンを外に出さないんっす。
だから、みんなも一緒に仕事を休むんっすよ。」
フィオーリはそう説明した。
「最低限の水やりやら家畜の世話なんかは、当番でやるんっすけど。
それ以外は、みんな休みっす。」
へえ。
それはまた、面白い習慣だねえ。
オクサンのいるこの郷ならではなんだろうけど。
しかし、フィオーリ、君もいつの間にかすっかりそちら側の人っぽくなってしまったね。
まあ、生まれ故郷なんだし、当たり前と言えば、当たり前なんだけどさ。
「郷の習慣に無理やり合わさせてしまって、みなさんにはご迷惑でしょうけど。
せっかくですから、楽しんでください。」
フィオーリの母さんはそう言ってほほ笑んだ。
「いえいえ、そんな。
わたしたちこと、長逗留して、ご迷惑をおかけしてしまって・・・」
シルワは恐縮したように身を小さくする。
それに母さんは鷹揚に首を振った。
「そんなこと。
迷惑だなんて、誰も思ってやしませんよ?
みなさんさえよければ、このまま、ずっとこの郷にいてくださればいいのにと思ってます。」
「そんときはねえ、ちゃんとみんなにも、お家、作ってあげるよ?」
ドメニカがそう言って話に割り込んできた。
「オクサンのお家の隣でいい?
って、オクサン、お家に帰ってきたこと、一度もないけどさ。」
「みんな一緒に住むの?
それとも、別々?」
「別々じゃ淋しいよね?」
弟妹たちも次々に入ってくる。
「でも、シンコンサン、だけは、別にしないと、なんだよ?」
誰かが訳知り気にそう言ったら、みんな、きゃあ、とか、ひゅ~、とか奇声を上げた。
「そうそう!
兄ちゃん、シンコンサンだもんね?」
「え?なに?シンコンサンって?」
「シンコンサンは、あれだよ、お嫁さん。」
「ええっ、兄ちゃん、お嫁さんくるの?」
「やったあ、兄ちゃんのお嫁さんだあ!!!」
えっ?とマリエが目を丸くする。
そら、急にそういう話になったら、困惑するよね。
ところが、弟妹たちがいっせいに見たのは、なんと僕だった。
「妖精さん!いつ、お嫁にくる?」
「ドレス、どんなのにする?」
「妖精さん可愛いから、きっとドレス、似合うよ!」
「やっぱ、マメスカだよね?」
「なに?マメスカって?」
「マメスカはもっとすらっと背の高い人がいいんだよ。」
「妖精さんはフリルだよねえ!」
「だから、マメスカって、なによ?」
「お豆みたいなスカート、じゃない?」
「お豆みたいなスカート?それって、なに?」
「だからさ、マメスカじゃなくて、フリル!」
「妖精に人魚着せてどうすんだよ!」
「羽生えた人魚になっちゃうだろ!」
「いやだから!」
わいわいわいわい。
がやがやがやがや。
いや、君たち、ちゃんとした会話になってないよ。
いや、それ以前に前提が大幅に間違ってるけど。
「なんで、僕がフィオーリのお嫁さんなの?」
呆れたついでに、思わず真面目に聞き返しちゃったけど。
そしたら、弟妹たちはいっせいに黙って、ひゅ~ひゅ~、と奇妙な声を上げた。
「だってさ、兄ちゃん、妖精さんにアイスあげてたでしょう?」
「兄ちゃんが誰かにアイスあげるなんて、見たことないよ!」
「アイスだけは、どんなにちょうだいって頼んでも、ぜーーーーーーったいにくれなかったのに!」
「そんなことで?!」
「そんなことじゃないよ!大事なことだよ!」
「あの兄ちゃんなんだよ?」
「アイスクリームなんだよ?」
「・・・フィオーリ、君の食い意地のせいで、僕が大迷惑だよ。」
ちらっと文句を言ったら、フィオーリは、へへっ、と笑った。
「だいたいさあ、なんで僕がお嫁さんなんだよ?
僕、僕って言ってるでしょ?」
「知ってるよ!僕っ子、ってやつなんでしょ?」
「ボクッコってなに?」
「自分のこと、僕っていう子のことだよ!」
なんでそんな奇妙な知識だけあるんだよ?
「違う!
だいたい、僕がなるなら、お嫁さんじゃなくて、お婿さん!
ドレスじゃなくて、タキシードだよ!」
思わずつられて、!、つけてしゃべっちゃったよ。
そしたら、弟妹たちは、びっくりしたようにいっせいに押し黙った。
あ、子どもを驚かせちゃったかな?
ちょっと後悔しかけたけど、弟妹たちは神妙な顔をして頷いた。
「そっか。タキシードがいいんだ。」
「それもありだよね。」
「妖精さんなら、きっと似合うよ。」
「けど、兄ちゃんにドレスはきっと似合わないだろうなあ。」
「ドレスも見たかったんだけどねえ。」
・・・いや、そうじゃなくてね?
「フィオーリの好きな人は僕じゃないよ。
君たち、まずそこからおかしいんだって。」
「「「「「「「ええっ?」」」」」」」
見事に全員、揃ってたよ。
「「「「「「「アイス、あげたのに?」」」」」」」
いや、それは関係ないよ。
「はいはい、みんなみんな、妖精さんが困ってるから、そのくらいにしようね?」
フィオーリは弟妹たちをまとめてどこかへ連れて行く。
思いっきりにらんだら、てへっ、と笑った。
ちょっと、なんだよ、その、てへ、は?
ちゃんとみんなには説明しておいてよね?
ちらっとマリエを見ると、マリエも一緒に笑ってた。




