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マリエの決意の前に、僕らにはもう、なにも言うことはない。
あとはただ、大切なマリエのために、できることをするだけだ。
シルワとグランは黙って一度だけ顔を見合わせた。
ふたりとも多分、僕と同じことを思っていたんだろう。
「まあ、これは、なんですか?」
ふと、シルワはマリエの大きくした種の山を見つけて驚いた声を出した。
「これはまた、立派な種ですねえ。」
手に取ってあちこち眺めながら、感動したように言う。
マリエは困ったように下をむいて、小さな声を出した。
「あの、それは、わたくし、失敗してしまいまして・・・」
「まあ!失敗?
わたしにはそうは見えませんが。
ここまでの品種改良、普通なら、何十年もかかるところでしょうが。
それを一瞬で成してしまえるとは、流石、聖女様。」
いや、そこまで持ち上げなくてもいいと思うけどね?
「せっかくやし、植えてみよか。」
グランはちょっと苦笑してからマリエに言った。
「あっちのほうの畑、ちょっとあいてたかな。
普通のと混ぜて、なんかまずかったらあかんし、ちょっと離れたところに植えるか。」
「聖女様のお作りになったものに、まずいことなど、あるわけないじゃないですか?!」
「・・・まあ、そうやけどね?
ほら、水やりとか、肥料とか、他のと条件、違うかもしれんやろ?」
「・・・確かに。」
グランにかみついたシルワも、正論を返されて、おとなしくうなずいた。
「では、早速、まいりましょう、聖女様。」
急き立てるようにマリエを立たせる。
「そや、嬢ちゃん、そのクワの使い心地、試してみてや?
今度こそ、あんたに負けへんクワ、作ったつもりやねんけど。」
グランもマリエのクワを指さして言った。
ふたりとも、いつもより、少しばかりわざとらしく元気なのは、ちょっと黙っておいてあげるかな。
他のとは少し離れた場所に、マリエの失敗作、を植える。
なにせ種が大きいから、ひとつずつ、丁寧に土を掘って植えていった。
植え終わった畑に向かって、シルワは何やら呪文を唱える。
すると、その一画に、さぁぁぁぁぁっと、優しい雨が降った。
「どうか、この子たちが、立派に育ちますように。」
マリエは土の上にひざまずいて、祈るようにつぶやいた。
シルワの降らせた雨の粒が、ヒカリゴケの淡い光を反射して光る。
それは、畑がマリエの祈りに応えたように見えた。
「・・・どないしよ。ワタシ、ちょっと感動してもた。」
ぼそり、とグランがつぶやいた。
グランでなくても、この光景にはみんな感動してたと思うね。
この種、実は巨大なかぼちゃになって、あとあと、それはこの地の名物になる。
人が抱えきれないほど大きな実には、何故か、ひとつひとつ奇妙な顔がついていて。
ちょうど収穫の時期、真夜中になると、いっせいにけけけと笑いだす。
その様子が面白いって、話題になってさ。
収穫の時期になると、かぼちゃ畑見物に大勢の人が押しかけるようになったんだ。
人の好いホビットたちはお客さんも大好きだからね。
心を尽くしてもてなすもんだから、評判は評判を呼んで。
四つ葉の郷は、そのうち、ちょっとした人気の観光スポットになるんだ。
笑うかぼちゃなんて、食べられないかと思うんだけど、食べないでいると、今度は泣き出すんだ。
それがまた面白いなんて、通、もいるらしいけどね。
泣いたかぼちゃは、ちょっと苦くなって、味は落ちるらしい。
やっぱり、かぼちゃは笑ってるうちに食べたほうがいいよね。
収穫された大量のかぼちゃは、もちろん、ここの特産品だ。
新鮮なやつなら、生のままスライスしてもいけるらしい。
あとは、オーソドックスに煮たり、焼いたり、蒸すのもありだね。
炒め物にも、スープにも、大活躍。
パンプキンパイや、パンプキンプリン、パンプキンジュースなんかも作ってる。
そういうのは、氷室で冷凍しといて長期保存もおっけー。
魔法便で遠隔地にも送れるって話だ。
四つ葉印の冷凍パンプキンパイは、年末の贈答にもぴったり、なんてさ。
ずいぶん後になると、そんなことにもなるんだけど。
まあ、それはまた、別のお話。
とにかくそれはこのときの、聖女様の失敗作、から始まったんだよ。
ちなみにこのかぼちゃ、聖女の奇跡、って名づけられたんだってさ。




