25
ドメニカのおかげで種の選別もすっかり上手くなった。
そしたら、もうひとりでできるよね?と言って、ドメニカは行ってしまった。
ドメニカと入れ替わるようにして、マリエがやってきた。
「ミールム、なにかわたくしにお手伝いできることはありませんか?」
「あれ?あっちで畑、手伝ってたんじゃないの?」
さっきまであっちでわいわい楽しそうに見えたんだけど。
「お師匠様が、ミールムが忙しそうだから、あっちを手伝ってくるようにとおっしゃいまして。」
「え?僕、別に忙しくないけど・・・」
うっかり軽く言ってしまってから、これはしまったかなと思った。
マリエはちょっと迷うような、困ったような顔をして言った。
「・・・でしたら、わたくしはあちらに・・・」
引き返そうとしたマリエを、僕はあわてて引き止めた。
「あ。やっぱ、忙しい、かな。手伝ってよ?」
はい!と嬉しそうに言ってマリエは振り返る。
あー、これはあれだ。
また、何か壊して、グランに追っ払われたんだろう。
「じゃあさ、この袋の種の選別、やってるんだけどさ。」
僕は少し脇に譲って、マリエの場所をあけてあげる。
そこにしゃがんで覗き込むマリエに、早速、ドメニカに教えてもらった技を披露した。
「まあ!楽しそうですわ。」
そっか。
マリエはこういうの、楽しそうって思うんだ。
「郷の一番おチビの仕事なんだってさ。
おチビがやると、種に命の力が移るんだと。」
まあ、その辺はマリエだとなんか、いい力が宿りそうだよね。
「分かりました。
おおきく おおきく おおきくなあれ。
そう祈るのですね?」
マリエは種をひとつ取ると、祈るように手を合わせてそう唱えた。
その途端、マリエの手の中の種が、いきなり、ばん、と大きくなった。
「あ?あれ?」
突然大きくなった種にびっくりしてあたふたするマリエが可愛い。
「いや、あの、種を大きくするんじゃなくてね?」
指先ほどの種は果実ほどの大きさになっていて、僕は思わず笑ってしまった。
「そう、ですよね?」
情けなさそうな顔をしてマリエはこっちを見る。
「まったく。
マリエの魔法っていつ発動するか分からなくて困るねえ。」
マリエの魔法はとても不安定で、ちゃんと呪文も唱えていないのに突然発動したりする。
かと思えば、ちゃんと呪文を唱えていても、いっこうに発動しないこともある。
一番困るのは、ときどき、狙ったのと違う魔法が発動すること。
なので僕らの間では、マリエに魔法は使わせないのが暗黙の了解だ。
「魔法を使ったつもりはなかったのですが・・・」
マリエはしょんぼりと下をむいた。
「祈りは神官にとっては魔法と同じものだからね。
まあ、いいじゃない。
試しにこの種、植えてみたら、おっきな実がなるかもよ?」
僕はマリエの手から取った種を大事に種袋にしまった。
「・・・わたくしは、やはり、お邪魔でしたね。」
ぽつりとマリエの口からそんな言葉が転がり出て、僕は驚いて振り返った。
「え?なんで?」
「なにをやっても、わたくし、うまくできませんもの。
フィオーリさんに頼まれた荷運びは、落としてばらまいてしまって。
その拍子に転んで足をくじいたのは、シルワさんに治していただいたのですが。
シルワさんはそれで力を使い果たして、今は休んでおられます。
お師匠様はわたくし用にクワを三つ作ってくださったのですけれど。
それも結局、全部壊してしまって。
ミールムのお仕事も、結局、お邪魔になっていますよね?
本当に、申し訳ありません。
わたくし、むこうへ行っておりますわ。」
それはまた、いろいろとやらかしてきたねえ。
すごすごと行こうとするマリエの手を、僕はぎゅっと捕まえた。
「なら、ここにいなよ。
大丈夫。邪魔じゃないよ。」
「けど・・・」
「僕がここにいてほしいんだ。
君がいてくれたら、僕が嬉しいから。」
マリエは目を丸くして僕をじっと見た。
あ、ちょっと、これは、まずった、か?
「あ。いや、え、っと、その・・・。
それは、その、そういうことじゃ、なくて、その・・・」
なに焦ってんだ、僕。
「まあ。
ドメニカに置いて行かれて、淋しかったのですね?」
「へ?
あ・・・。
うん。そうなんだ。」
とりあえずは、そういうことにしておくか。




