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せっかく手伝いにきたのに、ぼんやり眺めてるだけってのも退屈だし。
僕らはホビット族に混ざって働くことにした。
シルワはああ見えて、いろんな知識の宝庫だ。
グランはなんでも作るし、なんでも直す名人だ。
マリエはそそっかしいけど、ホビット十人分くらいの力がある。
みんなそれぞれお役に立てるんだよね。
けどさ、こういうとき、僕は困るんだ。
畑作りに役立つ知識なんて、持ってないし。
道具作ったり直したりなんて、できるわけない。
マリエみたいに力持ちってこともないし。
みんな忙しそうだし、声をかけるのもなんだか気が引ける。
というわけで、ぼんやり畦道をうろついていた。
すると、フィオーリの弟妹たちは種のいっぱい入った袋を持ってきた。
このなかから黒くなってるのを除けろって言われたんだけど。
え~、この袋いっぱいの、これ、全部見るの?
仕方ないから一粒ずつ取り出してやり始めたけど。
やってもやっても終わらない。
こういう地味な仕事も、あんまり得意じゃないんだよね・・・
それにしても、ホビットってのはすごい人たちだよね。
わざわざ畑仕事を夜にやるのも、あのオクサンに合わせるためだし。
オークと共存しようと考えるなんて、いくら広い世界でも、ホビットだけだろう。
順応性が高くて臨機応変。だから、この世界のあらゆる場所にホビットの郷はある。
困難があっても、ちょっとやそっとではへこたれなくて。
仲間たちで力を合わせて、困難を乗り越える。
たったひとつ、ホビットが譲らないのは、仲間を決して見捨てないってこと。
一度でも仲間だと認めた相手には、何があってもそれを貫くってこと。
器に合わせて形を変える。
けれど、決して、濁りはしない。
ホビットは、清くて、強くて、深い種族だ。
ただの呑気者の集まりなんかじゃないって。
まあ、知ってたけどさ。
それにしてもここまでとは思わなかったよ。
せめて、彼らの平和が、このままずっと続くように。
あのオクサンが狂暴なオークの本性を表すことのないように。
祈ることしかできないけど。
もっとも、神官でもない僕の祈りなんて、効果あるのかどうか、よく分かんないけど。
「妖精さん、さぼってないで、働かないとだよ?」
そう言う声がして、いきなりドメニカが僕の隣にしゃがみこんだ。
「ぼんやりしてたら、夜が明けちゃうよ?」
悪かったね、ちょっと考え事してただけだよ。
単純作業って退屈でしょ?
一粒ずつ種を見ていた僕の手元を見て、ドメニカは、わざとらしく、はあ~、とため息を吐いた。
「こうやってね、手のひらに広げて、悪いのだけ除けていくんだよ。」
そう言って、器用に種の選別のお手本をやってみせる。
その手際のよさにちょっと驚く。
「へえ、上手だね、ドメニカ?」
「これ、一番おチビの仕事だからね。」
悪かったね、一番おチビよりも役に立たなくて。
「おチビにはさ、命の力がいっぱいあるんだって。
だからさ、おチビの手のひらに広げたら、種にもその力が移るんだ。」
ドメニカはこの仕事に誇りを持っているのか、自慢気に言った。
「・・・それって、僕にもその力がある、ってこと?」
「なにせさ、妖精さんは、アイスをあーーーんなにおっきくできるからね?」
なるほど。そういう期待されてたわけだ。
「兄ちゃんもね、小さいころはこの仕事をしてたんだって。
兄ちゃんのより分けた種は、すっごくよく芽が出たんだって。」
「へえ~、フィオーリもやってたのか。」
歴代おチビたちが、みんな、そう言われてやってきたんだろうなあ。
「ねえ、知ってる?フィオーリってさ、この郷の昔の名前なんだよ?」
「へえ、そうなの?知らなかったよ。」
ずっとホビットの郷とか、フィオーリの故郷とか言ってたけど。
そら、ちゃんと郷の名前もあるよね。
「兄ちゃんは、郷の宝なんだ。
だからね、郷の古い名前をつけたんだって。」
「郷の宝?」
そういや、歓迎会のとき、長老がそんなことを言ってたっけ。
あんまり気に留めてなかったけど。
「仲間はみんな宝ってことじゃないの?」
「仲間はみんな大事だけどさ。
兄ちゃんはちょっとだけ特別な子どもなんだよ。」
「特別な子ども?」
「あのね、兄ちゃんが生まれる前は、ずぅっと三十年、この郷には子どもが生まれなかったんだって。」
「へえ~。そんなことあるんだ。」
確かにそういえば、フィオーリより少し年上の若いホビットは見かけない。
いるのはフィオーリより幼い子どもたちか、大人のホビットだけ。
「でも、今は、ドメニカたちとか、子どももたくさんいるよね?」
「兄ちゃんが生まれてから、この郷にはまた子どもが生まれるようになったんだ。
だから、兄ちゃんは特別なの。」
「へえ~。」
それから延々、ドメニカの兄自慢が始まった。
うん。
ドメニカがどれだけフィオーリのことが好きかってことは、よく分かったよ。




