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畑に着くと、オクサンがものすごい勢いで畑を耕しているところだった。
「「「「「「「「「「かあああああああっ!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」
もはや、誰の叫びかも分からない。
ときどき、奇声をあげながら、がふがふと畑は耕されていく。
ホビットたちも嬉しそうに、いっしょになって奇声をあげていた。
しばらくすると力尽きて、オクサンは、どさりとその場に座り込む。
そうすると、弟妹たちの誰かがチーズの塊を渡す。
オクサンはものすごい勢いでそれを平らげ・・・以下、繰り返し。
なんともすごい様相だった。
「ここいらの畑は、みぃんなオクサンが耕したんだそうっす。」
フィオーリは見渡す限りの畑を指さして言った。
「元々この辺りは土が固くて、畑には適していなかったんっす。
けど、オクサンの力なら、こんなところも十分に耕せるかな、って。」
それ、思いついた人がすごいよ。
オクサンの耕したところに、ホビットたちは丁寧に畝を作って、種をまいていく。
畦のヒカリゴケの世話をしているホビットたちもいる。
うまい具合にみんな仕事を分担してるところが、やっぱりホビットだ。
真っ直ぐ続く畦道にほんのり光るヒカリゴケがきれいだ。
空には細い細い月。
三角帽子で働くホビットたちも妙に絵になって、幻想的な光景を醸し出していた。
「オクサンってさ、この郷を襲ったオークなの?」
「どうでしょうね?それは分からないっす。
ただ、郷を復興しようってなったときに、氷室の点検をしていて、見つけたんだそうっす。」
まあ、あそこは無限に食料を保存してある場所だからさ。
なにかの拍子にオークがあそこに入り込んだとして。
幸せ満喫してる最中に、そのまま凍り付いたんだとしても、おかしくはない。
それにしても、三百年前のチーズしか食べないってのは、いったいどういう理由?
「オクサンのことはいろいろと分からないことも多いらしいんっすけど。
なにせ、自分のことを話してはくれませんからね?」
確かに、自分語りをするオークとか、見たことないね。
「最初は殺してしまえって言う人もいたんだそうっす。
殺さないまでも、オークと一緒に働くなんて無理って人もね。
けど、うちの家族は、このオークを郷の仲間にするって言い張ったんだそうで。」
それって、フィオーリの母さんが言ったって、あれだよね?
「なにせほら、うちは、おいらが攫われてたでしょう?
他の家には、家族が攫われたり、怪我したりってことはなかったっすからね。
一番痛い目に遭った家がそう言い張るならって、まあ、みんな、しぶしぶ、ね?」
しかし、フィオーリの母さんってのは、偉いよね。
僕なら同じことはできないと思うよ。
今でもやっぱりまだ、このオーク、このままにしておいていいのかなって思ってる。
「オークと共存なんて、そんなことができるなんて、信じられないよ。」
「事実は小説より奇なりと言いますからねえ。」
のんびりとシルワがそう言った。
「まったくや。
ワタシもあちこち旅してきたけど、こんな郷、見たんは初めてやで。」
グランも腕組みをして唸っていた。
「あの地下迷宮のヒカリゴケも、オクサンのために作ったんやろ?」
「だそうっす。
あれだけの大工事っすから、多分、反対してる人たちも手伝ってくれたんだと思います。」
「明かり取の窓は埋めて、ヒカリゴケの通路を作って。
それだけのことをたったひとりのオークのためにして差し上げるのですね。」
マリエはホビット族に感動したようだ。
「たったひとりの仲間のために全員が力を貸すのが、ホビット族の誇りっすからね。」
フィオーリはにこにことそう言い切った。
けど、その仲間ってのに、オークまで入るってとこが、ちょっと僕には分からない。
分からないんだけど、でも、今ここで、無理やりオクサンに光を浴びせることも、やっぱりできない。
「郷のなかにオクサンの家もあるん?」
「ああ、ちゃんと作ったんだそうっすよ。
もっとも、そっちはオクサンのほうが気に入らなかったらしくって。
いっつも、氷室に行ってしまうんだそうっす。」
「そのたんびに凍り付くのに?」
「ええ。
なので、お湯持ってオクサンを迎えに行くのがうちの弟妹たちの仕事になった、と。」
なるほどね。迎えに行かないといけないわけだ。
「オクサンは郷のみなさんを気遣っておられるのでは?」
「オークがそんな気、遣うかな?」
「それよりも、三百年前のチーズのほうに理由があるんじゃないの?」
僕が言うと、みんな、そういえばそうだ、と頷いた。
「なにか、特別なチーズだとか?」
「どうでしょう?
今と作り方とかは変わってないと思うんっすけど。」
「お食事のときにいただいたチーズは確かにとても美味しかったですわ。」
「美味しいチーズなら、なにもわざわざ古いやつ食べんでも、手前にぎょうさんあるやん。」
確かにその通りだ。
百年前のだってちゃんとあったんだから。
三百年前のも百年前のも、どっちも氷漬けになっててかちんこちんだけど。
何か、違いとかあるのかな?
「熟成の仕方が違うとか?」
「オークって、そんな味の違いとか、こだわりあるん?」
腐っていても、異臭がしても、基本、オークはなんでも食べる。
そしてそれでからだを壊したりもしない。
三百年前のチーズを食べて、元気にかあああっ!って動いてるしね。
もっとも、うちの聖女様のふるまったスープは、オークたちを一日動けなくしたらしい。
・・・どんなスープだったんだ、って、いろんな意味で恐ろしい。
「・・・その理由は、オクサンにしか分からないのかもしれませんね。」
「オークは自分のこと話したりせえへんからなあ。」
グランはさっきのフィオーリと同じことを言って肩をすくめた。




