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四つ葉の郷の物語  作者: 村野夜市


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13

宴もたけなわ、といったところで、ようやくばあちゃんがフィオーリのところへやってきた。


「フィオーリ、たくさん食べてるかい?」


たくさん、なんてもんじゃないくらい食べてたけど、フィオーリはにっこりして言った。


「ご馳走はたくさん食べたけどさ。

 やっぱ、ばあちゃんのあれがなきゃ、食べた気がしないよ。」


・・・あんなに食べたのに、まだそんなこと言えるのか。

フィオーリというのはなかなかすごいやつだ。


ばあちゃんも心得ているように、後ろ手に隠したお盆を差し出した。


「お前は小さいころからいっつもそうだね。

 ほら、大好物だよ。」


それはベリーのソースのかかったアイスクリームだった。


おおー、という賞賛の声が沸き起こる。

そのくらい見事で、美味しそうなデザートだった。


ホビット族って、あんまり魔法は得意じゃなかった気がするけど。

氷の魔法の使えるホビットでもいるのかな。

それとも、魔法のかかった道具があるとか?


「でっかい氷室があってね、クリームの入ったバケツをそこに入れておくんです。

 途中で何回も何回もかき混ぜないと、こんなおいしいアイスクリームにならないんっすよ。」


僕の疑問に答えるようにフィオーリが教えてくれた。


「へえ~、氷室?

 それはまた、珍しいものがあるもんだ。」


「でも、ものすごく手間がかかりますからね。

 アイスクリームを食べられるのは、本当に特別な日だけなんです。」


その特別なご馳走は、ちゃんと僕らの分もあった。

ひとつずつ、小さな銀のスプーンが添えてある。

いつの間に作ったのか、スプーンには僕ら、それぞれの名前が彫ってあった。


これって、この家の子どもたちがみんな持ってるスプーンだよね?

なんだか僕らも、この家の一員として迎え入れてもらってるみたいな、そんな気がして。

その暖かさに包み込まれるみたいで、胸がじんとなった。


なるほど、これは確かに特別だ。

けど、それは僕たちの分だけで、他の人の分はなかった。


「遠慮しないでください。

 みなさんのために作ったんですから。」


そう言われてもね。

小さなドメニカが、ちらちらとこっちを見ているのが目の端に映るとね。

僕はちょっと苦笑してから、目の前のアイスクリームに向かって呪文を唱えた。


「おおきく おおきく おおきくなあれ~」


歌いながら、目の前のアイスクリームをふくらませるように手を動かす。

ドメニカが目をぱちぱちさせながらこっちをじっと見つめる。

僕はもっぺん笑ってから、さらに呪文を唱えた。


「おおきく おおきく おおきくなあれ

 ここにいるすべての子らに

 精霊の恵みのありますように」


子どもの望みをかなえるのは、妖精の魔法の得意とするところ。

それに、さっきあんなにご馳走を食べたから、僕の魔力も十分だった。


ずもんっ


手の動きにつられるように、アイスクリームが大きくなる。

組成を変えないように大きくするのはなかなか難しい技なんだけどさ。

まあ、この僕なら、このくらいは、軽いよね。


器も合わせて大きくしないといけないけど。

スプーンは僕専用のだから、ちょっと避けておこうっと。


一度大きくなり始めたアイスは、ずんっ、ずんっ、ずんっ、と大きくなっていく。

周りにいたホビットたちは、驚いたように、みんな目を丸くしている。

アイスクリームは、あっという間に天井に届くほどに大きくなった。


「さあ、みんな、スプーンを持って?」


これなら一口ずつは行き渡るかな、という大きさになったところで、僕はそう号令した。


「よーい、どん!」


わああああ、という歓声と共に、大人も子どもも一斉にアイスに群がった。

でも、流石ホビット。

喧嘩どころか、混乱することもなく、みんな仲良く分け合っている。


「ミールム。」


名前を呼ばれて振り返ると、にこにこ顔のフィオーリがいた。


「みんなのために、どうも有難う。」


「どういたしまして。」


お礼を言われるようなことでもないけどね。

それでも、お礼を言われると、気分のいいもんだね。


「でも、ミールムの分、なくなっちゃいましたね?」


「いいよ、別に。

 僕はもうお腹いっぱいだし。」


流石に、あのホビットのなかに混ざって参戦する気にはならないね。


「でも、せっかくのばあちゃんのアイス、ミールムにも食べてもらいたいっす。」


フィオーリはそう言うと、自分の分のアイスクリームの皿を差し出した。


「おいら、ちょっと食べちゃったっすけど。

 よかったらこれ、食べてください。」


僕は差し出されたアイスをじっと見た。

フィオーリだって、これは食べたかったと思うんだ。

でも、分けてくれる気持ちがとっても嬉しかった。


「有難う。」


僕はそう言ってから、さっき避けといた自分専用のスプーンを取り出した。


一口すくって食べたら、そのアイスは、今日食べたご馳走のなかでも、とびきり一番おいしかった。


「フィオーリも、一緒に食べようよ?」


「いいんっすか?」


「もちろん!」


僕がそう言うと、フィオーリも嬉しそうに銀のスプーンでアイスをすくって食べた。




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