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後に取り残された僕らに、ばあちゃんホビットがにこにこと言った。
「みなさん長旅でお疲れでしょう?
フィオーリ、客間に案内して差し上げなさいな。」
「そうしな、フィオーリ。
シーツはほら、いつものところにあるから。
みなさんの分、持っていきなさい。」
じいちゃんホビットもそう勧めてくれた。
「え?でも、みなさんこれからお仕事だというのに、わたくしたちだけ休ませていただくのは・・・」
躊躇うマリエに、ばあちゃん(いちいちホビットをつけるのは以下省略!)は言った。
「みなさんは昼間、旅をしてこられたのですもの。
夜はしっかり休まないと。
なに、心配はいりませんとも。
わたしたちは、昼間、ちゃんと休んでおりますから。
明日の朝には皆も帰ってくるし、歓迎会の支度もできておりましょう。」
「そうそう、遠慮はいらない。
友だちには親切にするのが、ホビット族の誇り。」
じいちゃんもにこにこと言った。
仲間たちはそれでも遠慮して互いに顔を見合わせている。
「悪いけどさ、僕、疲れたから、休んでいいってんなら、休みたい。」
僕はきっぱりと主張した。
こんなとこ遠慮してたってはじまらないでしょう?
「休まないと明日まともに動けなくなるし。
みんなだって、疲れてるんじゃないの?」
「・・・おいらは、大丈夫っすけど。」
フィオーリはなんだか名残惜しそうだ。
まあ、その気持ちは分からないでもないけど。
「フィオーリは嬉しくて興奮してるかもしれないけどさ。
だからこそ、今はしっかり休んで、明日?の歓迎会にはばっちりの体調で参加しないと。」
「そうだよ、フィオーリ。
お友だちのおっしゃるとおりだ。
いいから、ここはばっちゃんたちに任せて、少し眠っておいで?」
ばあちゃんはフィオーリに優しく言った。
フィオーリはちょっと困ったようにばあちゃんを見たけど、すぐに、素直に、うん、と笑った。
「・・・なら、そうさせてもらおか?」
うちのご意見番が宣言する。
グランが言うと、不思議に誰も反対はしない。
「手厚いおもてなし、痛み入ります。
ろくにお手伝いもせずに、申し訳ありません。
少し休ませていただきましたら、また、なにかお手伝いさせてください。」
シルワは丁寧に頭を下げた。
フィオーリに案内されて客間に向かう。
ホビットの家ってのは、年がら年中お客のあるもんらしい。
客間ってのも、大小、いろいろ揃っている。
結局、僕らは、マリエだけ部屋を分けて、後は全員、一緒の部屋にした。
幸い、ベットの四つある部屋があって、ちょうどよかった。
マリエはひとりだけ分けられて淋しそうだったけど。
シーツはセルフサービスらしい。
物置からフィオーリが運んできたのを、みなそれぞれ自分のベットに敷く。
寝床を拵えながら、僕はフィオーリに尋ねた。
「ここのホビットって、前から夜、働いていたの?」
フィオーリは首を傾げながら答えた。
「そんなことはありませんよ?
おいらのいたころは、昼間、働いてました。」
「あの畑も、夜の間に作っているんでしょうか?」
シルワも話しに混ざってきた。
「そうか。それであのヒカリゴケの畦道やね?」
グランの意見に、全員が、なるほど、と頷いた。
「あの作物って、夜の間に世話をすると、なんかいいことあるとか?」
「いや、そんなことはないやろ。
別に、特別変わった種類にも見えんかったし。
普通に、昼間世話するほうが多いんと違うかな。」
うーん、と全員唸る。
「さっき、どこの家に行っても、誰も返事しなかったのって、もしかして、みんな寝てたとか?」
「よくお休みだったんですねえ。」
「ホビットって、ぐっすり眠ってると、なかなか起きないんっすよ。」
うん。それは、フィオーリがそうだからよく知ってる。
「どこの家も鍵、開けっ放しだったよね?
ちょっと不用心なんじゃないの?」
「そこは、昔から、そうっすよ。
どこの家も鍵、かかってたことありません。」
なるほど。そこはやっぱりホビットだ。
「こんな地下の郷やし、余所者は入ってけえへんのやろ。」
「その大元の郷の入口も開けっ放しなんだけど。」
「ホビットさんたちって、おおらかなんでしょうね。」
・・・そういう問題か?
旅の埃にまみれたからだを、洗い立てのシーツに横たえるのは、ちょっと気が引けた。
けど、柔らかくて清潔な寝床の魅力には、抗いがたいものがあった。
いろいろと気になることも多いけど、疲れには勝てない。
久しぶりのまともな寝床に、気が付くと、僕ら全員、横になってぐっすりと眠っていた。




