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四つ葉の郷の物語  作者: 村野夜市


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10

後に取り残された僕らに、ばあちゃんホビットがにこにこと言った。


「みなさん長旅でお疲れでしょう?

 フィオーリ、客間に案内して差し上げなさいな。」


「そうしな、フィオーリ。

 シーツはほら、いつものところにあるから。

 みなさんの分、持っていきなさい。」


じいちゃんホビットもそう勧めてくれた。


「え?でも、みなさんこれからお仕事だというのに、わたくしたちだけ休ませていただくのは・・・」


躊躇うマリエに、ばあちゃん(いちいちホビットをつけるのは以下省略!)は言った。


「みなさんは昼間、旅をしてこられたのですもの。

 夜はしっかり休まないと。

 なに、心配はいりませんとも。

 わたしたちは、昼間、ちゃんと休んでおりますから。

 明日の朝には皆も帰ってくるし、歓迎会の支度もできておりましょう。」


「そうそう、遠慮はいらない。

 友だちには親切にするのが、ホビット族の誇り。」


じいちゃんもにこにこと言った。

仲間たちはそれでも遠慮して互いに顔を見合わせている。


「悪いけどさ、僕、疲れたから、休んでいいってんなら、休みたい。」


僕はきっぱりと主張した。

こんなとこ遠慮してたってはじまらないでしょう?


「休まないと明日まともに動けなくなるし。

 みんなだって、疲れてるんじゃないの?」


「・・・おいらは、大丈夫っすけど。」


フィオーリはなんだか名残惜しそうだ。

まあ、その気持ちは分からないでもないけど。


「フィオーリは嬉しくて興奮してるかもしれないけどさ。

 だからこそ、今はしっかり休んで、明日?の歓迎会にはばっちりの体調で参加しないと。」


「そうだよ、フィオーリ。

 お友だちのおっしゃるとおりだ。

 いいから、ここはばっちゃんたちに任せて、少し眠っておいで?」


ばあちゃんはフィオーリに優しく言った。

フィオーリはちょっと困ったようにばあちゃんを見たけど、すぐに、素直に、うん、と笑った。


「・・・なら、そうさせてもらおか?」


うちのご意見番が宣言する。

グランが言うと、不思議に誰も反対はしない。


「手厚いおもてなし、痛み入ります。

 ろくにお手伝いもせずに、申し訳ありません。

 少し休ませていただきましたら、また、なにかお手伝いさせてください。」


シルワは丁寧に頭を下げた。


フィオーリに案内されて客間に向かう。

ホビットの家ってのは、年がら年中お客のあるもんらしい。

客間ってのも、大小、いろいろ揃っている。

結局、僕らは、マリエだけ部屋を分けて、後は全員、一緒の部屋にした。

幸い、ベットの四つある部屋があって、ちょうどよかった。

マリエはひとりだけ分けられて淋しそうだったけど。


シーツはセルフサービスらしい。

物置からフィオーリが運んできたのを、みなそれぞれ自分のベットに敷く。


寝床を拵えながら、僕はフィオーリに尋ねた。


「ここのホビットって、前から夜、働いていたの?」


フィオーリは首を傾げながら答えた。


「そんなことはありませんよ?

 おいらのいたころは、昼間、働いてました。」


「あの畑も、夜の間に作っているんでしょうか?」


シルワも話しに混ざってきた。


「そうか。それであのヒカリゴケの畦道やね?」


グランの意見に、全員が、なるほど、と頷いた。


「あの作物って、夜の間に世話をすると、なんかいいことあるとか?」


「いや、そんなことはないやろ。

 別に、特別変わった種類にも見えんかったし。

 普通に、昼間世話するほうが多いんと違うかな。」


うーん、と全員唸る。


「さっき、どこの家に行っても、誰も返事しなかったのって、もしかして、みんな寝てたとか?」


「よくお休みだったんですねえ。」


「ホビットって、ぐっすり眠ってると、なかなか起きないんっすよ。」


うん。それは、フィオーリがそうだからよく知ってる。


「どこの家も鍵、開けっ放しだったよね?

 ちょっと不用心なんじゃないの?」


「そこは、昔から、そうっすよ。

 どこの家も鍵、かかってたことありません。」


なるほど。そこはやっぱりホビットだ。


「こんな地下の郷やし、余所者は入ってけえへんのやろ。」


「その大元の郷の入口も開けっ放しなんだけど。」


「ホビットさんたちって、おおらかなんでしょうね。」


・・・そういう問題か?


旅の埃にまみれたからだを、洗い立てのシーツに横たえるのは、ちょっと気が引けた。

けど、柔らかくて清潔な寝床の魅力には、抗いがたいものがあった。

いろいろと気になることも多いけど、疲れには勝てない。

久しぶりのまともな寝床に、気が付くと、僕ら全員、横になってぐっすりと眠っていた。



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