第四項 混じり合う血
もう流す涙も枯れ果て、私は酷く冷静に次の行動を決定した。
彼等が持っていた剣を拾い上げてそれをスコップの代わりにして穴を掘っていく。
やがて棺桶ほどの大きさになったところで手を止めてお父さんを穴の中に下ろした。
本当なら花を入れるべきなんだろうけど、生憎そんなものは此処にない。
代わりに剣を一振り入れておいた。
「さよなら……帰ってくる度、五月蝿かったけど楽しかったよ」
穴を埋め戻し、お父さんと最後のお別れをする。
墓標代わりにお父さんの剣を地面に突き刺しておいた。
私にはやらなきゃいけないことがある。
「それじゃ、また来るね」
別れ際にそう呟くと次は酒を持ってきてくれ、とお父さんに言われた気がした。
考えとくよ、お父さん。
ЖЖЖ
テナとルージャの所に戻るとテナが凄まじい形相で掴みかかってきた。
見開かれた目からは涙が流れ、歯をギリギリ鳴らしてやり場の無い怒りに身を焦がしている。
そっと抱き締めて上げるとテナは大声で泣き始めた。
私は泣けない、本当に涙が枯れたのかな?
「泣くのは今しかできないよ。だから好きなだけ泣いて」
「なん……で、リアンは……そ、そんなに落ち着いて……るの?」
泣きながらテナは叫ぶようにそう言った。
「気が済むまで泣いたからね。テナもそうしなよ」
そう言ってテナの背中を優しく撫でる。
しばらくの間、少女の慟哭が燃える村に響き続けた。
ЖЖЖ
「父さんと母さんを探しに行きたい!」
泣き止んだテナは開口一番そう言い放った。
目には決意の光りが宿り、拳は強く握られている。
本気なんだね、テナ。
「賛成だよ。私もお母さんを探したい」
2人で頷き合うとルージャの背中に乗った。
ルージャは私の手に付いた血の臭いを嗅ぐと涙を流し始めた。
「キュラァァァァア!!」
悲しげな声だった。
ルージャはそのまま地面に伏せ、目を閉じる。
慌てて口に手を当てると息はしていた。
お父さんが死んだショックでルージャまで死んだかと思ったよ。
一体なんだろう?
数秒後その答えが分かった。
西の空から流れ星のような光が飛んできて村の上空で止まり、段々巨大化し始める。
「一体なに!?」
テナが悲鳴に似た声をあげる。
けど、この場にいる誰も彼女の問いに答えられるわけがない。
光が消えた後に現れたのは白銀に輝く巨大なドラゴンだった。
「キャァァァァア!?」
テナが断末魔に似た悲鳴を上げて私の肩を揺さぶる。
脳の皺が無くなるから止めて欲しいなー、とか考えてる辺り私は現実逃避に専念してるんだろうね。
ドラゴンはその綺麗な青い目をギョロリと此方に向けた。
『人の子。怖がるな。鬱陶しい』
「ヒィィィィイ!!」
頭の中に直接声が響き、テナは自分の頭を押さえてルージャにベタッとくっついて、そのまま気絶してしまう。
お陰で私はテナの手から解放された。
「ありがとう。どうやって話してるの?」
『礼はいらない。思考を魔力に乗せてお前らに取り込ませてるだけ。通称念話』
「念話……よく分かんないけど凄いね」
笑ってドラゴンと話しているとルージャが不機嫌そうにグルルルと低く唸った。
ドラゴンはそれに耳を傾けると頷いて此方を向く。
『ウォーリンデの末裔。先代は残念だった』
「お父さんの知り合い?」
『種間戦争で1度会っただけだ』
「ふぅん。それを言いに来てくれたの?」
『生意気な……。ルージャにすぐに来るように伝えられた。そしたらお前に力を与えろとほざいてきた』
「力?」
『上を向いて口を開けろ人の子』
言われるがままに口を開けると何か青い液体が口の中に入ってきた。
何か甘いような塩辛いような不思議な味。
ゴクリとそれを飲み干した後、後悔した。
視界に光る川のような流れが現れては消え、手に鱗が出たり消えたりを繰り返す。
挙げ句の果てに服を引き裂いて背中から翼が生えたり引っ込んだりした。
痛みは無いが身体中が蠢くような気持ち悪い感覚に襲われ続ける。
悲鳴を上げることも出来ずルージャにしがみついているとルージャは心配そうにグルルルと鳴いていた。
いや半分ルージャのせいだから。
症状が落ち着いた時には既に私は感覚で鱗や翼が出せるようになっていた。
ゼーゼーと肩で息をしながらドラゴンを睨み付ける。
「…………何を飲ませた?」
「俺の血だ」
「副作用は先に伝えて」
「悪かった。……ところで問題無く聞き取れてるな」
「え?」
慌てて聞き返すとドラゴンはルージャを指差して目を細めた。
ルージャは私を見ると楽しげに笑って口を開く。
「お、その分だと僕の声も聞き取れてる?」
「ルージャが、喋った……」
「昔から喋ってたよ!リアンが聞き取れなかっただけ」
「意味がわからない……」
「竜帝の血を飲んで眷族化されたんだよ」
「え?」
「簡単に言えばリアンはハーフドラゴンに進化しただけだよ」
「どこら辺が”だけ“なのか教えてくれると嬉しい……」
頭が混乱してきた。
はぁーと溜め息を吐き、腕をドラゴンのものに変えると金色の鱗と鋭い爪が現れる。
すぐに腕を人間のものに戻し、ドラゴンを見上げると、ドラゴンはフンッと鼻をならした。
「深く考えるな。それがウォーリンデの美徳だ」
「そうする……。一応感謝しておくね、ありがとう」
「礼はいらない。息子の頼みを聞いただけだ」
そう言うとドラゴンは西の空に飛び去った。
ルージャのお父さんが来てくれたんだね。
でも竜帝って……。
「ルージャ、竜帝って何?」
「その名の通り、ドラゴンの王様」
「その息子がルージャ?」
「そうだよ?一応王子」
そう言ってルージャはケラケラ笑う。
そんなに偉いのに藁で寝るのが好きってどうしてなんだろ?
まあ、考えても仕方ないか。
ルージャから飛び降りて翼を出してみると綺麗な金色の翼が現れた。
試しにバタバタさせてみると、かなりの風が吹く。
夏は重宝しそうだね。
「イヤァァァァア!!」
辺りに耳をつんざくような悲鳴が響き渡った。
翼をバタつかせていたらタイミング悪くテナが気絶から回復したみたいだ。
「落ち着いて、テナ」
「リアン!何で!背中に!翼!」
「ハーフドラゴンになったかららしいよ?」
「え?え?え?」
「よし、落ち着いたね。テナ、ルージャにしっかり捕まってて」
そう言って私は翼を羽ばたかせて空に舞い上がる。
下からテナの悲鳴が聞こえてくるけど気のせいだと思うことにした。
それにしても初めて空を飛ぶはずのなのになんでやり方が分かるんだろう?
ЖЖЖ
「多分、父さんが体で覚えてることが引き継がれてるんじゃない?父さんと飛ぶときの翼の動かしかたが同じだし」
さっきの疑問に対するルージャの答えはこれだった。
ドラゴンの王様の経験が引き継がれているなら心強い。
安心して宙返りをするとルージャが羨ましそうに此方を見ている。
彼の背中にはようやく状況を理解したテナが震えているから宙返りは残念ながら出来ない。
テナもいい加減慣れて欲しい。
「別に食べないし、今まで通り接して欲しいんだけど」
「ごめん!しばらく掛かると思う!」
そう言ってテナは手を合わせて謝ってきた。
ほとんどいつも通りだね。
何か安心した。
それにしても空を飛ぶのは楽しい。
爽快感と解放感が凄い。
例えるなら凄く広い湖の真ん中に立っているような感じだ。
「ルージャ、オユノクまでどれくらい掛かる?」
「4時間くらい」
「なら、休憩なしで直行するよ」
そう言って私は速度を上げる。
これはきっとルージャからの誕生日プレゼントなんだろうね。




