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ユーレンス大陸史  作者: 新参猫
第二章 ジャルジュ解放戦線
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第三項 ブラッディ・バースデー

朝陽が上り始めた頃。

辺りには鳥のさえずりが響き渡り、夜が明けた事を村に伝えている。

村は山脈の麓にあるからか朝は霧が立ち込め、とても幻想的な雰囲気を醸し出す。


私の顔に光が差し、否応無く眠りから叩き起こされる。

早朝に起きなければならなかったし丁度良いと言えばそうなんだけど、何故か損した気がする。

ベッドから体を起こし、立ち上がって伸びをした。

さて、今日は特別なお仕事の日だね。


その時、コンコンとドアがノックされた。


「起きてるよ」


「あら、そう?今日の準備は出来てる?」


「何か特別に必要なの?」


「そうねえ……もしもの事を考えて仕事着を3着持っていきなさい」


「はーい」


収納箱からリュックを取り出して、その中に仕事着を3着入れる。

ついでに隠し持っていた干し肉をリュックの底に押し込んでおく。

後でテナと一緒に食べようかな。


普段着では動き辛いのでスペアの仕事着に着替え、リュックを手に持って部屋を出る。

驚いたことにテナは既に居間で待っていた。

さすがテナ、しっかりしてるね。


2人でお母さんの前に並ぶと、お母さんは頷いて私達に濃い赤紫色をしたフード付きのローブを手渡した。

首を傾げながら2人でそれを羽織ると、それぞれに追加の物が渡される。

私には保存食が入った袋、テナには書簡の入った木の筒だ。


「貴女達にして貰う仕事はその書簡を隣の村、オユノクに届けることです。隣の村は山脈に添って西に向かった先の海辺にあります。分かりましたか?」


「「はい!」」


「良い返事です。方向が分からなくなったら天空都市《アルロート》を目印にしなさい。

あと、村に着くまでフードをとってはいけませんよ、特にテナは絶対とらないように」


「「はい」」


返事に頷くとお母さんは家のドアを開けて出発を促した。

私達は顔を見合わせて頷き合い、やがて家を飛び出す。


私はそのまま納屋に向かい、ナイフを装備してからルージャを起こした。

ルージャは寝ぼけていたが、出掛けられることを察知して意気揚々と納屋を飛び出す。

野生の勘かな?

私、何も言ってないんだけど……。


慌てて追いかけルージャの背中に乗ると、テナを引っ張り上げて後ろに乗せる。

いつものように背中を叩いて合図を出すと、ルージャは力強く大地を蹴って、空に飛び上がった。


「ルージャ、オユノクまで飛んで」


「グラァァァァア!」


ルージャはオユノクに行ったことがあるのか、万事任せておけというように力強く吼えた。

私の後ろでテナはソワソワしてる。

初めて村の外に出られるから楽しみなんだろうね。

他人事みたいに言ってるけど私も楽しみだ。



ЖЖЖ



初めての空の旅にテナは嬉しそうに騒いでいる。

私もここまで高い所を飛んだことは無いので辺りの景色を楽しんでいた。

村がある森の外には草原が広がっており、遠くにはお城が見える。

控え目に言って、絶景だ。


「すごーい!リアンはいつもこの景色を見てるの?」


「んーん、私もここまで高い所を飛ぶのは初めて」


前を向いたまま適当に答えたら感動が足りない、と怒られた。

いつもの事だと思うけど。



3時間後―――。



テナは慣れない早起きをしたせいで眠そうにしている。

この高さから落ちたら確実に命はない。

ルージャもテナが眠そうなのに気が付いたのかグゥと心配そうに短く鳴いた。

仕方無い、少し休憩しないと。

休憩できる場所を探していると丁度良い所に川があった。


「ルージャ、あの川岸に降りて」


「グルルル」


はいはい、というように鳴いて返事をするとルージャはゆっくりと高度を下げていった。

まあ、朝御飯には丁度良い時間かな。



ЖЖЖ



川岸に着陸するとルージャは私達が降りやすいように身を屈めてくれた。

テナはウツラウツラしていて、今にも眠ってしまいそうだ。

私はさっさとルージャから降りてテナを抱え下ろし、頬をペチペチ叩いて眠気を覚まさせる。

テナは伸びをし、やがて顔を真っ青にして叫んだ。


「無いっ!」


「何が?」


「書簡が無いっ!」


「…………え?」


聞き間違いであって欲しい。

今、何が無いって言った?この娘。


「ゴメン。もう一回言ってくれる?何が無いって?」


「村長から渡すように頼まれた書簡が無いっ!」


聞き間違いじゃなかった。

私は溜め息を吐いてテナの肩を掴んで静かに息を吸う。

そして一言。


「バーカ」


「酷っ!」


涙目のテナを放置して渡された袋からジャムの入った瓶とパンを取り出す。

手際よくジャムをパンに塗って半分に千切り、片方をテナに渡した。

テナは美味しそうにそれを頬張り、食べ終わると川の水を飲んでふうっと息を吐く。

私も同じ様に食事を済ませ、近くの岩に腰を下ろした。


「少し休んだらすぐに村に戻るよ」


「え?でも怒られるんじゃ……」


「当たり前。私も一緒に怒られてあげるから感謝して」


「……はーい」


テナはうなだれてその場に膝をついた。

正直泣きたいのはこっちだよ。



ЖЖЖ



30分程休憩した後、再びルージャに飛び乗って行き先変更を伝えるとルージャは何も言わずに空に舞い上がった。

絶対呆れてる。


空に上がるとテナは何も言わずただただ震えている。

怒られるけど死にはしないよ、と言ったら楽観的過ぎだ!と怒られた。

ポジティブに生きた方が良いのに。


2時間後―――。


ルージャがグルルルと唸って何かを伝えようとしてくる。

今は何か分からないけど恐らく警戒するべきことがあるんだろう。

テナは不安そうに周りを見回してたけど何も見えなかったのか肩を落としている。

一体なんだろう?


1時間後―――。


村から黒煙が上がっているのを見て理解した。

村が燃えてる。

テナは怯え、体を震わせていた。

火事だ!急いで火を消さないと。


「ルージャ!急いで!」


「グラァァァァア!!」


ルージャは一声上げると凄まじい速度で降下していく。

私は無意識の内にナイフを握りしめていた。



ЖЖЖ



村に降りるとすぐに、ただの火事じゃないことが分かった。

あきこち燃えているのに誰も消火しようとしてない。

それどころか誰も居ない。


おかしいと思ってテナを見ると、彼女は広場の方を見たまま凍り付いている。

何があるのかと見た後、酷く後悔した。

沢山の人の頭が散乱し、首の無い死体が山のように落ちている。

和やかな村の姿はそこには無く、辺りは血で真っ赤に染まり、さながら地獄のようだった。

目を背けよけようにも辺り一面血の海なので吹っ切るしかない。

テナはその場に座り込んで口をパクパクさせて何かを訴えようと私を見る。


その時、凄まじい咆哮が大地を震わせた。

村の入口の方からだ!


「ルージャ!テナを御願い!」


咄嗟に私は駆け出していた。

あの咆哮に聞き覚えがある気がする。



ЖЖЖ



村の入口に近付くにつれて悲鳴やけたたましい金属音が聞こえるようになってきた。

足元には首だけの死体や血が増えて行き、やがてその先に人だかりを見つけた。

見知らぬ人が何かを囲んで剣を構えている。

その何かがユラリと立ち上がったとき、思わず息を飲んだ。


「お父さんっ!?」


目は爛々と光り、口は不気味な笑みを浮かべ、背中には数多の剣や矢が突き刺さってダラダラと血を流し続けている。

普通なら生きていられるような状態じゃない。


私の上げた声に反応した兵士が此方を向いた瞬間、お父さんが剣を振るって彼等の首を落とした。

血が雨のように降り注ぎ、その様子を見てお父さんが不気味な高笑いを響かせる。


その光景を見ても私には恐ろしいとか怖いという感情がなぜか出てこなかった。

それどころか口元に笑みが浮かび、声を上げて笑いそうになっている。


お父さんは彼等を圧倒していたけど、血を流しすぎたみたいでその場に膝をついた。

それを待っていたというように1人が剣を振り上げる。

咄嗟にナイフを投げてそいつを殺し、私は彼等に向かって駆け出した。


倒れる死体からナイフを引き抜き、別の人に投げつける。

彼等が驚く間を与えず、もう一本のナイフで隣にいた人の首を切り裂いて止めを刺した。

さらに新しい死体からナイフを引き抜いて、バックステップで距離を取る。


「クソッ、先にガキを殺せ!」


彼等のリーダーのような人が此方に向き直り目を剥いて叫んだ。

けど私に的を絞ろうとしたのが間違いだったとすぐに気がつくことになる。


お父さんに背を向けた人の首が落とされ、再び高笑いが響く。

それに気を取られた人は私が切り裂いていった。

彼等から戦意は失せたみたいだけど私とお父さんは手を止めない。

2人で一方的に蹂躙し続ける。



最後の一人を殺し終わるとお父さんはその場に倒れた。


「お父さん!」


慌てて抱き起こすとお父さんは真面目な虚ろな目で此方を見た。


「できれば伝えたくなかったが、よく聞け。

村の奴等は人狩りに連れていかれた。

俺も応戦したがノルノを人質に取られてこの様だ。

お前は知らないだろうが村の外でジャルジュはサピエに狩られ、奴隷として売られる身だ。

それはノルノの血を引いたお前も同じことだ、絶対に俺達の話はするんじゃねえぞ」


「……分かった」


「良い返事だ。良い子にはプレゼントだ」


お父さんは精一杯笑ってそう言うと、ポケットから六角形の描かれたコインを私に渡してくれる。


「誕生日……おめ……でとう」


そう言ってお父さんは目を瞑り、それきり動かなくなった。

揺らしても頬を叩いても反応が無い。

体はどんどん冷えていく。

この感覚を私はは知ってる。

狩りで獲物の血抜きを終えた後の感覚だ。


お父さんは彼等に狩られた?

食べるわけでもないのに?

身を守る為でも無いのに?

何で?

理解ができない。


やがてその疑問は私を一つの答えへと導いた。


「あいつらは殺すのが楽しいんだ」


悲しさと悔しさで涙が流れ、止まることはない。

昔読んだ童話では涙が奇跡を起こしたけど現実では起こらないとこの時初めて痛感した。

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