エヒネが冷める前に
どうも新参猫です。
明日から本格的に二章が始まります。
目の前の霧が晴れると、意識が自分に戻っていた。
そう、僅かにだが記憶の片隅にカルマの部屋に招かれたことは残っている。
慌てて魔昌石に触れていた手を引っ込め、机の向かいにいるカルマを見る。
カルマは意識が戻ったことに気が付くと笑って此方を見た。
「今のがシュドムから受け取った種間戦争の記憶だ。楽しかっただろう?」
「待て、楽しむ以前に色々頭が混乱しているんだが……。
よし、一つ聞きくぞ?俺が魔昌石に触れてから何年経った?」
「年?ハッハッハッ。たった5分だ」
楽しそうに笑い続け、エヒネ(紅茶に果汁とジャムをいれたもの) を指差した。
確かにエヒネからは湯気が立ち上ぼりさほど時間が経っていないことを証明している。
椅子に座り直し、カルマを見ると彼はエヒネを一口啜ってテーブルに置いた。
「お主の知っておる歴史とは全く違うだろう?」
「あぁ、だが正直な話しこっちの方が歴史としてしっくりくる」
「それは何よりだ。どうだね、この際お互いの歴史を照らし合わせてはみないか?」
「あぁ賛成だ」
それから1時間程かけてお互いの知っている歴史を伝えあった。
俺の知っている歴史には載っていなかった名前がカルマの知る歴史には大量に載っていた。
逆に俺の学んだ歴史に出てきた王族の名前はカルマの調べあげられた歴史には載っていない。
一番驚いたのは俺の知っている間違った歴史には無かった出来事がカルマの知る真実の歴史には存在していた事だ。
違いを見つける度にカルマはゴンッと机に頭を叩きつけていた。
そのせいで額が真っ赤に変わり何ともコミカルな事になっている。
「ルギアスよ、私は悲しいぞ。何故真実の一族であるオグマ家がそんな間違った歴史を学んでおったのだ?」
「町で買った歴史書を読んだんだよ。安かったし暇潰しになったし」
「……一体いくらだ?その歴史書とやらは」
「銅貨1枚」
「野菜と同じ値段ではないか!?」
「野菜は銅貨2枚だ。野菜の方が高いぞ」
「その安さ故の浸透具合といったところか……」
中々上手い手法だとカルマは感心していたが、すぐに溜め息を吐いて俯いた。
敢えて気にしないように装い、エヒネの入ったカップをテーブルに置いて部屋の中を見回す。
「それで?次に見る記憶はどれだ?」
カルマは虚を突かれたのか目を丸くして此方を見た。
やがてニヤリと笑って彼は腕を組んで話し始める。
「先程見た記憶は種間戦争の時代のものだ、次はその少し後の時代を見て貰いたいのだが」
「また、シュドムの記憶か?」
「本当ならそうしたかったのだが奴が記憶の提供を断ったのでな、別の者の記憶だ」
「何故断ったんだ?」
「少し長くなるが構わんか?」
「手短に頼む」
少し待っていろ、と言ってカルマは奥の部屋に消えた。
少しして戻ってくると彼の手には一冊の古い手帳が握られている。
彼は椅子に座ってパラパラと手帳をめくり、やがてあるページでその手を止めてその一部分を指し示して俺に読むように促した。
“シュドムは騎士団長を辞めた後、ジャルジュの奴隷化を止めさせる為に革命軍を結成した。
彼は各地を回り、かつての仲間達を集めてソルネアスへと向かっている。
調べものが済んだら僕もまた彼と共に北の大地へと向かうことにしよう。”
カルマを見ると彼は俺の驚いた顔を見て嬉しそうに笑う。
そして再びページをめくり、再びある一部分を指し示した。
“王国軍を破った後、彼を先頭に王宮へと侵入した。
衛兵達による最後の抵抗を懸念してシュドムは硬い表情をしている。
だが門を開けた途端にその表情は驚愕のそれに変貌した。
衛兵を始めとするありとあらゆる人間が真っ赤に染まって死んでいたのだ。
彼は近くに倒れている衛兵を丁寧に観察して一言。
「これは自殺じゃないな。何か鋭利な鉤爪で切り裂かれてる」
その後謁見の間に着くと彼は悔しそうに呻いた。
王座では苦悶の表情を浮かべて国王と宰相が死んでいる。
その死体は剣で壁に縫い付けられていた。
どうやら僕たちの前に革命を成し遂げた者がいたらしい。
恐らく彼女だろう。”
再び顔を上げるとカルマは手帳を閉じて楽しそうに笑った。
「恐らくこれが理由だろうな。彼は革命軍を率いて戦っていたのだが、何者かに先を越されてな。大方その悔しさが今でも忘れられないのだろうよ」
「そうか……。でも、誰が王宮で彼等を殺したんだ?彼女って誰だ?」
「それがこれから見て貰う記憶の主だ。お主から見て左にある棚の一番左下にある魔昌石に触れてくれ」
恐る恐る言われた通りの魔昌石に手を伸ばす。
チョンと手が触れた瞬間、意識が遠退いた。
ЖЖЖ
目が覚めるとシュドムの時と同じ様に何も無い白い世界に寝転がっていた。
起き上がって周りを見回すと、背後にフード付きのローブを纏った少女がひっそりと立っている。
フードからはみ出た髪は綺麗な金髪で、僅かに見える殺気のこもった目は綺麗な紅色をしていた。
そのまま記憶に飛び込むのも不安なのでカルマからの連絡を待つことにする。
30秒程で頭の中に妙に老練した少年の声が響いた。
『聞こえておるか?』
「あぁ、問題ない。目の前にフード付きのローブを着た女がいるんだが、今回はこの人の記憶か?」
『そうだ、彼女の名はリアン、
リアン・ウォーリンデだ』
「ウォーリンデ?アジャスとノルノの娘か?」
『御名答、時代はシュドムが革命軍を結成してから14年後の世界だ。
恐ろしいことにこの頃の大陸ではマタロフの鐘が商人の間で普及し、ジャルジュは人狩りによって捕らえられておるのが日常風景だったのだよ。
この時アジャスはオールドナの麓に隠れ村を作って難を逃れておった。
はっきり言うがこの時代は大陸史最大の汚点だ、心して見たまえ』
「御忠告感謝する!それじゃまた会おう!」
そう言ってリアンに触れると俺の意識は途切れた。




