最終項 終わった戦争、始まる戦い
夜になり、町の内外は騒がしくなった。
様々な兵士や傭兵、殺し屋が皆揃って左手に酒を持ち、右手に肉を持って笑いあっている。
普段なら町の外は使わないが、もう襲撃される心配も無いので外も解禁にした。
いつも櫓を組む時に使っていた木材は襲撃された時に焼失したので、音頭担当は今回は広場に近い建物の屋根に上ることになっている。
予定の時間を過ぎているが一向に彼が現れる気配がしないので兵士達は口々に野次を飛ばしていた。
やがてザックが屋上に上がって来ると野次は歓声に変わり、ザックが手で歓声を止めるまで響き続けている。
静かになったのを確認してザックは息を吸い込み、力の限り声を張り上げた。
「戦争の終わりに乾杯っ!!」
「「乾杯っ!!」」
わあっと再び歓声に包まれると、広場では砂漠の民が時計塔を中心に輪を作り、踊り始める。
ゴンドの部隊がそれに合わせて手拍子を叩き、パルバールの連中がどこからか調達したマージス(横笛の一種で大陸中部の民謡でよく使われる)を調子よく合わせて場の雰囲気を盛り上げた。
多種多様な者達による宴はまだまだ続く。
ЖЖЖ
隊長格4人は全員会議室に揃ってその様子を上から眺めていた。
ソルネアスのワガリス
トンデナルのゴンド
アルロートのリューク
マイソーカのシュドム
俺達がこうして一緒に酒を飲むのもこれが最初で最後だろう。
全員が席に座ると皆杯を掲げ、静かに乾杯する。
ゴンドは酒を一気に飲み干すとガハハハと上機嫌に笑った。
「いやー、本当に戦争を終わらせてしまうとは恐れ入ったぜ。それにしてもアルロートが空に浮かぶとは予想外だったな?」
リュークはピクリと眉を動かし、酒をチビりと飲んでゴンドを見る。
「シュドムを道連れにするつもりだったんだろ」
「姑息な奴だな!全く死んでよかったぜ」
散々な悪態をつくゴンドに対してワガリスは苦笑いを浮かべて此方を見てきた。
「なあ、兄弟。このあとはどうするんだ?戦争が終わった以上もうマイソーカにはいられまい」
「そうだな……取り敢えず王国に報告しに行って、仕事が貰えなかったら土いじりでもして暮らすさ」
予想外の答えに3人は目を丸くしていたが、やがてケラゲラと腹を抱えて笑った。
失礼な奴等だ。
そんなに変か?
「シュドムが土いじり……似合わないな」
「ちげぇねえ!」
「冗談がきついぞ兄弟!」
「好き勝手言いやがって、そう言うお前らはどうするんだよ?」
ヒイヒイ言いながら3人は口々に答えていく。
「儂はトンデナルに戻って宗主の仕事に戻るぜ?」
「あぁそう言えばゴンドは偉かったんだよな。すっかり忘れてたな」
「ひでぇじゃねぇか!」
ムキになるゴンドの杯に酒を継ぎ足して黙らせ、ワガリスの方を向く。
「ワガリスはどうする?」
「ソルネアスで主の留守を預かる積もりだ」
「そうか、レティアも喜ぶだろうな!」
レティアが喜ぶと聞き、嬉しそうに笑うとワガリスは外を眺め始めた。
最後にリュークと向き合って笑いかけると、彼は杯を軽く掲げて笑い返してくる。
「リュークはジャルジュの国を作るのか?」
「あぁ、そうする積もりだ。先ずは村から始める」
その時、ドアがドンドンと乱暴にノックされた。
その場にいた全員がドアの方を見たあと俺の方を見てくる。
俺に託すのかよ。
「誰だ?」
「大将、俺だ!」
「アジャスか、何の用だ?」
「主役がいつまでに経っても来ねえから皆痺れを切らしてる!早く兵舎に来てくれ!」
それだけ言うとアジャスはバタバタと足音を立てて走り去った。
3人は此方を向いて早く行ってこいというようにドアを指差してくる。
仕方ない、と言って立ち上がり伸びをすると、部屋を足早に出た。
ЖЖЖ
兵舎の扉を開けると歓声と拍手が響き渡った。
面子からして此処に居るのは最初の100人だ。
まだレティアやアンセルが居なかった時、苦楽を共にしてきた思い出深い奴等だな。
思えば色々なことがあった。
最初は言うことを聞かないし、宴会では喧嘩が多発したりと問題に事欠かなかった覚えがある。
染々と感慨に耽っているとザックが何も言わずに杯を渡してきた。
どうやら音頭を取れと言うことらしい。
なら言うことは一つだ。
「獣の旅団に乾杯っ!!」
「「乾杯っ!!」」
宴は3日間行われ、その後兵士達はそれぞれの土地に帰っていった。
ЖЖЖ
2年後―――。
あれからすぐにナイリー三世は崩御なされ、新たに宰相の傀儡であるマナカル四世が王となった。
それと同時にジャルジュの存在が公表され、彼等の存在は民に知れ渡ることになる。
ジャルジュが初め敵だった事から中々民は受け入れられず、結果として種族間で深い溝が出来てしまった。
宰相を初めとする一部の極端な人間は彼等を根絶やしにすべきだと主張している。
実行出来ないのは俺が騎士団長として兵を動かさないからだ。
しかし、いつまで持つか……。
と、暗い話しを続けてもしょうがないな。
獣の旅団はあの後解体され、メンバーはそれぞれの道を歩み始めた。
アジャスはノルノと一緒に新しい村を作ってそこで村長をやっている。
ついこの間子供が生まれたらしく、中々可愛いと手紙で言ってきた。
村の方は住人が増えたらしく、新しい作物の植え付けを始めたらしい。
これを期に村を大きくすると意気込んでいたな。
ザックはパルバールの総頭取の地位を息子に譲り、のんびりと隠居している。
今でも時々俺の所に遊びに来ては、年甲斐もなく馬鹿騒ぎをして帰っていく。
まあ、楽しいからいいんだけどよ。
テヨンはあの後ユルナスに猛アタックをし続けて婚約者の地位を獲得した。
だが、2人ともまだ幼いので結婚はもう少し先の話しになりそうだ。
今はソルネアスで料亭を営んでいるらしい。
可憐な料理人と人懐っこいウェイターの組み合わせが受けたらしく中々の繁盛具合だと聞いている。
ルナとリュークはジャルジュの村を造るために各地を飛び回っている。
時々旅先から手紙が届き、中々楽しんでいる様子だ。
俺とレティアとアンセルは正式に王国の騎士団に呼ばれ、それぞれ役職を与えられた。
アンセルは教育長という新米を育てる役職に就いて教鞭を振るっている。
最近の兵士は直ぐに弱音を吐くと溜め息混じりに話していた。
レティアはソルネアス駐在部隊 隊長という特殊な肩書きを貰い、ローゼンガルドの復興に勤しんでいる。
週に1回ノーグに乗って会いに行っているが、最近は一緒に暮らしたいと涙目で訴えるようになった。
どうするかは残念ながら未定だ。
俺は騎士団長に任命され、日々会議に出たり、書類にサインをしたりと退屈な生活を送っている。
今はジャルジュとの関係を見直せと宰相を相手にやりあっては怒り狂う日々の繰り返しだ。
昔の方が気楽で良かったな。
長々と考え事をしていると部屋の扉がノックされた。
「入ってくれ」
「失礼します」
似合わない敬語を使ってアンセルが部屋に入ってきた。
机をバンッと叩いて不服を申し立てるとアンセルは嬉しそうに笑う。
「相変わらず敬語は嫌いなんだね?」
「当たり前だ!で、何の用だ?」
用件を聞くとアンセルはいつになく深刻な顔をしてそっと耳打ちをした。
「宰相にマタロフの鐘の存在がバレた。急いで手を打たないとジャルジュが危ないよ」
さすがに己の耳を疑った。
最悪だ、よりによって宰相にバレるとは思わなかったぞ?
アンセルに詳しい話を聞こうとしたその時、再び扉がノックされた。
「何の用だ!」
「陛下が緊急の案件で議会を招集しているとのことです!至急お集まりください!」
「直ぐに行くと伝えろ!」
「はい!」
兵士の足音が遠ざかったのを確認し、力の限り机を殴り付けた。
ドゴンッと凄まじい音がして、机が真っ二つに割れる。
息を整えるとアンセルの方を向いて口を開いた。
「先を越された、もうどうなるか分からん」
「アレの準備はしとくかい?」
「……頼む」
そう言って足早に会議室に向かう。
いい加減にしろよ?クズが。
ЖЖЖ
会議室に着くと議員達が歓談していた。
この様子だと既に採決が終わっているな。
クソッ、敢えて遅れてくるように仕向けた上に、直ぐに採決を強行しやがったな?
宰相は此方を一別すると王に何やら耳打ちをした。
王は彼に頷いて此方を見た。
「アクリエス卿。そなたの日頃からの訴え、誠に心に響いた。故にジャルジュの掃討計画は永久に破棄する」
「ありがたいお言葉です」
王は満足気に頷いてとんでもない一言を続ける。
「代わりにジャルジュの奴隷化を奨励し、全ての商人にその売買の権利を認可する」
「なっ!?」
宰相はニタニタ笑って此方を嬉しそうに見てくる。
馬鹿にするのも大概にしろ!
「陛下!彼等の強さは再三ご説明した筈です。なのに何故!?」
「マタロフの鐘という物の存在を耳にしたのでな。聞けばそれさえあればジャルジュは動けなくなるそうではないか。これなら安全に扱える、故に奴隷に相応しいと判断したのだ」
怒りに身を任せて机に拳を叩きつけると石で出来たそれにヒビが入った。
奴隷にふさわしいだと?
馬鹿も休み休み言え、このクズ。
しかし、それを待っていたかのように宰相は立ち上がって此方を指差す。
「アクリエス卿!それは王家由来の机ですぞ!それを叩いてヒビを入れるなど言語道断、王家への反逆行為と言えますぞ!」
「何を言って―――」
「そうだな今のは私に対する反逆だ。本来ならば処刑するところだが英雄を殺しては角がたつ。よってアクリエス卿を騎士団長から解任し、騎士団から除名する」
さすがに開いた口が塞がらなかった。
ここまで宰相の人形と化していたとは……。
こうなっては仕方ない、ならば俺のやりたいようにやる。
王の言葉に適当に頷いて会議室を後にした。
見てろよクズ共、目にもの見せてやる。
烈火の様な強い怒りが心を支配した。
しかし、いきなり霧が掛かったように白い煙が掛かり始める。
何だ何だと思っているとふと自分の意識が甦った。
これは他人の記憶だったな。
そう意識した途端に霧は一層濃くなりやがて視界を白で塗りつぶした。
どうも新参猫です。
今回で一章シュドム編は終了となります。
二章からは別の時代の人物の記憶を辿ります。
ここまでお付き合い下さった皆様
本当にありがとうございます
これからも細々と続けていきます。




