第三十七項 アルロート攻防戦 6節
今日中にもう一部分投稿します。
40分歩くと時計搭に辿り着けた。
道中敵に遭遇することもなく、平和そのものだ。
半分観光気分で町を歩き回っていた事はミューには言えないな。
時計搭は全てを見守るような荘厳な佇まいで町の中心にそびえ立っていた。
石造りのそれは一周するのに5分かかる程規模が大きく、高さは50m程あるだろう。
しかし扉は簡素な作りで、普通の家のそれと大差ない木製の扉だ。
「鍵が付いてる事を考えると、多分閉まってるよな」
「いえ、分かりませんよ?」
自信に満ち溢れた顔でレティアはドアの前に立つ。
そして何度かガチャガチャとドアノブを回し続け、やがて開きませんと言って俯いた。
「まぁそんなもんだ。おい、アジャス!開けられそうか?」
「ちょっと見せてくれ……。あぁ、これなら楽に開けられるぜ?」
「え?鍵が無いのにどうやって開けるんですか?」
期待に目を輝かせてレティアは言った。
「俺は昔 鍵要らず って二つ名を持ってたんだぜ?まぁ見ててくれよ、レティアさん」
そう言ってアジャスはポケットに手を突っ込み、扉から数歩後ろに下がる。
そして軽く助走をつけると蝶番の部分を蹴り抜り抜いた。
「えぇー」
何か特別な技術を使うのかと期待していたのかレティアは残念そうに溜め息を吐いた。
「何か特殊な道具とかじゃないのですね……」
「そういうもんだよ」
アンセルがレティアの肩をポンと叩いて言うと、
彼女は再び残念そうに溜め息を吐いた。
そんなことは露知らずというようにアジャスは意気揚々と時計搭に入っていく。
彼が中に足を踏み入れたその時、僅かにカチッという何かスイッチの起動音のような音がした。
途端にアジャスの上に白い魔方陣が多数展開される。
この馬鹿、初っぱなから何してんだよ!
「下がれ!」
咄嗟に俺が叫ぶと、アジャスは反射的にバックステップで後方に飛び退いて時計搭から出る。
その直後、アジャスのいた場所に光の矢が雨の如く降り注いだ。
「危ねえ……」
アジャスの頭を軽く叩くと、痛っ!と声を上げて此方を見てくる。
「もっと注意を払え、死ぬぞ?」
「済まねえ……」
うなだれるアジャスの肩を叩いて一歩前に出ると、
慎重に時計搭の中に入る。
他に罠は無いのか特に何も感じない。
後ろを振り返って手招きをするとアンセルが嬉しそうに駆けてきた。
しかし、彼はドアがあった所で何かに激突して後ろに倒れた。
「何、馬鹿な事やってんだ?」
呆れてアンセルに近付き、手を差しのべようとする。
だが目に見えない壁に阻まれ、俺の手はアンセルに届かない。
クソッ!結界か。
「おい、アンセル!聞こえるか?」
「聞こえるよ!これどういう事?」
「恐らく分断させるための罠だ!ドアがあった場所に結界が張られてる!俺は先に此処を調べるから、お前らはガナンを呼んで来い!」
「分かった!無茶は禁止だよ!」
アンセルが他の2人に事情を説明すると、二人は此方に駆け寄って来る。
「大将、死ぬなよ?」
「無理だと思ったら此処で待っていて下さいね」
「心配するな。ほらミュー曰く時間も無いらしいからな、早く行ってこい」
3人は名残惜しそうに此方を見てきた、しかし意を決したように足早にその場を離れていった。
何か今生の別れみたいにしやがって。
誰が死ぬかよ。
ЖЖЖ
ざっと見て回った限り、上に向かう階段と、地下に繋がる階段、その2つがあった。
キナ臭いのは地下だ。
何か変な雰囲気が伝わってきたんだよな。
どちらにしようか迷っていると、地下からニキャキャキャという何かの鳴き声が聞こえてきた。
「何が居るんだ?」
ゴクリと唾を飲み、地下の階段に一歩足を踏み入れる。
すると今度はふざけるんじゃないヨ、という妙な叫び声が聞こえてきた。
間違いない、確実に此処に誰かがいる。
恐る恐る階段を下りて行くと、声は段々と大きくなっていく。
ピッタリ100段下りた所で階段は終わり、目の前には頑丈そうな金属製の扉があった。
パッと見た感じ蹴り開けられそうも無い。
しかし、声はこの奥から聞こえてくる。
「ごめん下さい」
ふざけてノックをしながら言ってみる。
「ハーイ、今開けるヨ」
ガチャと鍵を開けて中から金髪の男が出てきた。
いや、開けるのかよ。
「オーウ、シュドム君ではないですカ!ささ、入ってくださいヨ!」
何も言わずに大剣を引き抜いて男に向けると彼はニタニタ笑いながら後ろに飛び退いた。
部屋の中に入り辺りを見回すと此処がかなり異質だと気付いた。
10個の棺桶が置いてあり、その内の一つは空で開いたままになっている。
さながら地下墓地といった具合だが、部屋の奥にある物が一際異質だった。
巨大な魔昌石の中に少女が入っている。
彼女は目を瞑り眠っているように見えた。
殺気を感じて剣を構えると、彼は両手の掌から光で出来た刃を生み出して既に構えている。
「いくつか聞きたいことがあるんだが構わないか?」
「何なりト」
剣を下ろしてエッカを見ると、彼もまた刃を消して此方を見てきた。
「何故名前を知っている?俺はあんたの事を知らないぞ?」
「シュドム君は有名人ですからネ、でも私も中々有名ですヨ?エッカ・ボッカって知りませんカ?」
「お前が……」
驚いて目を見開くとエッカは嬉しそうに目を細めた。
「知っていたようで何よりデス。傀儡のお出迎えは如何でしたカ?」
「最低だよ。まあ助っ人のお陰でどうにかなったけどな。それより、あの紋章は何だ?確かカルローディアの魔印っていうんだよな?」
「ほぉ、それを知っているのですカ。しかし、あれは厳密にはカルローディアの魔印とは別物なのですヨ」
「……どういうことだ?」
質問をされて嬉しいのかエッカは上機嫌に身ぶり手振りを交えて話始めた。
「本来、カルローディアの魔印は存在するために必要な全ての魔力を吸い取るものデス。
しかし、あの魔印は私のアレンジを加えたもので、物質として存在を保たせるだけの魔力は残すように調節してあるのですヨ!
ちなみにカルローディアの魔印が使われたなら、術者以外塵も残さず消えてしまいマス」
おお怖い怖いと言うように彼は自分を抱き締めた。
キモい、鳥肌が立つほどキモい。
「なら何で死んだ筈の兵士が襲ってきたんだ?ただの物質なら普通襲って来ないぞ?」
「私が魔力で操っただけデス」
「お前のせいかよ……」
そうデス、と言って満足気に頷くとエッカはウインクをしてきた。
気持ち悪い、男のウインクってこんなに気持ち悪いものだったのか?
いや、こいつ限定か……。
「他に聞くことはありますカ?」
「その魔昌石で寝てる女は何だ?」
「彼女は終わらせる者ですヨ」
「何を終わらせる?」
エッカは狂気的な笑みを浮かべると、楽しそうに口を開いた。
「決まっているデショウ?この戦争とサピエの血筋全てデス」
「そうかよ。何か仲良くなれると思ったんだが気のせいだったみたいだな。残念だよエッカ!」
両方の剣を抜き払って構えると、エッカは再び両手の掌から光の刃を生み出して構えた。
「面白い人ですネ。私は最初から仲良くなれないと気付いてましたヨ!」
互いに構えたままジリジリと距離を縮めていく。
切迫した状況だというのに、俺の口元には何故か笑みが浮かんでいた。
アンセル「ガナン!今すぐ一緒に来て!」
ガナン「よう、アン坊。何があったんだ?」
アンセル「シュドムが結界の中に閉じ込められた!」
ガナン「げ!マジかよ。すぐに行く!案内しろ」
アジャス「(アン坊でいいのか……)」




