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ユーレンス大陸史  作者: 新参猫
第一章 種間戦争
37/52

第三十五項 アルロート攻防戦 4節

アルロート付近まで戻ってくるとフォルスの軍勢は何処にも見当たらない。

いるのはアルロートを包囲している自分の軍だけだ。

城門は固く閉じられており、恐らく敵はあの中にいるのだろうと予想はできる。

あの程度の雑兵なら中に殴り込んで始末できるか?

5000人を俺達4人で全て相手するなら、1人につき1250人か。

さすがにレティアとアンセルには無理だ。

俺とアジャスは余裕なんだがな……。

ま、空の上であれこれ考えていても仕方ない。


何にせよレティアとアンセルを迎えに行かないといけない事に変わりはない、さっさと地上に降りるか。

アジャスに合図を出して降りることを伝えると、彼はもう少し東に降りると伝えてきた。

まあ、別に良いだろ。



ЖЖЖ



戦場から少し離れた開けている場所を見つけてノーグは見事に着地する。

周りには見た限り誰もいない上に切り株があるので座って休憩もできる最高の場所だ。

ノーグの上で伸びをすると遠くから近付いてくる気配に気が付いた。

木の上を結構な速度で近付いてくるのを考えると恐らくアンセルだな。


ノーグから降りると案の定アンセルが木から降りてきた。

彼は慌て過ぎて転びそうになりながら此方に駆け寄り、何があったの?と聞いてくる。

勘の良い奴め、本当なら黙っておく積もりだったんだが……。


「マイソーカが奇襲を受けた」


「えっ!?」


アンセルは目を丸くして俺の肩を掴んできた。

落ち着け、少年。


「安心しろ、民は全員無事だ。敵も全員始末してきた」


肩から手を引き剥がしながら言うと、アンセルは安心したようによかった、と呟いて力を抜いた。


「この短時間で処理するなんて、流石は団長だね」


「褒めても何も出ないからな?……所でそっちは今どういう状況だ?」


真面目な表情に顔を戻すとアンセルは首を傾げて話し始める。

「さっきまでフォルスの軍とやりあってたんだけど、いきなりアルロートの中に戻っちゃったんだよね。何でだと思う?」


「ふぅむ……」


不利と見て撤退したのが一番説得力がありそうだが、それならアンセルが疑問に思う必要もないよな。

このガキまた何か隠してるな?


「他に情報は有るか?」


「第三部隊に後を付けさせたら、フォルスの兵士が口を揃えて死にたくないって言いながら嫌々撤退していった、っていう報告を受けたんだよ。どう思う?」


アンセルは訝しげに眉をひそめる。


死にたくない、か……。

普通なら死にたくないから撤退する筈だが、

戻るのが嫌っていうのはどういうことだ?


と、その時。

辺りが真っ赤な光で照らされた。

光源を探すと、アルロート上空に真っ赤に光る紋章が現れているのが見える。

何だよあれ……。

直ぐにノーグの背に乗ると、アンセルに手を差し出す。


「アンセル、乗れ!」


彼はノーグを怖がりながら、手をおずおずと手を掴んできた。

手を引いて彼を引き上げると、ノーグは勝手に飛び上がった。



ЖЖЖ



紋章はアルロート全てを覆い尽くし、不気味な赤い光を発し続けている。

紋章に描かれている文字は見たこともないもので、描かれている図形は統一性の無い奇々怪々な物ばかりだ。


「あれは一体何だ?」


「僕に聞かないでくれる?」


「バエラから何か聞いてないか?」


「老師から?何も聞いてない!聞いてたらこんなに慌ててないよ!」


憤慨してアンセルは叫び散らす。

耳元で叫ぶな!


地上を見下ろすと兵士達がざわついて落ち着きを失っている。

不味いな、統率が取れなくなる。

急いで指揮に戻ろうとノーグに降下するように指示を出す。

その瞬間聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「死にたくないなら下がれ!巻き込まれるぞ!」


必死に周りの兵士を後退させようとガナンが叫んでいた。

困惑していた兵士達だが彼の必死な形相にただならぬ物を感じ取り、徐々に後退していく。

やがてアルロートから全ての兵士が森の中に戻ると、ガナンは叫ぶのを止めて自分も森へ逃げ込んだ。


兵士がいない所を選んで着地するとノーグはキュラァァァァアと甲高い声を上げる。

それに答えるように木を殴り倒しながらガナンが此方に走ってきた。


「ガナン!あれは何だ!」


「カルローディアの魔印だ!あれの下にいる奴は根こそぎ魔力が取られる、500年前ですら使われてない禁術だ。ほら見ろ、魔術が発動するぞ」


ガナンが指差すと同時に紋章から赤い光線が放たれた。

一瞬で紋章の下にいた生き物は魔力を吸い取られ、死んだ。

城壁の周りに生えていた木が枯れ落ち、草は土色に変わっていく。


やがて紋章が消えると、上空には紫色に輝く球体が残された。


「マジかよ……」


その光景を見てガナンは首を振って頭を抱えて悶えている。

が、直ぐに動きを止めて改めて上空を見た。

すると今度は煙と共にバエラが現れ、何があった?とガナンに詰め寄る。

ガナンはバエラの胸ぐらを掴み、前後左右に揺すって怒鳴り付けた。


「ジジイ!てめぇどういうことか説明しろ!何であの術を知ってる奴が生きてんだよ!」


バエラはガナンの顔を平手で打ち、局地的地震から逃れると服装を正してから話し始めた。


「落ち着きたまえ。あの方の弟子がいる以上使われてもおかしくない」


「クソッ!」


ガナンは近くに落ちていた岩を持ち上げてアルロートに投げつけた。

岩は見事な直線を描き、凄まじい勢いを保って城壁に飛んでいく。

そしてドゴンッという音と共に城壁の一部にポッカリと穴が空いた。

豪快なストレス発散だなぁ、とぼんやり見ていると隣にいるアンセルがカタカタと震えだした。


「どうした?」


「どうした?じゃないよ!あれ見て何で平然としてられるの!?」


「いや、デュレーンだったらやりかねないし。別に驚くことなんて無いだろ?」


ドラゴン王の真の姿を見た身としては驚く方がおかしいと思うんだが……。

だが、アンセルは首を横にブンブン振って否定してきた。


「驚くよ!シュドムは結構感覚がずれてる!」


アンセルは腕を振り回して喚き続けた。

うるさいので口を押さえて黙らせると、暫くはモゴモゴ言っていたが直ぐに諦めて静かになった。

アンセルから手を離し、デュレーン二人に向き合う。

「それで?俺達はアルロートに殴り込んで構わないのか?」


「むしろそうしてくれると助かる。あれが使われたと言うことは恐らく……」


「恐らく?」


「いや、今は言えない。済まないが理由は聞かないでくれると助かるよ」


「……いいだろう。アンセル!アジャスとレティアを呼んでこい」


「え?あ、分かった!」


アンセルはすぐに駆け出すと森の中へと消えていった。

さて、少し待つか。

そう思って地面に腰を下ろした時だった。


「なっ!?」


バエラが驚きの声を上げた。

一体なんだ?と聞こうとして顔を上げると、様々な方角の空から幾つもの光が此方に飛んで来ている。

その数およそ10。

ガナンを見ると彼はあーあ、と溜め息をついて言った。


「十二宮評議会が集まったな」


「何だそれ?」


「簡単に言えばデュレーンの集まりだ。ほら見ろ一人こっちに呼びに来た」


光の1つは此方に飛来するとバエラの隣に降りてきた。

バエラはやれやれといったように首を振り、光に向き合う。


「姿を見せたらどうだね?」


やがて光が消えると、現れたのは白い和服を着た少女だった。

サラサラと流れるような深い紫色の髪、

眠たげに見えるが、それでいて鋭い眼光を放つ金色の目。

何より大きく開いた胸元から覗く薄い胸に描かれた一際存在感を放つ黒い紋章。

こんな特徴を持っているのはただ一人。


「ハルヴェルの巫女か……」


「御名答、名はユキナ・トコノメ。ユキナと呼んでくれて差し支えありません」


ハルヴェルとは大陸から少し離れて島の名前だ。

昔から大陸との接点を断って独立した文化と統治形態を作り上げている為、その存在は謎に包まれている。

ただ一つ大陸で知られているのは巫女の存在だ。

ハルヴェルの巫女は3国の王が変わると挨拶に出向き、不干渉と不詮索を誓わせる。

どんな暴君でも巫女に逆らった者はいない。

いや、逆らえた者はいないと言うべきなのかもしれない。

それを理由にハルヴェルの巫女は不思議な力を持っていると噂されていた。


俺も2年程前に挨拶に来た一行を見たことがあるが、その時見たのが今目の前にいるユキナだ。

新たな若い巫女が挨拶に来た、と王都はお祭り騒ぎだったのを今でも覚えている。


「あんたもデュレーンだったのか」


「その問いに答える事はできません。と、答えればそなたなら分かるでしょう?」


「まあな」


ユキナは満足気に頷いてバエラの方に向き直ると彼の頭をペシッと軽く叩いた。


「うつけもの。あの禁術が使われたなら彼女は起きてしまいます。何をのんびりしているのですか?」


「返す言葉もない……」


バエラはひたすら頭を下げ続けている。

口から生まれたような老害が何も言い返せていない。

珍しいことがあるもんだ。

面白いので放っておくと、見かねたガナンが止めに入った。


「ユキナ、本題を忘れてるだろ?」


「忘れてなどおりません。評議会を開会します。至急、上空にお集まりを」


そう言うとユキナは魔力を身に纏い、空に戻っていく。


「だってよ?爺さん行こうぜ」


「ふむ、シュドム殿少し待っていてくれるかね?」


「早めに頼む」


二人は頷くと魔力を身に纏い、ユキナの後を追うようにして空に飛び上がると他のデュレーンと合流して評議会とやらに参加した。


3分後、ガナンとバエラは此方に戻ってきた。

だが二人ともひどく疲れており、一体何があったのか心配になる。


「たった3分で何があった?」


「お前からしたら3分でもよ、俺達からすると3日間だったんだぜ?」


大袈裟なと思って笑みを浮かべると、疲労困憊のバエラが口を開いた。


「デュレーンの一人が結界関係の魔術に詳しくてね、結界内で時間を早めたまま評議会を行ったのだよ」


「相変わらず凄まじいな、デュレーンは。それにしても3日間も話し合ってたのか……内容は聞いても良いか?」


バエラはいつも通り首を振った。

駄目だったか。

残念だ、と溜め息を吐くと哀れに思ったのかバエラが肩をポンポンと叩いてくる。

慰めるなら教えてくれ。

だが、ここで諦める積もりはない。


「一つだけ聞かせてくれ」


「答えられる事ならば答えよう」


「殴り込むのは危険か?」


「果てしなくね……」


バエラは余裕の無い顔でそう答えた。

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