第二十八項 盛者必衰
どうも。新参猫です。
明日から寒くなるそうです。
厚着しなきゃです。
翌日、朝陽が昇り始める頃に荷物を纏めて
外に出た。
まだ早朝なので辺りは薄暗く、
皆寝静まっている。
眠い目を擦りながら笛を吹いてノーグを
呼び出した。
ノーグはすぐに飛んでくるとゆっくり降下し、
静かに着地する。
相変わらず気が利くな。
だが、何処かで拾い食いでもしていたのかノーグの口元には何かの血がベッタリと残っている。
仕方ないので濡れた布で拭き取ってやるとグゥと鳴いて喜んだ。
少し遅れてアジャスが外に出てくると、何もしていないにも関わらずルージャが舞い降りてきた。
何か負けた気がするな……。
アジャスが頭を優しく撫でるとルージャはキュルルルと高い声で鳴いて目を細める。
「よし、出発するぞ!頼んだぞ、アジャス!」
「おうよ!大将も頑張れよ!」
アジャスはそう言うとルージャの背中を叩いて
合図を出した。
するとルージャはグラァァァアと高らかに吼え、空に舞い上がる。
そして、そのまま北の空に消えた。
さて、俺達も出発だ。
ノーグの背中に乗り、アジャスと同じ様に背中を叩いて合図してみる。
だが、ノーグは不満そうにグルルルと
低く唸った。
いつも通りの合図がお好みらしい。
「行くぞ!ノーグ!」
「グラァァァァア!!」
辺りに咆哮を響かせるとノーグは大地を蹴って空に飛び上がった。
アジャスと違って俺は説得もしなければならない。
気が重いな……。
ЖЖЖ
6時間―――。
南に飛び続けると眼下に巨大な砂漠が見えてきた。
グルドント大砂海だ。
大陸最大の砂漠で、独自の生態系や部族が暮らしている。
歩いて越えようとすれば死を覚悟する必要がある程危険な事で有名だ。
別名、旅人喰らい。
地元では砂漠に行って帰ってこなかった時、砂漠に喰われたと言うことが由来らしい。
そんな恐ろしい砂漠だろうと空を飛んでさせいれば簡単に越えられるのだから、ありがたい話だ。
ノーグ様々だな。
感謝の意を伝えるために首の横を撫でてやるとノーグはグゥと嬉しそうに鳴いた。
4時間後―――。
太陽が天頂を通り過ぎ、辺りは砂漠特有の暑さに覆われた。
上空に居る分多少ましなのだろう、それでも結構暑い。
鎧が脱げれば少し涼しくなる筈だが、ドラゴンの背の上なのでそれもできない。
我慢するしか無いな。
それにしても砂漠の上を飛ぶのは退屈だ。
景色が変化しない所を延々と飛ぶのがこんなに辛いとはな。
しかも話し相手がいない。
誰か連れてくれば良かったな……。
と、その時。
ノーグがグルルルと鳴いて辺りを警戒し始めた。
オールドナ越えの時にはノーグが警戒した1時間後くらいに巨人が現れている。
今回は何が出てくるんだ?
1時間後―――。
ノーグが警戒していた理由が判明した。
東の海岸付近で煙がいくつも上がっている。
恐らく南の軍勢のキャンプだな。
「ノーグ!あの煙に向かってくれ!」
グルと短く鳴いてノーグは進行方向を東に変えた。
ЖЖЖ
あてが外れた。
煙に近付くにつれて悲鳴や雄叫びが聞こえてくる。
どうもキャンプじゃないらしい。
「ノーグ!高度を下げてくれ!」
低空飛行に移行すると、地上で激しい戦闘が行われているのが見えた。
どうやら連合軍とフォルスの軍勢が前線を押し合っているらしい。
比較的軽装でゲリラ戦を得意とする連合軍にとってあまり嬉しい状況ではないだろう。
このまま長引けば確実に押し返される。
どっかで一石投じてやらないと……。
様子を見る為に飛んでいると後方から羽の生えたジャルジュの青年が追い付いて来た。
「お前さん、どっちの味方だ?」
「連合軍側だ!」
「なら、俺等の仲間だ!来て早々悪いが頼みがあんだ。聞いてくれるか?」
「言ってみろ」
「前線でうちのバカ大将がピンチなんでな、助けてやって欲しいんだ」
「自分達じゃできないのか?」
質問に対して青年は苦々しい顔をする。
「俺様だって助けてぇよ。けどよ、あの鐘のせいで近づけねえんだ」
「……分かった。俺が助けよう」
「恩に着るぜ、アンちゃん」
カラッと笑い、青年は何処かに飛び去っていった。
どうやらマタロフの鐘が使われているらしい。
見付け次第壊すか。
辺りを飛び回り前線を探しあてると、膝を着いた連合軍の将と高笑いしているフォルスの将が見える。
高笑いしてる奴、気持ち悪いな。
遠くから見ても分かるくらい、そういうオーラが出てる。
「ノーグ!あの気持ち悪い奴の上に連れてってくれ!」
何も言わずノーグは加速し、徐々に高度を下げる。
俺が飛び降りられる高度になった瞬間。
「グラァァァァア!!」
雄叫びを上げて合図してくれた。
ありがたい、と心の中で感謝しつつ剣を抜く。
そして、剣先を高笑いしている奴の口に向けて落下した。
ЖЖЖ
連合軍大将ゴンド・アブレッヒは死を覚悟していた。
目の前には先程まで互角に剣を交えていた敵将が高笑いをしている。
対して自分は膝をついて奴を睨む事しかできない。
どうやら敵の力量を見誤ったみてぇだ。
魔術を使うとは聞いていたがこれ程強力とはな。
だが、諦めるわけにはいかねぇんだ。
腹の立つ笑い方をする奴を必死に睨み付ける。
だが、余裕綽々の敵将は一切怯みはしない。
「おやおやぁ~?その程度でしたか?先程まであれだけ威勢がよかったと言うのに」
「黙りやがれ、儂はまだ負けてねえぞ」
「アキャキャキャ!そんな状態で負けていないと?とんだお笑い草ですね?」
確かにこいつの言う通り、武器を振るうどころか立つことさえままならない。
けどよ、諦めちゃならねえんだよ!
「うらぁぁぁぁあ!!」
渇を入れるために叫び声を上げ、空を見上げる。
すると有り得ない光景が目に映った。
「グラァァァァア!!」
ドラゴンが空を飛んでいる。
両軍から悲鳴に似たどよめきが上がり、
戦場は混乱を極めた。
ここで怯んだら負けだ!
無理矢理腹に力を込めて声を出す。
「てめぇら!ドラゴンが味方についたぞ!
勝利の女神は我らに微笑んだ!」
「「うぉぉぉぉお!!」」
こういうのは言ったもん勝ちだ。
これでうちの軍はドラゴンに怯えないで済む。
だが、驚くのはまだ早かったみてぇだな。
ドラゴンから人が飛び降りてきた。
そいつは剣先を下に構え、敵将の上に降ってくる。
対して敵将は上を向いたまま口を開けて呆然としていた。
降ってきた奴の剣は吸い込まれるように敵将の口に入り、その体を貫きとおす。
敵軍から悲鳴が上がり、敵が少し後退した。
そいつは剣を引き抜くと真っ赤に染まったそれを高らかに掲げ、叫んだ。
「獣の旅団が団長、シュドム・アクリエス。
連合軍に味方するっ!!」
どうやら本当に女神が微笑んだらしい。
ЖЖЖ
「獣の旅団が団長、シュドム・アクリエス。連合軍に味方するっ!」
連合軍から雄叫びが上がり、フォルスの軍からは悲鳴が上がる。
ネームバリュー結構あるな。
不名誉かと思いきや意外なステータスになってるぞ。
不敵な笑みを浮かべ俺はフォルスの兵士を見やる。
ガチャガチャと鎧が揺れる音が辺りに響いた。
怯えてるのがバレバレだ。
だが、どうにか己を奮い起たせた敵兵が10人程、此方に駆け出してきた。
敢えて黙って見ていると10人で取り囲んで俺の隙を探している。
ザッと見回した限り全員手が震えており誰一人として場慣れした様子がない。
所詮雑兵か。
「ほら、来いよ?」
挑発すると何故か全員同時に攻撃してきた。
普通、熟練の兵士だってそんな動きできねえよ!
雑兵かと思って嘗めてたけど意外と強いじゃん!
慌てて背の大剣を引き抜き、抜刀と同時に横に振り抜く。
手応えはあったが残念ながら7人しか仕留められていない。
残り3人の攻撃を剣でいなし、何とか囲いの外に出る。
再び同時に切りかかってくるかと警戒したが、
残念ながら一人づつ来た。
何だ、さっきのはまぐれかよ。
しかも揃いも揃って剣が遅い。
振り下ろす前に全員首を落とされ、絶命した。
両方の剣を振り回して血を落とし、敵軍を睨む。
「てててて、撤退しろ!」
勝手に一番前の兵士が撤退を命じた。
普通なら誰も言うことを聞かないがパニックに陥っていたのか全員逃走しはじめた。
連合軍の将は何とか立ち上がり何か叫ぼうとする。
その口を押さえて叫ぶのを止めさせると凄まじい顔で睨まれた。
「追撃はドラゴンにさせる。ゆっくり進軍して軍をを整える方が良いと思うが、どうだ?」
口に置かれた手を払いのけ、彼はしばらく思案していた。
やがて頷くと彼は後ろを向いて連合軍と向き合う。
「追撃はドラゴンに任せる!儂等はゆっくりと陣に向かうぞ!」
「「おうっ!」」
対する俺は空に向かって笛を鳴らした。
辺りに低い角笛のような音が響き渡る。
すぐにノーグが飛来し、上空を旋回し始めた。
「ノーグ!今逃げていった奴を好きなようにしていいぞ!代わりに一人も逃がすな!」
「グラァァァァア!!」
雄叫びを上げてノーグは飛び去った。
これでよし。
改めて連合軍の将に向き合うと彼は笑って手を差し出した。
こちらも笑ってその手を取り、しっかりと握手する。
「助太刀感謝致す。儂はゴンド、
ゴンド・アブレッヒだ」
「よろしくな、ゴンド」
と、その時。
空から羽が生えたジャルジュの部隊が飛来した。
総勢50人程の部隊で、先程の青年が先頭に立っている。
彼は笑って俺の背中を叩いた。
「よくやってくれたな!アンちゃん!俺はバンドル・オルラギア。気軽にバンって呼んでくれ」
「よろしくな、バン」
空いた手で握手をすると連合軍から拍手が起きた。
中には指笛をヒューヒューと鳴らしている奴もいる。
歓迎ムードが一段落するとバンが話を切り出した。
「んで?こっこらどうするよ?親爺さん」
「ふぅむ。ここからマゴヨントルまでどれくらい掛かる?」
マゴヨントルはアルロート包囲陣を形成するために造られた南の都市だ。
非常に簡素な作りのため、攻められるとすぐに陥落してしまう。
守り続けられたのは南の戦士が一重に奮戦したお陰だ。
先日突破されて以降放棄されていたが今回の戦闘で取り返すつもりらしい。
「親爺さんの足だと6日だな」
「ふぅむ……」
「相談しているところ悪いんだが、
少しいいか?」
「何だ?」
「実は俺が今日此処に来たのは相談をする為なんだよ」
いきなり何だ?と訝しげな顔をして二人は此方を見た。
「一体何の相談だ?」
「……アルロート攻略戦だ」
「なっ!?」
「嘘だろ?アンちゃん」
バンとゴンドに衝撃が走る。
まあ、予想通りの反応だ。
慌てる二人を落ち着かせ、作戦を伝える。
二人とも唸っていたが、やがて顔を上げた。
「分かった儂等も参加しよう」
「感謝するよゴンド」
「だが、本当にそれだけで良いのか?」
「むしろ、それを引き受けてくれるのが一番ありがたい」
「そうか、トンデナル連合国家宗主ゴンド・アブレッヒ。確かにその大役を引き受けた」
「よっ!さっすが親爺さん!」
バンが茶化しながら右手を空に突き出すと、連合軍の兵士たちも同じようにして雄叫びを上げた。
周りが騒がしい中、バンが耳打ちしてくる。
「ところで、アンちゃんよ。今日はもう帰るのかい?」
「本来ならそうしたかったんだか……」
ゴンドは驚くべき聴覚でこの会話を聞き取り、目を剥いて俺の肩を掴んだ。
「何だと!?客人をもてなさせないとはどういう了見だ!」
「意味が分からない……。ま、もてなしてくれるなら断る積もりは無い!」
「ガハハハ!喜べ!今日は宴会だ!」
わあっと歓声が上がる。
殆ど第一部隊とノリが同じだな。
俺としてはありがたい事だ。
ノルノ「はぁー」
レティア「溜め息なんてついてどうしました?」
ノルノ「アジャスが何も言わずに出発したのー」
レティア「あー、成る程」
ノルノ「成る程じゃないよ!レティアさんはシュドムさんに何か言って貰ったの?」
レティア「いいえ?なにも」
ノルノ「何で余裕かましてるのー!好きなんで
しょ!?」
レティア「彼はちゃんと帰ってきますから。別れを惜しむ必要なんてないんですよ」
ノルノ「熟練夫婦みたいだね……」
レティア「熟年の間違いでは?いや、熟年では無いですけど」




