レオナ・クレイベル
私はレオナ。レオナ・クレイベル。母は人族、父は獣人族、私は人族と獣人族のハーフだ。[クレイベル]というラストネームは母のもので、母はどうやら高貴な身分だったようだ。大抵の人は名前だけでラストネームはない。父は冒険者をしていた獣人族だった。なぜ二人は出会うことになったのかは分からない、しかし、二人は結婚し、私が産まれた。
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三年後、私達家族は森にある村のはずれに住んでいた。
「ママ~、みてみて!レオナもまほうがつかえるようになったよ!」
三歳になった私は母から魔法を教わっていた。そのときは初めて使えるようになった≪ファイア≫の魔法を見せていた。
それを母は微笑んで、誉めてくれた。
「あらあら、上手ね。レオナには才能があるのかしら?ふふっ、ママは嬉しいわ」
母は森で、木の実や獣などを狩ったりし、食糧をとっている。
父は冒険者を続けていて、たまにしか帰ってこない。帰って来るときは必ず、お土産を持って帰ってくる。父が余り家にいなかったのは寂しかったが、帰ってきたらたくさんの話を聞かせてくれるし、母もいたので平気だった。
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さらに三年後。私は六歳になり、魔法もだいぶ使えるようになった。相変わらず父は留守だが、それが当たり前になっており、前ほど寂しさは感じられなくなっていた。だが、やはり父が帰って来るのは嬉しく、帰って来る日はいつもより、一段と元気になる。
「お帰りなさい、パパ!」
「おう!ただいま!今日は町にあるスイーツの店でクッキーを買ってきたぞ!」
「クッキー!?わーい、ありがとう、パパ!」
父からクッキーを受け取り、家の奥に駆けていく。
「おかえりなさい、あなた。クッキーなんて高いでしょうに。平気なの?」
「ああ。そのくらい大丈夫、ってほどには稼いでるからな。それより、マリィにもこれ」
父はもうひとつ持っていたクッキーを母に差し出す。
「私にも?ありがとう。それより、あなたが無事に帰ってきてくれて嬉しいわ」
そう言って父と母は抱き合い、キスをする。それを私は奥に行ったふりをして、柱の影から見ていた。子供ながら、私はそれを見て、いつか私もあんな風に愛し合える相手に出会えればいいな、と思っていた。
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私が十一歳になったとき、いつも通り母と家にいた。
お昼頃で、母は料理をしていて、私は家で父が買ってきてくれていた本を読んでいた。そこに二人の武装した男がドアを蹴破って入ってきた。
「オラァ!金目のものを出しな!」
まだそういった盗賊に襲われたことがなかったため恐怖で体が動かなかった。
「嬢ちゃん一人か?ならちょうどいい。盗むもん盗んで逃げるぞ。ついでにこの嬢ちゃんも拐ってな」
「了解だぜ、兄貴!」
男達は下卑た顔をしながら私に手を伸ばしてきた。
私は父から、盗賊に拐われたらどうなるか聞いていたので青ざめていた。だいたいは奴隷商に売られたりするらしい。最悪の場合は考えたくもない。
男の手が私に触れる直前に、料理場の方から氷の礫が飛んで来て、防具をしていなかった男の顔に当たる。顔に穴が空いた兄貴と呼ばれた男は私を掠めて、すぐ横に倒れた。
「なっ!お前か、このアマ!よくも兄貴を!」
もう一人の男が激昂し、母に襲いかかった。母は近接戦闘の心得はなかった。しかし、魔法の才能があり、父が言うには、王都の宮廷魔法師にもひけをとらないほど凄いらしい。
母は≪加速≫の魔法で避け、後ろから≪ファイア≫でその男を焼く。
「私の娘に気安く触るな!」
普段はほんわかしている母だが、このときは私も怯える程の形相だった。
この出来事で、私は母の強さを知り、また私の目標になったのだった。
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そして三年後。十四歳になり半月たったころ、私の幸せな生活を奪う出来事が起きた、起きてしまった。
父が帰って来る日。その日は家で本を読みながら父を待っていた。この日は、母が獣や魔物を狩ってくる日と重なったので、母は午前に狩りに行った。しかし、帰って来たときにはなにも捕れていなかった。
「おかしいわね~。いつもなら二、三匹捕れるのだけどね~。気配すらなかったのよ」
とのことだった。今思えば、それが前触れだったのだろう。
しばらくして、父が帰って来る時間に近づいてきたときに、それは現れた。
いきなり辺りが暗くなったと思ったら、直後、大地が割れんばかりの地響きが起きた。慌てて外に出る私と母。そこには漆黒の体に赤い眼、羽ばたくだけで木々をなぎ倒す翼、何もかも飲み込めるような大きな顎、存在自体が天災の部類に属するかのようなドラゴンがいた。
かつて盗賊に襲われたことが、子供のイタズラに思えるほどであった。
「あれは・・・デスディザスタードラゴン!?なぜこんなところに!?普段は活火山の頂上から動かないはずよ!?」
母が私に見せた最初で最後の狼狽した姿であった。
「レオナ!すぐに逃げなさい!私が時間をかせぐから!」
私は母が言った言葉を瞬時には理解出来なかった。いや、理解したくなかった。時間を稼ぐ、それはつまり倒せない、ということだったからだ。
「い、いやだ!ママを残して逃げるなんてできないよ!」
「いうことを聞きなさい!」
母が多彩な魔法を放つも、それらすべてが鱗にあたるが傷すら与えられずに霧散する。
「そんな!?足止めすら出来ないというの!?」
ドラゴンはこちらを向きもしない。私達はドラゴンからしたら虫と同じなのだろう。
しかし、母の魔法のひとつが顔に直撃する。それまで無反応だったドラゴンがこちらを向いた。そして、ドラゴンが前足を振り上げ、母に向けて降り下ろす。
「くっ!」
母が結界を張って攻撃を凌ごうとする。だが、その結界は硝子のように砕け散った。母は吹き飛ばされ、木に打ち付けられる。
「レ、レオナ・・・にげ・・て・・・は・・・やく」
「ママ!」
私は母に駆け寄る。
「ママ!ママ!」
「・・・・・」
呼び掛けても反応はない。気絶しているようだ。
「マリィ!レオナ!大丈夫か!?」
タイミングよく、そこに父が来た。私は、父なら倒してくれると思い、助けを求める。
「パパ!助けて!マ、ママが!」
私の言葉に父が反応し、走って来る。そのときに、≪閃光≫の魔法でドラゴンの視界を潰す。
「レオナ、目を瞑っていろよ!」
ドラゴンが閃光で視界が潰れ、悶えている隙に、父が私達の所へ走ってきた。
「どうしたんだ!?」
「ママが、あいつの攻撃で!」
泣きながらも、これまでのことを簡単に説明する。父は冒険者なのでこの事態がどれだけ異常か、あのドラゴンが街ではどんな扱いになっているのかを知っているので、ここに到着した時から青ざめていた。
「あ・あな・・た?」
気絶していた母が目を覚ました。その声は弱々しかった。
「ママ!?」
「マリィ!大丈夫か!?」
「え・・え、へいき・・・よ。それより・・レオナ・・・をつれては・やく逃げて」
「何言ってるの!?ママも一緒に!ねえ、パパ!?」
「・・・・・」
母の言葉に私は激怒した。そして、父に同意を求める。しかし、父はうつむき、黙ったままであった。
「パパ?」
「・・・すまない、マリィ!」
父はそう言うと、私を担ぎ、森を抜ける道へと向かった。
「パパ!?なにしてるの!?ママが!ママがまだいるんだよ!」
私が泣き叫んでいるのを父は無言をつき通す。私は何とか母の元へ戻ろうと暴れて、父から逃れようとする。
それに対し、父は
「すまない・・・」
そう言い、私に≪鎮静≫の魔法で気絶させた。薄れ行く視界のなかで最後に見たのは、涙を浮かべながら笑っている母の姿だった。
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私が目覚めたのは二日後だった。私は最寄りの街のメディナという街のギルドに預けられていた。そこのギルドの人から、父は私を預けた後にどこかへ行ってしまったことを聞いた。
それを聞いた瞬間私は泣き崩れた。母が死んだことに。私に力がなく、母を助けられなかったことに。そして父が、母と私を見捨てたことに。
しばらくして、その悲しみは憎しみに変わった。なぜ、父は母を見殺しにしたのか。なぜ父は私を捨てたのか。
私は父を探すために、旅に出た。ギルドの職員にはなにも伝えず、夜に抜け出した。
旅は食糧なども自力で確保しなければならず、まだ子供であった私には辛すぎた。しかし、私の中の憎しみが止まるな、と私を突き動かした。
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旅を初めて数日。私は所々の街を廻り、父をさがした。しかし、父は見つからなかった。しかも、最悪なことにマイエの街に向かう途中で女の盗賊達と出くわしてしまった。私は、盗賊に目をつけられないように≪偽装≫の魔法で、見ためをどこにでもいるような人族に、ステータスを低く変えていた。だから盗賊もわざわざ拐わないだろう、と思っていたが、甘かったようだ。
そして、私はマイエの奴隷商に売れた。だが、私は父を探すことを諦めてはいなかった。母から、奴隷商では、売れ残った奴隷は炭鉱で働かされると聞いていた。炭鉱に連れていかれ、見張りなどの目を掻い潜り、逃げてやろう、そう考えていた。
しかし、その計画は実行出来なかった。私が買われたからだ。ソーキ、という不思議な人族に。
私はなぜソーキという人族は見ため、ステータスも普通の私を買ったのかが分からなかった。そいつが言うには≪偽装≫を見破ったらしい。
私は買われはしたが前と同じく、主人であるソーキの目を盗み逃げてやろう、と計画していた。
次の日。ソーキは依頼に行くといった。そのとき、私は絶望した。母から聞いていた奴隷の扱い、それは愛玩、囮、壁役と、どれもろくなものではなく、依頼であれば囮、壁役に使われ、死ぬのだと。だが、ソーキは私を守る、と言った。その言葉を私は信じなかった。どうせ男など皆同じだ、父のように最後は見捨てるのだと。
だが、それは数時間後に覆されることになる。
後に私はソーキとの出会いをこう思う。この出会いは神が起こしてくれた奇跡なんだ、と。




