第2章 寄付の抜け穴と追放された経営顧問
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日が沈んだ頃、屋敷の裏の石段にリリアが座っているのをアルフレッドは認めた。
護衛を終えて戻ったのだ。
腰の短剣を膝に置いている。
「関所まで、マルクス卿は一言も話されませんでしたが最後に『またお会いします』と」
アルフレッドは隣に腰を下ろした。
「多分そうなるな、制度が変わらない限り。彼でなくとも同じ種類の人間が来るだろうし」
「追放して良かったのですか?あの方がいなくなっても問題は残る。塔も。借金も」
「わかっている」
「では何のための追放ですか?」
しばらく考えてから、アルフレッドは答えた。
「森を守った。20年で24,000ザゼンの価値がある森だ。今日の帳簿に足せる額で言えば、200だが」
「多いのですか、少ないのですか?」
「塔の維持費、6週間分ってところだな」
リリアが息を吐いた。笑ったのかもしれない。
「……少ないですね」
「少ない。だがもし次に美味い話を持ってくる者がいたとしても、それを出迎えるのはこの俺だ。
200ザゼンの重みを知っているこの俺が……。
この追放は目先の危機を回避したんじゃない。将来のための防波堤を作ったようなものだ」
アルフレッドは虚空を睨みつけていた。
まるでそこにマルクス卿がいるかのようにして。
「東洋には『三度目の正直』ということわざがあるらしい。2度もカモにされたんだ。学ばなければ」
息が詰まるような雰囲気。
リリアは話題を変えた。
「そう言えば旦那様の姿が、今朝から見えません」
少し心配気に言う。
「隣領まで遠縁の年寄りを見舞うと言っていた。暇なんだろう」
しくじった。さらにぎこちなさが増してしまった。リリアは、それ以上は聞かなかった。
それから、はたと思い出し懐から一枚の紙を出した。
「もうひとつ。従者が、関所で置いていきました」
コホック王都魔導供給組合の通告書だった。文面は短い。
『貴領との魔石供給契約は、契約第18条に基づき、本通告の7日後をもって解除する』
契約の定めどおりの、正当な手続きだった。
「供給組合の理事に、マルクス卿の名がありました。名簿を確認しました」
「そうか」
アルフレッドは、通告書を畳んだ。
最近開発された、魔力を使った情報伝達技術。
『霊脈通信』。
専用の用紙に霊媒師が文字を浮かび上がらせることで、距離に関係なく情報を受け取ることができる。
霊媒師でも高等魔力の持ち主にしか扱えず、そのためごく限られた人物や機関でしか使うことができないが、遠話晶より遥かに速く、正確にやり取りができる。
「手際の速さは背筋が凍るほどだな……」
アルフレッドは遥か塔の方角を振り仰いだ。
塔が止まる。
止まれば崩れる。
赤い満月が谷を照らしていた。塔が、赤く、内側から燃えるように見えた。
塔を見つめるアルフレッドの横顔を、リリアは気づかれないように盗み見ていた。
本当にこの人はたくさんのことを考えている。
見つめるうちに、鼓動が早くなる。
込み上げる感情を、治安隊長としての自覚で押さえ込む。
今はそれどころではないと自分に言い聞かせる。
そして平静を装ってリリアもまた、塔を見つめた。




