第2章 寄付の抜け穴と追放された経営顧問
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「今後我がヴェルン領はあらゆる不当な搾取と戦い、財政を立て直し、不交付を、自立を目指す!」
アルフレッドの宣言が応接室に響き渡った。
ローデンは今や凍りついていた。
膠着した空気を打ち破ったのは、やはりマルクスだった。
「ひとつ訂正を」
その言葉はひどく冷静だった。
「私は決して中抜きをしているわけではありません。
私が携わる業務の9割はあくまでも外部の立場で客観的な視点と専門的な知識を活かして解決や成長を支援することです。
この領地には、契約書を3分足らずで読める人間がいなかった。
私の取り分、それは言わばその欠如の価格です。
あなたのような方は地方にはいない。
だから私のような者が要る。
その旨……誤解なきよう」
「価格を謳うなら欠如を埋める仕事をすべきだ!」
間髪入れずにアルフレッドは応酬した。
「……あなたは欠如が埋まらないほうが儲かる位置にいた。そうじゃないのか?」
言った瞬間、またしてもアルフレッドの胸の内をどす黒い罪悪感の炎が駆け巡った。
同じ台詞を、いつか、自分が言われたことを思い出していたからだった。
アルフレッドは歯を食いしばってその思いを振り払った。
そんな表情を見てどう捉えたのか、マルクスはこともなげに言ってのけた。
「……否定は、しません」
肩をすくめながら言葉を続ける。
「ですが、王都が許しませんよ」
一瞬、目つきが鋭くなる。
だがアルフレッドもまた、毅然と見返して言った。
「では直接王都に問いただすことにしよう。
財務魔導院の監査課に、この第14条、標準様式の改変について質問状を提出する。
差出人は私だ。元、その課の、人間の」
沈黙が続いた。窓の外で、塔が低く鳴った。
やがてマルクスは鞄を取り上げた。
その表情はすっかり緩んでいた。
「お若いのによくお読みになる」
「読まなかった人間が、この領地をここまで追い込んだことは認めざるを得ない」
「ええ。ええ。そうでしょうとも。ただひとつ、申し添えておきます」
相変わらず緩い表情のままマルクスは続けた。
「私は、コホック王都魔導供給組合の理事を務めております。
組合には、取引先の与信を見直す規定がある。
契約第18条。
『信頼関係が損なわれたと判断される取引先には、7日の予告で契約を解除できる』という条文です」
コホック王都魔導供給組合は、ヴェルン領にとってセレスティアを維持するために必要なコホック魔石の供給元でもあった。
魔石の供給が断たれると、魔力で支えられている塔は、備蓄が尽きた瞬間、その力を失い一気に崩壊してしまう。
契約の解除とはすなわち、あの塔が崩壊し、3万トンもの瓦礫が谷に雪崩れ込むということを表していた。
「脅しか?」
「事実です。私は今日、あなたに追放された。それは、組合にとって、十分な理由になる」
「魔石の供給を止める、と?」
「私が止めるのではありません。組合が、規定どおりに動くだけです。
私は、単なる理事の一人ですから」
そこまで言ってマルクスは、ふと思い出したように足を止めた。
「そういえば、王都である噂を聞いたことがあります。
ずいぶん昔、ドルン……何と言ったかな?
コホック王国の西の果て、辺境の地でこの手の仕事、委託事業で、かなり手荒なやり方で成果を上げた男がいたと。
名前までは聞きませんでしたが」
彼はアルフレッドの顔をまた、値踏みするように見た。
覗き込まれたその表情は石のように固まっていた。
「一度……どこかでお会いしたことがありましたかな?」
アルフレッドは答えなかった。
答えないことが、答えになるとわかっていて、それでも、何も言わなかった。
マルクスはそれ以上追及しなかった。
扉へ向かい、出て行きざまに振り返り、足を止め、声を落とした。
「老婆心ながら。あなたは自立とおっしゃる。この領地の不交付を」
アルフレッドは振り返らなかった。
「交付金の算定式を、最後までお読みになったことは?」
そう言い残して、マルクスは部屋を出た。
廊下でリリアの声がして、連れ立って歩く足音が響いた。
関所まで護衛する旨を伝えていた。




