↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
10/17

第2章 寄付の抜け穴と追放された経営顧問

挿絵(By みてみん)


*******************************************

5

********************************************


「あなたたちが欲しいのは木材でも景観でもない。森の地下に眠る魔石の成分だ!」


マルクスは答えなかった。


アルフレッドは続けた。


「ヴェルンには魔石を精製する設備がない。法律で禁じられているからな」


魔石の原石を精製する技術は、炉の性質上、コホック王国と、ヒラー山脈を隔てて隣接するコナン大公国、それぞれの首都に住む、特別な認可を受けた大魔導士にしか許されていない。


庶民は、精製の工程に触れることさえ法で禁じられている。


設備も職人も、そもそもこの谷には持ちようがない。


原石を掘り出しても、買えるのは認可を持つ側だけ。


故に価格を決めるのも、当然そちらだ。


「だから、ヴェルンは自分の土地から出たものなのに、その価値を自分で決められない」


アルフレッドは書類を見下ろした。


「そして商会は、その事情を知っている」


だからこそ、権利だけを安く買い叩ける。


「森林資源活用……か」


アルフレッドは吐き捨てるように言った。


「よくできた名前だ」


マルクスが初めて瞬きをした。


ほんの一瞬だったが。


「……よくお調べで」


「届け出をしたのは、王都から来た教師だ。


あなたの耳に届くまでそう時間はかからなかったらしいな」


部屋に静けさが満ちた。


「つまりこういう仕組みだ。税控除と委託料は、別の経路を通る金だが、結果としてあなたの懐に流れる。


あなたはたったの200ザゼンで2万4000ザゼン分の権利を得る。


我が領地はたったの200ザゼンであなたに森を20年間も明け渡す。


三方が満たされている?


残りの二方がなんなのか教えてもらいたいものだ」


「アルフレッド様」


マルクスの声はまだ柔らかい。


「数字の見方は立場で変わります。私どもは、地方が単独では得られない資金と接続を提供しているだけです」


「では成果を聞かせてもらおう」


頁が戻された。


「見方の違いで魔石のことを無視できるなら、この事業の成果は何で測る?移住者か?雇用か?森林の再生面積か?」


「別紙に目標値が」


3冊目の資料を並べる。


「移住者年30名、雇用20名。書いてあるな。


では。達成できなかった時は?」


マルクスは答えなかった。


「第14条」


アルフレッドは、その条文を声に出して読んだ。


「『本事業の成果の確認は受託者がこれを行い、その報告をもって完了とみなす』」


顔を上げる。


「マルクス卿。確認するのも報告するのもあなた自身だ。


未達の時に委託料を減らす条項も、返還を求める条項もない。


目標値は書いてあるが外れた時どうするかは書いていない。


成果連動条件が抜けている。


成果が得られなかった時の責任は誰が取るんだ?」


「様式の違いです。地域ごとに実情が……」


「この様式は、7年前に財務魔導院の監査課が標準様式として各領へ配った。


私はその策定の場にいたんだ!」


マルクス卿の発言を遮った後、一拍おいてアルフレッドは続けた。


「第14条は同期のエルンスト・フォーゲルが起案した。彼はまだ在籍している。あとで確認すれば良い。


内容はこうだ。


成果が未達の時、委託料の3割を返還すると書いてあった。


その一文がない。


どこかで誰かが消している。


あなたが消したのでなければ……誰が消した?」


マルクスの手が鞄の縁を弄っていた。


ローデンはペンを握ったまま固まっていた。


小さく咳払いしてからマルクスが口を開いた。


「前例では、これで問題は起きておりません」


「ローデン殿」


アルフレッドは、初めて代官のほうを向いた。


「この契約は20年だ。あなたは3年で異動する。


署名しても給金は下がらないし、20年後の森がどうなっているかもあなたには関係のないことだろう。


だが領地に異動はない。ずっとここにあり続けるんです!」


ローデンは何か言いかけ、しかし言葉を選べずにいた。


「もう一つ。第9条。この条文も怪しい。


『採掘権は、本寄付の趣旨に鑑み、寄付元に開放されるものとする』。


制度が禁じる『寄付の見返りとしての利益誘導』に真っ向から抵触する文言だ。


だが、よくできている。


もしこれが税務監査で違法と判定され、控除が取り消されても、損をするのは元々払うべき税金に戻るだけのあんた方じゃない。


寄付金をすでに吸い取られ、追徴課税と莫大な加算金を押し付けられるのは、契約の当事者であるこの領地と、ここに署名したローデン代官だけだ」


「ハッ!そこまでの解釈は……」


「解釈は監査課がする。


その監査が入った時、責任のすべてが自分たちに向かないよう、安全な場所に逃げるための『保険』としてこの条文を仕込んだ。


契約書を3冊に分けているのはそのためだな?


本当にこれは……人を煙に巻くためだけに作られたとしか思えない契約書だ。たいしたもんだ」


「……」


代官が握ったペンの滴りは、いつの間にか冷や汗のそれに変わっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。