【第六話】――いざ。コスモワールドへ!!――
デコボコ三人組ですが、なんだかんだ仲良くやってます。
巨大な観覧車が、横浜港の青い空をゆっくりと回っている。
時刻はとうに正午を回っていた。
恋人たちや家族連れが行き交う遊園地へ、ひときわ目立つ三人組が現れた。
「うおおおおおおお!!!
コスモワールド着いたぁああああ!!」
「着いたね〜!!」
「いいじゃん!!
俺、ここ全部乗る!!
全部だぞぉぉお!!」
須佐男は大きく両腕を広げた。
夜姫も、銀色の長い髪を海風になびかせながら、嬉しそうに園内を見渡している。
そして、一柱だけ。
「……………………」
「……アマテラスさま? 大丈夫です?」
最高神・天照。
赤煉瓦倉庫の騒動から、ようやく解放されたところである。
「アマちゃああん!!
何いつもの如く辛気くせぇ顔してんだよぉ!!
さっさと、早く来いって!!
まずジェットコースターな!!」
「……行ってこい。俺は待っている」
「アマテラス様! 私も、あれ乗りたいです!」
夜姫が振り返った。
銀髪に灰青の瞳が、きらきらと輝いている。
「……一緒に、行きましょう……よ?」
天照はそれを見て、静かに頷いた。
「……やった」
夜姫が笑った。
それだけで、天照の眉間に刻まれていた皺が少し薄くなる。
――はずだった。
「よっしゃあああ!!
夜姫ちゃん!!
俺と一番前なぁあああ♡」
「…………………………」
◇
ダイビングコースター『バニッシュ!』
轟音とともに、車両が駆け抜けていく。
そして、勢いよく水面へ突っ込むように消える車体。
――ザッパァァアアン!!
「きゃああああああ!!」
遠くから、絶叫が聞こえてくる。
「うおおおおお!!
最高じゃねぇか!!」
「……うそ。あれ、濡れちゃうの?」
「最高じゃん!!
夏だぜ? 海だぜ?! 水浴びだぜ?!
横浜と言ったら『バニッシュ!』っしょ!!
乗らない奴は馬鹿だろ!!
夜姫ちゃん、ほら、あれ乗るぞ!!」
「え、う、うんっ!!
……カッパは、あるの? かな??」
須佐男は乗り場へ向かって、鼻歌混じりに勢いよく夜姫の手を引いて進んでいく。
「怖かったら俺様に掴まれよ?
特別にぎゅーってしてやる♡」
「こ、怖くないから!! 平気だよ!!」
「フッ! 可愛いーじゃねぇか!!
それでこそ、女神様ってか?!」
「揶揄わないでよ……。
須佐男だって着替え持ってきてるの?」
「ナハハハハハハッ!!
水も滴るいい男が、んなこと気にしてられっかっつーーのっ!!
膨れっ面すんな!
ほら、代わりに俺が怖かったら掴まってやる♡
だ・か・ら安心しろ。
な?♡」
「…………………………………………………」
その背後。
天照は腕を組み、須佐男のつむじを、じっと見つめていた。
「……おい、須佐男」
「あ? なんだよ居たのかよ、アマちゃん。
ジメッとしてて気づかなかったわ」
「これは、一両四人乗りだそうだ」
「おうよ!!」
「……三人で乗れそうだな」
「だろぉ♡
ほら、夜姫ちゃんは俺の隣ぃ!!」
天照は夜姫を見た。
「……アマテラス様の隣……………」
その時。
三柱の真後ろに並んでいた女性たちが、ひそひそと話し始めた。
「え、やば! あの金髪のイケメン……
超タイプ♡」
「ねぇ、あの人、隣空いてるの?」
「えーーラッキー♡
私、行っちゃおうかなぁ。
彼女いないのかな?♡」
夜姫。
この女神が、聞いていないわけがない。
「ぁ、ぁ、ああ・あ・あの!!
空いてなんか!!
いませんからぁっ!!
この神の隣は私ですっ!!!!」
「……………………………………………え?」(須佐男)
「…………なに、この子」
「ちょ!! 夜姫ちゃ……そりゃないぜぇぇ!!」
「その代わり……こっちが、空いてます…………ので。
はは……はははは……ははははは………」
銀髪の夜の女神。
苦しい渾身の笑顔。
須佐男の両腕を後ろから押さえ、しっかり献納。
しばしの沈黙。
――だが、この男も強い。
「や!! やば♡
私が乗る!!」
後ろの女の声。
「かっこいいーーー♡
いいな、私も乗りたい!!」
「きゃーーー♡ 黒髪好き♡♡」
「な、なんだ、可愛子ちゃんたち!?
みんな俺と乗りてぇのか!!
でも残念、俺様は夜姫ちゃんと……」
しかし。
前列には、天照と夜姫。
後列には、須佐男。
そして、先ほどの女性が一人。
「……………………」
「……………………」
「…………おい。何でこうなった?」
――ガタン。
安全装置が固定される。
「おい、はええぞ!!
待て!! まだ席は決まってねーー…………」
前列から、夜姫の弾んだ声が聞こえた。
「アマテラス様の隣に座れて、本当に良かったです♡」
「そうか」
「おい、おい!!
なんなんだよ!! その会話はーーーーー!!?」
「お兄さん元気だね!最高♡
ほら、動き始めたよ!楽しもーーー!!」
車両がゆっくりと動き始めた。
眼下にはコスモワールド。
その向こうに広がる、横浜の港。
「………随分登りますね」
夜姫が嬉しさを堪えるように、声を上げる。
「あ、ほら!! アマテラス様、海が見えますよ!
昔、ヴァレルから飛んだことを、思い出しますね……」
天照は、その横顔を見ていた。
――ガタン。
車両が高度を上げる。
「……アマテラス様」
海から吹き上がる風に、銀の髪が揺れていた。
「……こうして二人で遊園地に来られるなんて、思ってもいませんでした」
「……そうか」
「……はい」
夜姫が、少し照れたように笑った。
天照も、その顔を見て僅かに目を細める。
――ガタン。
―――ガタン。
――――ガタン。
車両が頂上へ差しかかる。
一瞬の静寂。
「………ドキドキします」
夜姫が、天照を見上げた。
目と目が合う。
天照の琥珀の瞳が、ほんの僅かに和らいだ。
その時だった。
「アマちゃあああああん!!!」
後方から、聞き慣れた声。
「夜姫ちゃんとばっか喋ってんじゃねぇよ!!
俺様もいるぞぉおおお!!」
――急降下。
「きゃあああああああぁああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「うおおおおおおぉおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!」
車両が一気に加速する。
「……………………………」
「俺様!! 横浜見てるぅぅううううぅううううううぅうう!!」
――ガタガタガタガタガタガタンッッ!!
バニッシュは激しいカーブを抜け、またも急降下。
「きゃあああああぁぁあああああぁああぁああああっ!!!!!!」
「うおおおおぉぉおおお!! おおおぉぉぉおおおおおおお!!」
風を切る車体が、水面へ吸い込まれるように落ちていく。
――ザッパパパパァァザッパッアアアン!!
空に円を描くように、勢いよく噴き上がる水しぶき。
夜姫の銀髪が青空に舞った。
「アマテラスさまぁあああ!! たのしぃぃぃですっ!!」
天照も、思わず笑う。
その後ろから。
「夜姫ちゃあああああん!!
俺も。一応、いるぞぉおおおおお!!」
――轟音。
――歓声。
――嵐の絶叫。
天照は静かに思った。
(……やはり。 同じ車両に乗るべきではなかったな………)
▶︎次回・最終話。
後編へつづく
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
次回、最終回です。
長い一日はどのように終わりを迎えるのか、
見守ってもらえると嬉しいです。




