【最終話】――神々のデートの行方――
ドタバタなパロディも最終回です。
笑ってやってもらえると、嬉しいです。
降車後。
しばらくして。
三柱は園内のカーニバルゲームへ立ち寄っていた。
「いいねぇ。夜姫ちゃん、見ろよ!!
あれ全部、景品だってよ!!」
ずらりと並ぶぬいぐるみやお菓子。
目の前には、緩やかに起伏したレーンが並んでいる。
ボールを転がし、指定された場所にうまく収めることができれば景品がもらえるらしい。
須佐男は両手の指をガシッと絡め、関節をボキボキと鳴らしていた。
「よおーーーし!!
夜姫ちゃん、欲しいのどれ?!」
「え……じゃあ、あのまるい耳の白い子」
「おっしゃ!! ヒヒ……任せろや……まずは、
軽ーーーくな?」
須佐男が、ふわりとボールを構える――
「あーーーら、よっとぉ」
緩やかな曲線を描いて転がるはずのボールは――
――ドドドドドドドッドッゴンッ!!!?
――プシュ〜〜……????
ボールは赤みを帯び、なお回転しながらも壁の中にいすわっている。
やがて、回転が収まり。
コロン。
ようやく落ちた。
――焦げ臭い湯気と共に。
「あーーあ……」 (夜姫)
「……須佐男……(怒)」 (天照)
辺りの喧騒は、瞬く間に消えた。
「「「「!!!?」」」」
周囲の人間たち。
「。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。」
「う。。。」
「うわあぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」
大歓喜である。
「きゃぁぁぁああああああ!!!」
「天才よ!! ここに天才がいるわ!!」
「君、野球興味ある?
メジャーリーグ明日からでもどう?」
「カッコいい!! あの、サインください!!」
「写真撮ってもらえますか?!」
須佐男、真面目に困惑。
「………いや、力加減間違えたっつーーか。
手加減したんだけどな……」
「手加減?!
とりあえず君の連絡先をーー」
その横で、静かな音がした。
――ドンッ。
――コロ、コロン。ドンッ。トン、トン……。
ボールは緩やかに転がり、指定された場所へぴたりと収まった。
「……………………おお!!」
係員が笑顔を見せる。
「おめでとうございます!!」
「わぁ!!
アマテラス様、すごい、すごいです!!」
天照は受け取った白いぬいぐるみを、そのまま夜姫へ渡した。
「ありがとうございます!」
「……夜姫、行こうか」
天照が夜姫の手を引いていた。
後を追うように、須佐男の身体が前に出かけた所で、思い切り腕を掴まれた。
「君!!すごいよ、その才能。 活かす気ない?」
「な!!何すん……!!」
須佐男が人々に囲まれる外で、
天照は夜姫の肩に手を添えて道を促す。
僅かに須佐男に首を傾けたが、すぐに何事もなかったように前を向いた。
「お兄さん!!サイン書いて!!」
「う………あんにゃろ……!!」
咄嗟に叫んだ。
「ま……待て!!
あ、あの男の方が!!
俺より全然つえーー玉投げんだかんな!!
おい待てぇ! アマちゃんんっっ!!
そこの、ヤンキーみたいな金髪っっ!!
夜姫ちゃんは、俺の――!!!!」
須佐男の馬鹿デカい声。
その言葉に、周囲の人間たちの顔が、ぐるりと金髪の大男
――天照へ向いた。
須佐男と天照。
ガン見。
目と目が合う。
「………………………」
友情の証である。
――んなわけあるか。
「おい、須佐男………
人間界で余計なことをするなと、
何度も言っているだろう………」
天照から伸びる長い影が、いつもより黒く揺れている。
「……んーー、なんだっけか? ニカッ」
須佐男の肩を押し除ける人間。
「………ねぇ、君!!」
「奇跡のイケメン……!?」
「……人間国宝?!」
一歩。
また一歩と、人々が天照と夜姫の周りへと躙り寄る。
――はぁ。
項垂れた頭。
深い溜息。
人間たちが、本能的に一歩退いた。
「夜姫……」
耳打ち声。
「はい、なんでしょう」
「飛んでいいか?」
「……ダメでしょう……」
「なら……」
天照と夜姫は、琥珀と灰青の瞳を見交わし、頷いた。
そして、同時に少し笑う。
周囲はその光景に、そっと息を呑む。
「――走るぞ!!」
「ま、待ちなさい!!」
二柱は全速力でカーニバルゲーム場を抜け出し、駆け抜ける。
「お、おい!!
俺様を置いてくなぁぁあああ!!」
その後を、追いかける須佐男。
その速さたるや。
ギリシャ神話に登場する、伝令神ヘルメスの如く――。
「な、なんなんだ?? あの三人組は」
◇
それからも三柱で園内を巡るうちに、
やがて、陽は沈んでいった。
横浜の街に、ひとつ、またひとつと灯りがともり始める。
まだ軽やかな音楽が流れているが、夕闇が深まるにつれ、昼間の喧騒もどこか遠くなったように感じられる。
見上げれば、巨大な観覧車。
色とりどりの光をまとい、夜空に浮かぶ大きなオルゴールのように、ゆっくりと回っていた。
「……綺麗ですね」
夜姫が見上げた。
「あれに……」
そっと控えめに、細い指が大きな観覧車を指差していた。
「……最後に乗りたいです」
「いいな。 行こうか」
天照の横顔は穏やかだった。
「……はい」
「よっしゃああああ!!」
須佐男が両腕を上げた。
「観覧車ぁ!!
俺もずっと楽しみにしてたんだよなぁ!!」
「須佐男も? ふふ、行こ行こ!」
三柱は、観覧車の乗り場へ向かった。
すると。
「ん……あれなんだ?」
須佐男が、何かを見つめている。
「ちょ、見ろよ。 すげーー!!」
乗り場近くに掲示された案内があった。
透明な床と窓。
シースルーゴンドラ。
「アマちゃん!!
あっちよくね?!
床がスケスケじゃねぇか!!」
「そうだな」
「やべぇ!!
あっち乗ろうぜ!!
絶対楽しいだろ!!」
「……好きにしろ」
「夜姫ちゃん!!
こっち!! 絶対こっちがいいぜ♡
明らかに特等席だろ!!
ほら……」
須佐男は意気揚々と、シースルーゴンドラへ乗り込んだ。
「て、あれ……?」
――シースルーゴンドラ。
須佐男、一人で乗車。
夜姫と天照は、その後に来た通常のゴンドラへ。
係員が笑顔で扉を閉める。
「いってらっしゃいませ」
「……………………あれ?」
◇
一方その頃。
後から上昇してくるゴンドラには、天照と夜姫が座っていた。
――二人きり。
大観覧車、コスモクロック21。
ゆっくりと上昇していくゴンドラ。
窓の向こうには、横浜の海と夜景が広がっていた。
赤煉瓦倉庫に、港に停泊する船の灯り。
遠くに見える横浜ベイブリッジ。
その向こうに広がる、幾千もの街の光が、星の瞬きのようにちらちらと輝いている。
「……横浜。素敵な街ですね」
夜姫は窓の外を見つめていた。
天照は、その向かいに座っている。
ようやく。
静かになった。
――実に、長い一日となってしまった。
「……今日は、楽しかったです。
本当にありがとうございました」
「……そうか……良かった」
少しの間が過ぎたあと。
――ギシ
夜姫が、向かいに座る天照の隣に腰を下ろした。
迷うように、そっと見上げる。
「……アマテラス様は、
……楽しかったですか?」
「…………」
天照は少しだけ考えた。
そして。
「……うるさかったな」
夜姫が、くすりと笑う。
「……ふふ……本当に」
天照の口元も、僅かに緩んだ。
「二人なら、もっと楽しかったな?」
天照が顔を覗き込んで、夜姫に笑った。
夜姫の胸が、ぎゅっと締まった。
「……また、いつか……
……連れて行ってください」
声は震えていた。
「そうだな。また、来ようか」
天照が、ゆっくりと夜姫へ顔を向けた。
「夜姫」
「……はい」
「俺は今夜、こっちに残ろうと思う」
「…………のこる?」
夜姫は少しだけ目を見開いた。
「お前は帰ってもいい」
その声はいつもより、少しだけ小さかった。
「……え、私も一緒がいいです」
そして。
天照は夜姫の灰青の瞳を真っ直ぐ見た。
「なら。
お前も、泊まっていくか?」
まるで、明日の天気でも告げるように言い放つ。
「…………え?」
夜姫の顔が、赤く染まる。
「泊まる……?」
「……どこに……?」
天照は窓の向こうを指差した。
港の先。
「あそこ」
そこには、白い帆を広げたようなその建物が浮かんでいた。
みなとみらいを象徴する、インターコンチネンタル ホテル。
「部屋は取ってあるんだ」
「…………え?」
――いつの間に。
天照は、何事もなかったように夜景を見つめている。
「……アマテラス様……」
「何だ」
「……いつ……取ったんですか?」
いつの間にか、頂上は過ぎ、間もなく地上の灯りが近づいてきていた。
「さあな」
天照が、ふと夜姫を見た。
そして。
思い出したように、少しだけイタズラに笑った。
「一緒に寝るか?」
「…………ね……る?」
胸が、どきどきと鳴る。
天照は、夜姫の様子を見ていた。
もう真顔だ。
「…………そ、それは、
…………無理です!!」
天照はまた、くすりと笑った。
「……そうか」
「……え」
天照の口元が、ほんの少しだけ緩んだ。
「……とりあえず、ゆっくりしていけそうだな」
天照は長い両腕を伸ばして息を吐いていた。
それきり、ゴンドラの中に言葉は落ちなかった。
夜姫も、もう何も言えなかった。
耳まで熱い。
――横浜の夜景。
静かなゴンドラ。
二人きり。
そして。
今夜は、まだ終わらない。
夜姫は、そっと天照の小指を握った。
「………………」
「………………」
天照は、その小さな手をそっと握り返した。
◇
――なお。
少し先を行くシースルーゴンドラでは。
一柱の男が、床に胡座をかいていた。
「…………暇ぁぁあああああ!!」
――これでも高位神・嵐の神、須佐男。
人生で最も孤独な、十五分間であった。
◇
やがて。
観覧車を降りた二柱の前に。
一柱の男が立ちはだかっていた。
「寂しかったろうが……!!」
夜姫が、笑った。
「……須佐男、ごめんね」
「夜姫ちゃああん!!
分かってくれりゃあ、いいんだけどな?
もう一人にしたら泣くからなぁ?」
須佐男は一転、満面の笑み。
「まっ、いっか!!
んじゃ次はどうするか、そろそろみんなで夕飯か?」
「………………………………………」
天照の足が止まった。
「……須佐男」
「あ?」
「俺たちは、もう行く」
「ん………たち?」
天照の横にいる夜姫は、恥ずかしそうに、何やら落ち着きがない。
「…………んあ?」
須佐男は眉間に皺を寄せ、片眉を大きく吊り上げて考えた。
「宿を取っていると言っている」
「…………………………宿!!?」
「…………あ〜〜〜〜 なんだ!!
今夜は三人でお泊まりか?!
いいぜ!!明日も遊べるな♡」
夜姫の顔が、蒼白になった。
天照の琥珀の瞳が、冷たく据わる。
「……違う」
「……へ?」
「そうは言ってない。
……お前は帰るんだ。須佐男」
「……っ……な、なんでそうなるんだよ!?」
須佐男が、ゆっくり首を傾げる。
「……アマちゃん」
「何だ」
「……俺も」
須佐男、天照のシャツの裾をそっと握る。
「帰れ」
「…………」
園内のスピーカーから、蛍の光が聞こえ始める。
「う……なんでだよぉぉおおおおおおおおおおおぉぉ!!!」
翡翠の瞳が、じわりと潤む。
「……ほんっと、ひでぇ男だなぁあああ!!!」
夜姫は、もう笑いを堪えきれなかった。
「……ふふっ……あははっ!」
天照は、眉一つ動かさず静かに夜姫の手を取った。
「行こうか」
「………うん」
夜姫は、下を見て頷いた。
「ちょ、ちょお!!待てぇええ!!」
須佐男が慌てて追いかける。
「俺様のバイク!!バイクだよ!!
山手に置いてきたままなんだけどぉおお!?」
「走って取りに行くと言ってただろう」
「あの時と今じゃ違うだろぉぉおお!?」
天照はもう振り返らない。
代わりに、夜姫が小さく手を振った。
「須佐男、今日はありがとう。
また常世に帰ったら、たくさん遊ぼうね!」
「夜姫ちゃああん!!
愛してるぞぉおおおお!!!」
夜姫が笑い、
天照が呟いた。
「……うるさい」
「…………っ!!!
アマちゃぁああああああんんっっっ!!!!」
◇
――こうして。
最高神と夜の女神による、横浜デートは幕を閉じた。
いや。
正確には。
ここからが、最高神・天照の本当の予定である。
……もっとも。
嵐の神が、このまま大人しく帰るかどうかは。
誰にも分からない。
――完。
◇
<作者のオマケ>
最後まで読んでいただいて、ありがとうございました⭐︎
では、また本編でお会いしましょう!




