【第三話】赤煉瓦に最高神を添えて
ちなみに天照の車はMercedes-Maybachの、MANUFAKTUR特注。
マットヴァイオレットです。
天照の静かなはずのマイバッハ。
それは須佐男の絶叫を乗せたまま、港へ向かって走っていく。
巨大な観覧車が、建物の隙間から少しずつ姿を現し始めた。
「おおおおっ!!
夜姫ちゃん、見ろ!!
あれじゃねぇ?! コスモワールド!!」
「ほんとだ。 見えてきたね」
夜姫が窓の外へ顔を向ける。
須佐男も地図と景色を交互に見ながら、忙しなく身体を動かしている。
「よっしゃ!!
まずジェットコースターな!!
そのあと――」
ふと。
須佐男の動きが止まった。
「…………あ」
窓の向こう。
海沿いに並ぶ、巨大な赤褐色の煉瓦建築。
広場には人が行き交い、その向こうには海が光っている。
須佐男の翡翠の瞳が、きらりと輝いた。
「アマちゃんっ!!」
「…………」
「返事くらいしろって!! あれ何だよ?!
俺の勘が無視しちゃいけねぇ!って言ってんだけど?!」
「……………………赤煉瓦倉庫だろ」
「あれがそうか!いい感じじゃねぇか!!
ちょ、待て待て!!
アマちゃん、ストップ、ストップーー!」
地図をばさばさと広げる。
「……馬鹿をいうな。
そんな急に止まれるか。
コスモワールドに行くんだろ」
「細かけぇな!!
気が変わったの!!
進行方向じゃねぇか!
ほら、夜姫ちゃんも行きたいって言ってんぞ!」
「ええ?」
「な〜〜〜?」
須佐男の白い八重歯がきらりと光る。
車内に、少しの間が落ちた。
天照がバックミラー越しに後ろを見ている。
「……夜姫」
「は、はい」
「行きたいのか?
赤煉瓦」
訊ねる声は柔らかい。
夜姫は一瞬、言葉を失う。
「……アマテラスさまと……
……赤煉瓦……」
◇
【※これは夜姫の妄想です】
優しい白い日差しの中。
海から吹き抜ける風が、天照の黄金の短い髪を撫でる。
常世にはない、異国の街を思わせる巨大な煉瓦倉庫。
その前のテラス席で、ゆったりと腰を掛ける天照。
深い紺色のシャツ。
長い脚。
海。
赤煉瓦。
––そして
最高神・天照。
「……ゎ…ぁあ」
完全に、完璧である。
◇
【現実】
「……夜姫?」
「…………………た…ぃ」
「……む?」
須佐男も、遥か遠くを見る夜姫を覗き込んで、顔の前で大袈裟に両手を振る。
「夜姫ちゃーーーん? ほれ。
(こそこそ)アマちゃんに行きたいって言–––ぐっ!!」
須佐男の顔面を手で思い切り押し除けた。
「たい!!!!!見たいですっっ!!
アマテラス様!!赤煉瓦!行きましょう!!」
息を荒くして、夜姫は叫んだ。
「ぬぬおおお!!ちょ、よ?夜姫ちゃ……もごご………」
天照の口元が、僅かに動いた。
いつになく勢いのある夜姫に、少し驚いているらしい。
「……………………」
「そうか。赤煉瓦。 そんなに見たかったのか」
「は、は、はいっ!!
む、無理にはいいんです!!
た、大変じゃなければ」
「もごご……ケチんな…それくらい…連れてけ」
夜姫は須佐男の口を、さらに強く押さえた。
「……行こうか」
天照の声は、少し機嫌が良さそうだった。
淀んでいた車内の空気が、ふっと明るくなる。
「…………ありがとう、ございます。」
夜姫は小さく笑った。
応えるように、天照は次の交差点へ向けて、
静かにウインカーを出した。
「つべこべ言わず、早く向かえや〜〜」
カチ。
カチ。
須佐男は後部座席で足を組んで、コーラを飲み干した。
「俺様の言うことも、サクッと聞いてくれな〜〜、運転手!!
俺の姫に気ぃ使わせんなって。
な♡ 夜姫ちゃん。
(言ってやったぞぉ?こそこそ)」
「須佐男、声大きいから……あと、気なんか使ってないからぁ!!」
こそこそ
※後部座席。会話、丸聞こえ。
「…………………須佐男」
「あーーん?? んだよ。アマちゃん」
「お前はコスモワールドに行け」
「みんなで行くんだろうが!!」
「俺が赤煉瓦に連れて行くのは、夜姫だけだ」
「え・・・♡ う、嬉しいっ♡
死んじゃう♡」
「ちょ!! 夜姫ちゃん!!ナメクジ男なんかと過ごしても楽しいこと一つもねぇぞ!!」
「お前まで連れて行くとは、一言も言っていない
降りろ。 今すぐ」
「……な!……なんでだよぉぉぉおおおおおおっっっ〜〜!!!」
車内には再び、嵐の絶叫が響き渡った。
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車内のイラストのハンドルが右だったり左だったりは、大目にみてください。
福山 蓮




