【第二話】最高神、運転手になる
ちなみに、カフェは山手十番館をオマージュしています。
あの高台の空間が、作者はとても好きです。
小麦色の肌の上に映える、白地の柄シャツ。
黒髪に翡翠色の瞳。
首元にはターコイズと銀飾りがわしゃわしゃ煩い。
サングラスを頭へ押し上げながら、その男は周りの客を無視して発した。
形の良い大きな口が大きく開いた。
「いたぁあああああああ!!!」
店中が振り返る。
須佐男はまったく気にせず、満面の笑みで夜姫の席へ駆け寄った。
「夜姫ちゃああああん♡♡♡
常世から出るなら、俺も連れてけよぉぉお!!
ちょっと、探しただろぉお!」
「…………ごめん」
夜姫がにっこりと微笑む。
天照は目を閉じた。
「須佐男……」
「アマちゃんもぉおお!!
み・ず・く・せ・え・っつーーの♡♡♡」
「呼んでいない。さっさと帰れ」
「は? なんでだよ、嫌だ!!」
入店、五秒。
須佐男、最高神から退店命令。
しかし、この男はめげない。
「お前だけじゃ、湿っぽくてつまんねーだろ??
せっかくの横浜だってのに、葬式でもあるまいしさぁ!!」
須佐男が馴れ馴れしく、天照の肩を抱く。
「本当はぁ…………こそこそ
須佐男が居ないと盛り上がらない。マズイ。マズイぞぉ。
あーーーーーん! 須佐男、早く、早く来てぇぇええ。
………とか、なんとか思ってたんだろ?」
本人は耳打ちしているつもりらしい。
--全部聞こえている。
背中をバシバシ叩いて笑っている。
因みにこの時、天照の琥珀の瞳と、須佐男の翡翠の瞳は、ほぼゼロ距離だった。
「……す、須佐男?
あの。あまり、アマテラス様を強く叩かないで………」
夜姫が心配をしている。
「んあ? ダイジョブ、ダイジョブ!!
こいつ馬鹿みたいに頑丈だしな? な?
夜姫ちゃん、外伝読んだ?! 横壁だって、突っ込んで掘削しちゃうしな!
鈍感だからよ〜〜〜! 痛くない、痛くない♡」
ほれ見ろ、と言わんばかりに天照の背中を大笑いしながら叩いている。
「誰が鈍感だ……」
「お前しかいねぇだろ〜?」
「…………………………」
ジトリと天照の琥珀の瞳が須佐男を睨む。
「その様子じゃ。 どうせ、べそ掻いてたんだろ♡
アマちゃん!! 大丈夫。俺が来た!!
俺らの友情は堅いぜ♡ ナハハハ!!」
「…………………………………………………」
太陽神、天照の足元から、黒い神気がどこからともなく湧いた。
「あぁっ!!
ア、ア、アマテラス様?!
……こ、ここは常世じゃないから、だめ………!!」
こほん。
咳払いが、テーブルの脇から聞こえた。
「お客様」
ベテランらしい正装のウエイトレスが、貼り付けた笑顔で腰を屈め、会計札を丁寧に差し出していた。
「……す、すみません。ね……
お友達がちょっと、うるさくて……はは、は、はは」
夜姫が須佐男の口を塞いで、微笑んでみた。
「んん!!んんん--!!」
「…………………………」
訓練された、完璧な笑顔。
女神の笑顔も、効果なし。
天照は会計札を無言で受け取り、会計へ向かった。
馬車道十一番館。
侮れない老舗であった。
◇
車で坂道を下る。
樹々のカーテンの下を滑るように進むと、視界の先に海が開けた。
窓から入り込む潮風が、車内を爽やかに抜けていく。
「ふんふんふふふーん!!
夜姫ちゃん!楽しいな♡
ドライブデートは最高だな♡」
「うん。贅沢だよね」
「おい、運転手!!安全に頼むぜぇぇええ!!
後ろには、俺の大事な夜姫ちゃんが乗ってるんだからな!!」
天照はサングラスを掛けて、運転をしていた。
「アマテラス様……今日は本当にありがとうございます」
夜姫は須佐男に押し込まれ、天照の車の後部座席に座らせられていた。
「本当にサンキューな!!
たっのしぃな!!
ところで、夜姫ちゃん。 コスモワールド、何乗るか♡」
後部座席では、須佐男が楽しそうに地図を指しながら、夜姫に話しかけていた。
到着までは、目と鼻の先。
けれど、すぐには着かない。
「……アマテラス様?」
「……………………………………」
「………アマテラス様?」
「……………………………………」
夜姫が後ろから話しかけても、反応はなかった。
先ほどは、あんなに機嫌が良かったのに。
夜姫は、少しだけ肩を落とす。
「運転させて、ごめんなさい……」
その声の温度に、天照が反応した。
「…………いや」
「私が……運転できたら良かったんだけど」
「お前が運転する必要はない。
…………そうじゃない」
「でも、免許とった方がいいかなって」
「免許。 いらないだろ」
天照はまた、黙ってしまった。
前を向いたままの天照が何を考えているのか、夜姫には分からない。
昔から三柱で過ごす時間は楽しい。
ただ時々、その空気の行方は、自分に委ねられているような気がして落ち着かない。
今は、悪くなった天照の機嫌を直したい。
夜姫がもう一言、声を掛けようとした時。
小麦色の大きな手が、夜姫の肩に添えられた。
バチン⭐︎(ウインク)
(あ………これ。嫌な予感)
「あ? なになに何だって?! アマちゃん運転したくねぇの?! なら、俺が変わるぜ!!
これ、結構スピード出んだろ。アマちゃんの運転は味ないからなぁ〜!!
このしけた空気を、ぶち壊そうぜ♪」
「やめろ。
お前は乗ってきたバイクがあるだろ」
「いいだろ〜、ケチるなよ。
バイクなんて走って、取り行きゃ問題ないだろ〜。
だいたいな?
よーーーーーーく、よーーーーーーく、考えてみろ!!
俺様を置いて横浜行って、楽しめるわけないだろ?
俺様の思いやり。分かってるか? なぁ、アマちゃん♡」
「お前は医者へ行け。今すぐ降りろ」
「アマちゃん冷たっ!ここは道のど真ん中だぞ?!
せっかくの夜姫ちゃんとのドライブデートが台無しだろぉ!!
さすがに冷たすぎんだろ!! 引くぞ! 泣くぞ!! 夜姫ちゃん慰めてぇぇええ!!」
「………………………………」
「二人とも、そんな仲良くしないで……」
「してない」「妬くなよ!ナハハ!!」
「ふふ。よかった」
夜姫がほっと息を吐いて、シートへ深く身体を預けた。
「はぁ。このシート。
気持ちいい。ふかふか」
その言葉に、天照の空気が背中越しから柔らかくなった。
バックミラー越しに、夜姫を見る。
夜姫は視線に気付き、そっと微笑む。
サングラスの下の顔は見えない。
それでも、きっと柔らかい目をしてくれている気がした。
「うお、夜姫ちゃん!!見ろよ、これ!!」
「ん〜? どれ?」
「俺、これ乗る!! 着いたらジェットコースターな!!
二人で一番前乗ろうぜ♡」
「え、うん」
「……………………………」
バックミラーの中。
サングラスの奥にあった柔らかな気配が、消えた。
「須佐男」
いつもより、低い声。
「あ??」
「お前は、最後尾だ」
「いじめんなよぉ〜〜〜〜!!この、頑固オヤジぃ〜〜〜〜〜〜!!」
➡︎続く
作者より。
この三柱。絶妙なバランスで、よく均衡が取れてるなと関心してます。




