↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/7

【第一話】港町、馬車道十一番館にて

常世神話譚のパロディです。

私たちにも休日があるように、

こんな休日が、常世の二柱にあったなら、

きっと癒されることでしょう。

 常世から足を伸ばしていた。

 この世界で飛ぶことは、どうやらタブーらしい。


 だから、この日のために車を購入した。

 特に車種に拘りはない。

 乗れれば、何でも構わなかったが、隣に乗る夜姫の、苦にならない乗り心地は確保したかった。


 案の定、座らせてみれば夜姫は機嫌がいい。

 何よりだ。



挿絵(By みてみん)


 ◇


 横浜、山手。

 

 坂の上には古い洋館が並び、初夏の光が白い窓枠を眩しく照らしていた。


 その一角の高台には、煉瓦造りの街並みがある。

 そこは、窓からは薔薇庭と、遠くに外人墓地を眺めることのできるカフェ、

 馬車道十一番館で、夜姫は天照と桃のショートケーキとチーズケーキを食べていた。


「ん……これ、すごくおいしい」


 銀色の髪を耳へかけ、小さく頬を緩める。

 天気が良いせいか、いつもより夜姫の血色が良く見える。

 向かいに座る天照は、コーヒーを飲むでもなく、その姿を眺めている。


「アマテラスさまもこっち食べます?」


「いや」


「一口だけ。ね?

 食べてみてください。 あーーーん……」


天照は少し迷い、そのまま無言で夜姫を見つめたまま、口を開けた。


銀のフォークが、薄く形の良い唇の中に入っていく。


「……ん。

 なかなか、うまいな」


天照の喉が動く瞬間を夜姫は見逃さなかった。


「…………………………」


 夜姫の耳がみるみる赤くなる。


「……いいな」


天照は少し方眉を吊り上げた。


「何が」


「……桃のケーキ」


夜姫が少し上目遣いで、天照の琥珀の瞳を見た。


「私も。その桃ケーキになりたいです……」


 天照の喉が鳴る。


 静かな午後だった。


 窓から溢れる木漏れ日、

 遠くに見える横浜の海。

 ここは、常世でも黄昏都(たそがれと)でもない。


 横浜なのである。


 故に、誰に何を気にする必要もない。


 夜姫さえ構わないのであれば、このままどこか宿を取って、もう一日滞在してもいいだろう。


 いや。


 間違いなく、そうするべきだ。 

 夜姫も喜ぶに決まっている。

 こんな穏やかな時間は、実に珍しい。


 常世で「あーーーん」などしていたら、次の日からたまったものではない。

 少し、あちら(常世)の世界を想像すれば、手に取るように神々の喜ぶ姿が目に浮かぶ。


『最高神ついに、熱愛スキャンダル!?

 歳の差は、何歳までありなのか!?』


 天照は頭を静かに振った。


 一体。普段どれだけ、我慢をしていると思っているのだ。

 そういえばコンチネンタルホテルが近くにあったな。

 あの辺りの部屋でも、さっさと取るか。


 目の前の夜姫が、楽しそうにフォークを口へ運んでいる。


 天照は機嫌が良かった。

 夜姫にも、それが分かっている。


 だから、少しだけ身体を乗り出していつもなら言わない言葉を投げてきた。


「アマテラス様……あの。

 このあと、コスモワールド行きたいです」


 夜姫が地図を広げ、コスモワールドを指している。

 事前に調べていたようだ。


「ああ。行こうか」


「……いいんですか?」


 今日は何でも聞いてやりたい気分だった。


「他に、どこへ行きたいんだ?」


「え………他も?

 とりあえず、観覧車と………」


 夜姫が上目遣いで、天照の様子を伺う。


「ああ」


 頬の紅がまた増していく。


「ジェットコースターと、クレープと」


「……また食うのか?」


 夜姫が、少し恥じらいながら笑う。


「デートと言ったら遊園地とクレープなんです。

 アマテラス様と、夢の中でよくやってました。えへへ」


「……………………」


「………何だ。それは」


 思わず、片眉を大きく動かした。


 落ち着かなくてならない。

 落ち着け。

 俺は最高神だ。

 

 天照は、深く、大きく息を吐いた。


「怒ってます?

 う、嘘ですよ!!も、妄想ですから。

 そんな気持ち悪いことしてませんから!!


(…………気持ち悪いなどと、誰が言った)


 ところで。

 本当に?本当の本当に、行ってくれるんです?」



「行こうか」


 いくに決まっている。


「……うれしいぃぃ」


 二人は少しだけ笑った。


「それなら、早く食べて行きましょうか」


「ああ。時間はある。

 焦らなくていい―」


 夜姫は嬉しそうにフォークを持ち直した。


 その時だった。


 ――ブォン。


 店の外を、とんでもなく場違いなエンジン音が通過した。


 ブォォォン!


 夜姫が顔を上げると同時に、天照の琥珀のひとみが鋭く光った。



「…………?」


 ガァァアアン!!


「お客様、扉は丁寧にお開けください!」


「あっ?! わりぃわりぃ!!これちっと脆そうだな!!

 壊れたらここに請求してくれれば、パァーッと払うからな?

 勘弁してな?」


 男は名刺か何かを差し出しているらしい。

 店の入口付近が急に騒がしくなった。


 ざわざわ


「え、何あの人」


「やだ、カッコよくない?モデル?」


「イケメンじゃない?……アクセ何個つけてるの?」


「派手ね、外国人?」


 天照の手が止まる。

 嫌な予感。


 そして、カップとソーサーを置こうとした時にはもう、隣に気配があった。



挿絵(By みてみん)




お読みいただき有難うございます。

気軽にコメントいただけると、嬉しいです。

※イラストのケーキが、桃ではなく苺なのはごめんなさい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
カクヨムで掲載されないな…もしかして予告だったのかな… あれ…おかしいな… と、思ってたら!!!こっちでしたか!!! 開始すぐに二人がいちゃこきはじめてニッコニコでした(*゜∀゜) 本編ではなかなかお…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。