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Ch.015③ 紫木琉香は相変わらず、人をからかうのが大好きな存在だ。

*このエピソードには20歳未満の者による飲酒描写が含まれますが、法律・法令に反する行為を容認、推奨するものではありません*

18

 あれ?なんで日吉駅で降りるんだ?

 ん……この道、なんか前にも通った気がする。

 うっ……この店も、どこかで見たような。

 あ、いや、店員まで知ってる人に見えるんだけど。

 宮川兄弟について行った僕と風(かぜ)、望月、加藤が着いたのは――


 「Purple Forest」。

 パンドラ高校の南側、森林再生区域の中にひっそりと建つ、紫(ゆかり)木(き)の家が経営している高級レストランだ。


 はあ!?ここ、まだ出番あるの!?


「進!久しぶり~!守も~!」


 元気いっぱいに出迎えてきたのは、紫(ゆかり)木琉香(きるか)。

 紫木の姉だ。妹とは違って髪は短いが、特徴的な深緑の髪と、紫木によく似た、少し大人びた顔立ちを見れば、姉妹なのはすぐ分かる。

 ピンク色の瞳は鋭いのに柔らかい。この人の前では、何を隠しても全部見抜かれそうだ。


「久しぶり~琉香(るか)姉(ねえ)。」

「こんばんは。」

「あ~守は相変わらず冷たいな~」


 ……なんで知り合いなの?


「ん?」


 反射的に望月の後ろへ隠れたけど、当然、紫木姉には見つかった。

 風(かぜ)の後ろに隠れるべきだった!望月は僕より背が低いのに、何考えてるんだ僕!


「ヨ~ル~久しぶり~!お姉ちゃんが会いたかったよ~なんで全然遊びに来てくれないの?」

「誤解されるような言い方やめてください。」

「冷たいな~。私たち、この前はもう――」

「お願いですから、これ以上言わないでください。」


 周りの全員、顔に疑問符が浮かんでいた。風(かぜ)まで珍しく、「君いったい何したんだ?」みたいな顔をしている。


「ヨル?」


 まずい。望月が呼び方に気づいた。


「知り合いだったんですか?」


 宮川進……進先輩でいいか。進先輩が、少し驚いたように聞いてきた。


「そうだよ~実はヨルって――」

「一度こちらで食事をしたことがあるだけです。」


 頼む、この中で一番まともそうな宮川守先輩。

 助けてくれ。


「この店、紹介なしで知るわけないだろ。ふざけてるのか?」


 ……帰りたい。


「まあ~とりあえず座って~」


 紫木姉に促されてみんなが店の奥へ入る中、僕が横を通った瞬間、紫木姉は僕の肩に手を置いて、少し背伸びして、聞き慣れた、挑発するような声を耳元へ落とした。

 距離が近すぎて、右耳に吐息までかかった。


「大胆だね~理香の縄張りに、別の女連れてくるなんて。」

「ただの仕事です。」


 平静を装って答えた。


「ちょうどよかった、用事があるから、あとで残ってね。」


 ……また紫木のことか?


 六人掛けの席に座った。僕は一番右の端、左隣が望月、その隣が加藤。

 加藤の向かいに風(かぜ)、風(かぜ)の隣に守先輩、そして僕の向かいが進先輩。

 ……何この配置。


 進先輩が風を見た。


「どう?優勝祝いの店としては、悪くないだろ?」

「もう僕たちが勝つ前提なんだ?」


 風(かぜ)が笑った。


「金垣(かながき)に負けるようなら、お前もそこまでってことだ。」

 守先輩が淡々と返した。


 ただ普通に会話してるだけなのに、この三人……

 中二病すぎ!スポーツ漫画からそのまま出てきただろ。


 最初、望月と加藤は少し居心地悪そうにしていた。ただ、進先輩がかなり話好きなのと、風(かぜ)がうまく会話を回したおかげで、食事が進む頃には、かなり打ち解けていた。

 今日初めてまともに同じテーブルを囲んだとは思えない。

 守先輩だけは別だ。この人、ほんと喋らないな。


「では、そろそろ本題です。羽冬(はねふゆ)くん、君は仙(せん)の参謀ですよね?」


 ん?いつそんな設定ついたの?

 僕の視線を感じた風(かぜ)は、何事もなかったように顔を逸らして、自分の飲み物を飲み始めた。

 おいおい!知らん顔するな!


「金垣の打撃、どう見た?」


 今日はご飯食べに来ただけじゃないの?マネージャーに残業させるなんてひどい!


 金垣か……今日の2本のホームランを含め、この大会だけですでに14本、1試合平均1本以上、そして5割近い恐ろしい打率。秋本先輩どころか、ほかの学校の四番でもそんな数字は出していない。

 強い以外、言いようがない。


「金垣の打撃に、弱点はないと思います。」


 進先輩の目が少し開いた。


「風先輩の投手としての実力はかなり高いです。でもここまでの試合を見る限り、宮川先輩や金垣みたいに、一球とか一振りだけで空気を変えて、球場全体を圧倒するような威圧感までは感じません。」


「対策は?」


「将帝の投手陣は、黎明やパンドラほど強くないです。風先輩が金垣を完全に抑えられない可能性があるなら、最初から3点、4点は取られる前提で、その分を打ち返せばいいと思います。うちの打線なら、将帝の投手から4点以上取るのはそこまで難しくないはずです。」


 僕の話を最後まで聞くと、進先輩は満足そうに笑った。


「正解です。聖光(せいこう)学園の元四番だった金垣に、バッティング上の分かりやすい弱点なんてない。兄さんがあの打席で三振を取れたのも、単純に実力でねじ伏せただけです。」


「ふん。当然だ。」


 守先輩の返し、相変わらず短くて中二病だな。


「聖光学園?」

 思わず聞き返した。


「東東京の名門です。去年の夏の甲子園優勝校で、今年の春は準優勝。」


 春の甲子園準優勝......

 あ、黎明に負けた学校か。


 説明を終えると、進先輩は今度は風を見た。


「将帝の投手陣と、パンドラ打線の比較もちゃんと見えてる。こちらが将帝の女子投手を打ち崩せなかったのは、黎明自身の問題だからな。」

「やるじゃん、仙。いい後輩拾ったな。適当な人や、自信だけある人なら、無理やり粗探しして、それっぽい弱点並べるだけだし。」


「当然だ。僕の前でも平気で『先輩は駄目ですね』って言えるくらい、僕が恥かくかどうか全然気にしない性格だから。」

「いや、そんな言い方したことないですよ。」


 僕がすぐ否定すると、みんな一斉に笑った。


 真面目な話が一段落すると、進先輩の視線が望月と加藤へ移る。


「ところで君たち、幸せだよな~一年でこんな可愛いマネージャーが二人も入ってくるなんて。」


「うっ……!」

「そんなことないですよ宮川先輩!黎明のマネージャーさんもすごく綺麗じゃないですか!」


 分かりやすく固まった加藤と比べて、望月は予想通り、すぐ自然に返した。

 その言葉に、風(かぜ)も軽い調子で乗っかった。


「そうそう。賀来(かく)だっけ?今日なんで連れてこなかったんだよ~紹介してくれればよかったのに。」

「嫌だよ。明(あか)里(り)は僕のものだ。」


 進先輩が、少し不機嫌そうに答える。


「別にお前のこと好きじゃないだろ。」

「兄さん!なんでそんなこと言うんだよ!」


 守先輩、今のは本日のベスト発言です。

 

 そのやり取りを見ながら、僕は一瞬だけ気になるものを見つけた。

 風(かぜ)が賀来の話をした時、加藤の表情がほんの少し固まった気がした。


 なるほどな。


「うっ……」


 さっき最初に緑茶を飲んだ時から、少し変だと思っていたが、今の一口で確信した。

 ……あの女、僕の緑茶にこっそり酒を入れやがった。

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