Ch.015③ 紫木琉香は相変わらず、人をからかうのが大好きな存在だ。
*このエピソードには20歳未満の者による飲酒描写が含まれますが、法律・法令に反する行為を容認、推奨するものではありません*
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あれ?なんで日吉駅で降りるんだ?
ん……この道、なんか前にも通った気がする。
うっ……この店も、どこかで見たような。
あ、いや、店員まで知ってる人に見えるんだけど。
宮川兄弟について行った僕と風、望月、加藤が着いたのは――
「Purple Forest」。
パンドラ高校の南側、森林再生区域の中にひっそりと建つ、紫木の家が経営している高級レストランだ。
はあ!?ここ、まだ出番あるの!?
「進!久しぶり~!守も~!」
元気いっぱいに出迎えてきたのは、紫木琉香。
紫木の姉だ。妹とは違って髪は短いが、特徴的な深緑の髪と、紫木によく似た、少し大人びた顔立ちを見れば、姉妹なのはすぐ分かる。
ピンク色の瞳は鋭いのに柔らかい。この人の前では、何を隠しても全部見抜かれそうだ。
「久しぶり~琉香姉。」
「こんばんは。」
「あ~守は相変わらず冷たいな~」
……なんで知り合いなの?
「ん?」
反射的に望月の後ろへ隠れたけど、当然、紫木姉には見つかった。
風の後ろに隠れるべきだった!望月は僕より背が低いのに、何考えてるんだ僕!
「ヨ~ル~久しぶり~!お姉ちゃんが会いたかったよ~なんで全然遊びに来てくれないの?」
「誤解されるような言い方やめてください。」
「冷たいな~。私たち、この前はもう――」
「お願いですから、これ以上言わないでください。」
周りの全員、顔に疑問符が浮かんでいた。風まで珍しく、「君いったい何したんだ?」みたいな顔をしている。
「ヨル?」
まずい。望月が呼び方に気づいた。
「知り合いだったんですか?」
宮川進……進先輩でいいか。進先輩が、少し驚いたように聞いてきた。
「そうだよ~実はヨルって――」
「一度こちらで食事をしたことがあるだけです。」
頼む、この中で一番まともそうな宮川守先輩。
助けてくれ。
「この店、紹介なしで知るわけないだろ。ふざけてるのか?」
……帰りたい。
「まあ~とりあえず座って~」
紫木姉に促されてみんなが店の奥へ入る中、僕が横を通った瞬間、紫木姉は僕の肩に手を置いて、少し背伸びして、聞き慣れた、挑発するような声を耳元へ落とした。
距離が近すぎて、右耳に吐息までかかった。
「大胆だね~理香の縄張りに、別の女連れてくるなんて。」
「ただの仕事です。」
平静を装って答えた。
「ちょうどよかった、用事があるから、あとで残ってね。」
……また紫木のことか?
六人掛けの席に座った。僕は一番右の端、左隣が望月、その隣が加藤。
加藤の向かいに風、風の隣に守先輩、そして僕の向かいが進先輩。
……何この配置。
進先輩が風を見た。
「どう?優勝祝いの店としては、悪くないだろ?」
「もう僕たちが勝つ前提なんだ?」
風が笑った。
「金垣に負けるようなら、お前もそこまでってことだ。」
守先輩が淡々と返した。
ただ普通に会話してるだけなのに、この三人……
中二病すぎ!スポーツ漫画からそのまま出てきただろ。
最初、望月と加藤は少し居心地悪そうにしていた。ただ、進先輩がかなり話好きなのと、風がうまく会話を回したおかげで、食事が進む頃には、かなり打ち解けていた。
今日初めてまともに同じテーブルを囲んだとは思えない。
守先輩だけは別だ。この人、ほんと喋らないな。
「では、そろそろ本題です。羽冬くん、君は仙の参謀ですよね?」
ん?いつそんな設定ついたの?
僕の視線を感じた風は、何事もなかったように顔を逸らして、自分の飲み物を飲み始めた。
おいおい!知らん顔するな!
「金垣の打撃、どう見た?」
今日はご飯食べに来ただけじゃないの?マネージャーに残業させるなんてひどい!
金垣か……今日の2本のホームランを含め、この大会だけですでに14本、1試合平均1本以上、そして5割近い恐ろしい打率。秋本先輩どころか、ほかの学校の四番でもそんな数字は出していない。
強い以外、言いようがない。
「金垣の打撃に、弱点はないと思います。」
進先輩の目が少し開いた。
「風先輩の投手としての実力はかなり高いです。でもここまでの試合を見る限り、宮川先輩や金垣みたいに、一球とか一振りだけで空気を変えて、球場全体を圧倒するような威圧感までは感じません。」
「対策は?」
「将帝の投手陣は、黎明やパンドラほど強くないです。風先輩が金垣を完全に抑えられない可能性があるなら、最初から3点、4点は取られる前提で、その分を打ち返せばいいと思います。うちの打線なら、将帝の投手から4点以上取るのはそこまで難しくないはずです。」
僕の話を最後まで聞くと、進先輩は満足そうに笑った。
「正解です。聖光学園の元四番だった金垣に、バッティング上の分かりやすい弱点なんてない。兄さんがあの打席で三振を取れたのも、単純に実力でねじ伏せただけです。」
「ふん。当然だ。」
守先輩の返し、相変わらず短くて中二病だな。
「聖光学園?」
思わず聞き返した。
「東東京の名門です。去年の夏の甲子園優勝校で、今年の春は準優勝。」
春の甲子園準優勝......
あ、黎明に負けた学校か。
説明を終えると、進先輩は今度は風を見た。
「将帝の投手陣と、パンドラ打線の比較もちゃんと見えてる。こちらが将帝の女子投手を打ち崩せなかったのは、黎明自身の問題だからな。」
「やるじゃん、仙。いい後輩拾ったな。適当な人や、自信だけある人なら、無理やり粗探しして、それっぽい弱点並べるだけだし。」
「当然だ。僕の前でも平気で『先輩は駄目ですね』って言えるくらい、僕が恥かくかどうか全然気にしない性格だから。」
「いや、そんな言い方したことないですよ。」
僕がすぐ否定すると、みんな一斉に笑った。
真面目な話が一段落すると、進先輩の視線が望月と加藤へ移る。
「ところで君たち、幸せだよな~一年でこんな可愛いマネージャーが二人も入ってくるなんて。」
「うっ……!」
「そんなことないですよ宮川先輩!黎明のマネージャーさんもすごく綺麗じゃないですか!」
分かりやすく固まった加藤と比べて、望月は予想通り、すぐ自然に返した。
その言葉に、風も軽い調子で乗っかった。
「そうそう。賀来だっけ?今日なんで連れてこなかったんだよ~紹介してくれればよかったのに。」
「嫌だよ。明里は僕のものだ。」
進先輩が、少し不機嫌そうに答える。
「別にお前のこと好きじゃないだろ。」
「兄さん!なんでそんなこと言うんだよ!」
守先輩、今のは本日のベスト発言です。
そのやり取りを見ながら、僕は一瞬だけ気になるものを見つけた。
風が賀来の話をした時、加藤の表情がほんの少し固まった気がした。
なるほどな。
「うっ……」
さっき最初に緑茶を飲んだ時から、少し変だと思っていたが、今の一口で確信した。
……あの女、僕の緑茶にこっそり酒を入れやがった。




