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Ch.015① 似た感じ

16

 7月25日月曜、僕らは向上を[0:8x]でコールドにし、次の対戦相手――名(な)川(がわ)工業の偵察も終えた夜。


 試合記録を写真に撮って風(かぜ)へ送ったあと、そのまま通話をつないだ。


「それで、名川工業は、君と望月から見ても少し警戒したほうがいい相手ってこと?」

「はい。」


 風(かぜ)は何かぶつぶつ言っている。

 よく聞き取れないけど、記録を見ながら試合内容をざっと確認しているらしい。

 しばらくして、また僕へ話す声量に戻った。


「まあ、もうベスト8だし。そろそろ、ちゃんと試合前ミーティングしたほうがいいな。君と望月の記録、もう少し見とく。ありがとう。お疲れ。」

「先輩もお疲れさまです。」


「それにしても。望月の正式なスコアのつけ方と比べると、君のは本当に羽冬(はねふゆ)らしいね。」


 ……馬鹿にしてる?


「赤がヒット、青がアウト。緑が四球か死球……これ、『パワプロ』の記憶で分類しただろ?」

「あ……はい。」

「いいじゃん。スコアシートって、たまに見るの大変なんだよね。君のも一緒にあると比較しやすい。かなり助かったよ、羽冬。次もよろしく。」

「お、おう……」


 逆に役に立ったのか?


「って、望月とはどうなった?」

 ……?

「何でもないですけど。」

「そう?先輩があげたチャンスを無駄にするなよ。」

「はいはい。」

「それじゃ。」


 望月か。

 名川工業の試合を見終わったあと、本来は望月を誘って、そのまま飯でも食べようと思っていた。聞いてみたら、今日は望月の誕生日。井上と過ごすらしい。


ー「先に言ってくれれば、僕ちゃんとラブプレゼント用意したのに~」

ー「だめ~羽冬からプレゼントもらったら、本当に心が揺れちゃいそうだから~」


 断り方まで人をその気にさせる。さすが望月。


 そして、7月28日木曜。

 今日から、残りの試合はすべて横浜スタジアムで行われる。

 大会もベスト8まで進み、スタンドはかなり埋まっていて、空席もちらほら残っている程度だった。


 名川工業戦。

 先発の城島先輩は八回を投げて奪三振10、わずかに1失点。

 打線はこれまでほど爆発しなかったものの、それでも4点。7回には城島先輩自身のツーランホームランも飛び出し、勝負を決定づけた。ほぼ城島先輩のワンマンショーだ。


「やっと少しは面白い試合だったな。」

 望月先輩が帰り際に言った。


「一文(かずふみ)、今日すごかったな。あのホームランなかったら、まだ分かんなかったかも。」

「投球もすごかっただろ!」

 椎名先輩と松谷先輩も、それぞれ褒めている。


「それに比べて、二年のある三人はあんまり打ててなかったけどな。」

 羽田先輩に嫌味を言われた三人は、見事なくらい同時に一度うなずいた。


 まあ。

 風(かぜ)たちも今日はちゃんと芯で捉えていたが、ことごとく野手の正面。名川工業くらいのチームになると、守備陣のミスも少ない。取れるアウトは、きっちり取ってきた。


 選手たちがそれぞれ帰っていくのを見ながら、僕と望月もスタンドへ向かおうとした時、高木が走ってきた。


「Yo~お二人の邪魔するの悪いけど、今日俺も一緒に見ていい~?」

「高木くん!もちろんいいよ!みんなで見たほうが、意見も交換できるし!」


 望月の歓迎を受け、高木も一緒にスタンドへ向かった。

 高木が少し前を歩いている隙に、制服へ着替えた望月へ小声で聞いた。


「高木も、望月に彼氏いること知らないよね?」

「うん。知ってるの羽冬だけです。奈奈ちゃんも知りませんよ。」

「じゃあ、僕らだけの秘密ってことか。」

「そうですね~」


 次の試合は、準決勝で僕らが当たる相手を決める一戦。

 藤沢翔陵対横浜。


 ……あ。

 紫(ゆかり)木(き)、もう帰ったかな。


 今日は望月と二人きりでもないから、残って次も見ないか聞いてみるか。

 誘って来てもらった以上、少しくらいアフターサービスもしないとな。


 通話ボタンを押してしばらくすると、紫木が出た。


「もしもし?羽冬?どうしたの?」

「紫木、今どこ?もう帰ったか?僕ら、次の試合も残って見るんだけど。こっちに来る?」


 ん?なんで黙るんだ?

 あ。


「高木もいるよ。」

「あ、うん!うん、行く!真衣!あれ?真衣?」

「どうした?」

「真衣が急にいなくなった。」


 あの女、絶対わざとだろ。


 紫木へ席の場所を伝えたあと、もう一組、今日見に来ているはずの連中にも電話しようか少し迷ったとき、スタンドでばったり会った。


「あ、ヨル。」

 

 出口へ向かおうとしていたヒロが、僕と目が合った瞬間に足を止めた。

 後ろには、少しよろけながらついてくるツネ。満席に近い狭い通路を歩くのは、ちょっと大変そうだ。


「夢ちゃんは今日来てないの?」

「彼氏とデート~でも準決勝と決勝はたぶん一緒に来るって。お?確か……高木と……望月だっけ?」


 お?覚えてるか。


「Hello~監督~」

「こんにちは~」


 ヒロを「監督」呼びするの、なんか高木らしいな。

 ようやくこちらまで来たツネも話に加わった。


「よ。今日の試合、結構面白かったな。」

「でもあの35号、めっちゃダメだったじゃん。あいつ、実はバスケのほうが得意なんじゃない?」


 ヒロが言った35号……ああ。風(かぜ)がクラス対抗バスケの時につけてた番号か。


「はは。今日はちょっと調子悪かっただけだよ。」


 あれ……僕が風(かぜ)を庇った?こ、これがいわゆる、チームの結束力ってものなのか?


 黎明大附属と将帝も、昨日すでにベスト四進出を決めている。

 明後日の準決勝、ツネとヒロも、自分の学校の試合を見るために早めに来たりするのかな。


 見送ったあと、しばらくして紫木も僕らを見つけた。

 紫木が加わったので、三人並んでいた席を少し変えて、僕と紫木が前列、高木と望月が後ろ。


 ……あれ?普通、女子同士で座るんだろ?


 試合開始前、僕は真後ろの高木へ振り返った。


「高木、今日はなんで残って見ようと思ったの?」

「Oh~横浜高校に中学の先輩いるんだよ~結構強いし、ちょうど時間もあるから見ようかなって~」


「名前は何ですか?」

 望月も興味を持ったらしい。


「本(ほん)田(だ)先輩だ。今マウンドにいる人。」


 高木って、こういうの気にするタイプなんだか。


 試合はずっと接戦だった。3回に[2:2]の同点になってから、そのまま9回までスコアは動かなかった。

 最後は横浜の打者がサヨナラヒットを放ち、[2:3x]で勝利した。

 今日の内容だけを見るなら、本田は城島先輩より上かもしれない。9回を一人で投げ切った。

 完全にワンマンチームだ。


 そういえば、試合の途中。


———

 紫木は、僕のノートと望月のスコアブックを見比べている。


「羽冬。」

「なに?」

「羽冬と望月さんって、昔の私と羽冬みたいだね。」


 記録の取り方が違うことに気づいたか?


「望月の記録方法、難しすぎるんだよ。」

「へえ~羽冬にも苦手なことあるんだ。」


紫木は少し楽しそうに言う。


「バスケの記録のつけ方は、あんなにすぐ覚えたのに。」

「野球はバスケほど詳しくないからな。」


「紫木は?もう何試合も見たけど、少しは分かるようになった?」


「最初、真衣にルール教えてもらった時は結構大変だった。」

「でも、大体どうやって試合が進むか分かってからは、そんなに困らないかな。」

「バスケって、みんなずっと動き回ってるでしょ?野球はそれより静かだからかも。毎回最後はボールがピッチャーに戻って、そこからまた始まるし。」


……面白い捉え方だな。

———


 さっきの電話、あの妙な沈黙。

 ……たぶん、考えすぎだ。


 明後日は、先に黎明対将帝。そのあと僕らが横浜と戦う。

 黎明も将帝も、風《かぜ》や先輩たちはすでにある程度把握しているから、僕と望月の偵察任務は、今日で正式に終了した。


 くそ、もう終わりかよ。

 高木のせいで、望月と二人きりで過ごせる最後のチャンスを逃したじゃないか!

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