Ch.014③ 向き合っていること
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『(椎名易)もう引退でいいよ 後輩さん強すぎ』
『(カイヤ)なんか奏吾より強くない?』
『(吾)ふん』
『(大輔Daisuke)望月ってどこでも守れるでしょ?もう矢野と替えよう』
『(矢野雄平)いや、先輩……』
『(椎名易)賛成』
『(吾)賛成』
『(カイヤ)賛成』
『(風仙)はい決まり。矢野、今までありがとう。これからも今日みたいにゆっくり休んでください。』
エキシビションマッチが終わってから、野球部のLINEグループは、ずっとこんな会話で埋め尽くされていた。
望月の活躍は、ほかの友達の間でも話題になったらしい。例えば、同じ黎明に通うツネなんて、わざわざ電話までかけてきた。
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「おい、今日の試合、俺も現地で見てたんだけど。やばかったな。」
「なんで来てたの?」
「クラスのやつに誘われた。あの『望月音』って、ヨルと同じクラスの、バスケもめっちゃ上手かったやつだろ?」
スタジアムの電光掲示板には、基本的に選手の苗字しか表示されない。
同じチームに同姓の選手が二人以上いる場合は、名前の一文字をつけて区別される。
うちの望月兄妹なら、望月先輩が『望月吾』。望月は『望月音』だ。
ちなみに、「音」は「ね」なんだけど。ツネの呼び方、ちょっと面白い。
「僕も普通にびっくりした。」
「あいつってバスケと野球、どっちのほうがすごいと思う?」
入学してから今までの望月の運動での活躍を思い返す。
「野球かな。あんな球、僕は一生打てる気しない。」
「だよな。」
野球部へ入ったばかりの頃、望月は僕や風みたいな運動神経のいい男子はずるい、みたいなことを言っていて、謙虚すぎるだろ。
「見てたら俺まで野球やりたくなった。てか、パンドラってあんな強かったんだな。そりゃマネージャーやりたくもなるか。」
「はは。僕も知らなかったよ。」
まあ、入部した一番の理由は望月なんだけど。
「梧原とヒロにも試合のこと言ってるだろ?横浜スタジアムなら、たぶんみんな来るんじゃない?夏休み暇だし。」
「いいな。僕、偵察任されてるから、相手が弱そうなら、来なくていいって言っとくよ。たぶん退屈だし。」
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去年の夏の甲子園ベスト4、しかも今年の春の甲子園では優勝している黎明大附属相手に、あれだけ互角に戦えた。
ほかの学校に負けるところが、正直あまり想像できない。
抽選の結果、先輩たちがずっと意識している黎明も、風が特に警戒したいと言っていた将帝も、どちらもトーナメントの反対側に入った。
つまり、今日みたいに面白い試合が見られるのは、決勝までお預けかもしれない。
その日の夜、試合を見に来ていた紫木からも、LINEが届いた。
『(理香ちゃん♥)今日見に行ったよ』
『どうだった?』
『(理香ちゃん♥)真衣に教えてもらって だんだん分かるようになってきた』
『(理香ちゃん♥)最初はどうなったら打者がアウトになるのかも知らなかった』
『はははははははは』
『(理香ちゃん♥)何笑ってるの羽冬!』
『ごめんごめん』
『(理香ちゃん♥)面白かった 高木くんも望月さんもすごかったね!』
『そうだな』
『誘ってくれてありがとう また横浜スタジアムで試合ある時は教えて』
『了解』
月曜と火曜。
学校でも、みんな日曜の試合について話していた。
特に話題の中心は、望月と高木だ。
7月13日、水曜。成績発表の日。
今回は全教科、前回より五点から十点くらい上がっていた。
順位も少しは上がるだろう。もちろん、ランキング入りなんて到底無理だけど。
そして今日は、僕と望月が初めて偵察に行く日でもある。
改めて日程を見てみると、望月とこうして二人きりで一日過ごせるのは、たぶん今日だけだ。
これから偵察する試合は、全部うちの試合の直後。しかも同じ球場で行われる。
誰か残って一緒に見ることになったら(特に望月先輩)、幸福度は一瞬でゼロだ。
同じマネージャーの加藤は、風に連れられて将帝高校の試合を見に行くらしい。
風から直々に指導してもらうらしい。羨ましいな~
「最近、楽しそうだよね。」
昼飯を食べ終えたあとの電車。
隠しきれない笑みを浮かべている望月を見て、僕から話しかけた。
この時間は車内も空いていて、僕ら二人とも座れている。
「そう?羽冬とデートできるからかな。」
「そうなのかな~?」
僕はそのまま望月を見て、続きを待った。
「本当はね、この前ホームラン打てたのが、まだ嬉しいんです。」
やっぱり。なんて分かりやすくて熱血な野球少女なんだ。
理由も確認できたし。
じゃあ、さっきの遊びを続けよう。
「つまり、僕と出かけるのは嬉しくないんだ。悲しいな。」
「なんでそうなるの?羽冬とのデートに比べたら、ホームランなんて全然だよ。」
「そう?じゃあ今日こそ僕と付き合う準備できた?」
「まだね~」
また振られた。悲しい。
藤沢駅北口を出て、歩くこと五分ほど。球場の外野側をぐるっと回り、一塁側スタンドで適当に二席見つけて座った。
午後1時半。藤沢市八部球場。サレジオ学院対向の岡工。
それほど注目されていない一回戦、観客はほとんどいない。
一回裏に向の岡工が先制してから、そのまま終始リード。
サレジオ学院は最後まで試合をひっくり返せず、向の岡工が[2:8x]で勝利した。
向の岡工の大勝ではあったが、僕らとは明らかに実力のレベルが違う。
そんな6回。
僕と望月は、どういう打球なら「野選」として記録されるのか。そんな話をしていた。
望月がスマホを取り出し、一緒に具体例を調べ始めた。
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わくわく!望月とこんな近い距離で、一緒にスマホ見るの初めて!
あ。
LINEの通知。
人のメッセージを見るのはよくないと分かってるけど、どうしても視線が、そっちへ流れてしまった。
『藤沢市ってほんと遠いね』
『お疲れ~』
『学校終わったし 先に帰るね』
『大好きだよ~』
……ん?
通知が表示された瞬間。
僕と望月は同時に、ほんの少しだけ顔を相手のほうへ向けた。
さっきまで二人とも前のめりになって、肩が触れそうなくらい近づいていた身体が、次の瞬間に、揃って座席の背もたれまで戻っていた。
あれは。
家族同士でするやり取りじゃない。
そうか。
これは、望月が「ちゃんと向き合っている」ことなんだ。




