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Ch.013④ 幸せそうな二人

いつも応援してくださって、

本当にありがとうございます!


明日も、番外編のような内容を更新します!

ぜひお楽しみに!

11

「羽冬(はねふゆ)、もう大丈夫だよ!」


 望月に頭を軽くつつかれて、ようやく気づいた。

 僕、さっきからずっと望月の後ろでしゃがんだままだ。


 あ。

 また加藤から軽蔑の視線が飛んできた。


 さっきの騒ぎが一段落すると、風(かぜ)は改めて一人ずつ名前を呼び、背番号を配り始めた。


「3号、一塁手。椎名易(おさむ)。」

「4号、二塁手。松谷大輔。」

「5号、三塁手。長谷川俊太。」


 あの存在感の薄い先輩、長谷川っていうのか。

 頑張って覚えよう。たぶん。


「6号、遊撃手。望月奏(かな)吾(ご)。」

 

 風(かぜ)は背番号を渡したあと、望月先輩の耳元で何か小声で話していた。


 待て。望月先輩?

 なんか嫌な予感がする。


 ちょ、ちょっと待って。

 望月先輩、こっち来ないでええええ!


 野球部に入ったら先輩に殴られるなんて、誰も教えてくれなかった。

 誰も。


 風(かぜ)がさっき言ってた「準備しとけ」って、望月先輩に殴られる準備かよ。

 楽しいな、僕の高校生活。


「7号、左翼手。城島一文(かずふみ)。」

「9号、右翼手。羽田凱(かい)也(や)。」


 地面に倒れたまま、僕は静かに話を聞いていた。

 

 十人しかいないのか。

 二人も怪我したら、その時点で人数不足で試合できなくなる可能性すらある。


 さっき何人かが先に帰れたのも、風(かぜ)が最初から登録していなかったからだ。


―「望月より弱い時点で、彼らも分かってるだろ。ベンチに入れても試合には出られない。」


 前にこの話をした時、風(かぜ)はそう言っていた。

 まあ、僕だったら、毎試合ずっとベンチに座らされるくらいなら、最初から諦めさせてもらったほうがいい。


 そういえば、僕はマネージャーだから、ベンチでかなり近くから試合を見られるんだよな。

 得した。


「11号、望月奏(かな)音(ね)。」


「え?私ですか?」


「そうだよ。去年から女子も試合に出られるようになったし、一年の中なら実力は高木の次くらいだろ。誰か怪我して出られなくなった時のためにも、ユニフォーム着て来てもらえると助かる。もちろん無理にとは言わない。望月が決めていい。」


「分かりました!」


 望月の野球ユニフォーム姿か。楽しみだな。


 それにしても、大会って去年から女子も出られるようになったのか。

 先進的だな。男女平等の象徴だ。


「羽冬、起きて。君もあるぞ。」

「もしも~し。生きてるか?」


 風(かぜ)に呼ばれ、横では加藤がしゃがみ込んで僕の生存確認をしていた。

 大丈夫。元気です。動きたくないだけだ。


「おう……でも僕、野球全然できませんけど?」


 渡された18号を見て、思わず聞いた。


「知ってるよ。エースっぽい番号だけ埋めといて、あの兄弟びっくりさせたいだけ。」


 あの兄弟って、黎明大附属のバッテリー、宮川(みやかわ)守(まもる)と宮川進(すすむ)のことだろう。

 二人ともまだ二年生なのに、すでに甲子園スターになった。

 

 風(かぜ)は去年の予選決勝で負けたあと、自分から話しかけて知り合ったらしい。

 ……絶対その時、中二病みたいなこと言ってそう。


 つまり僕を駒にするつもりか。偉大なる風先輩。


「先輩!私も欲しいです!」

「あ、加藤はないよ。」


 断られた瞬間、加藤の顔が露骨に曇った。


「なんでですか!」

「だって、加藤の制服姿、好きだから~」

「そういうの効かないって言ってるでしょ!適当に誤魔化さないでください!」


 今度はカップル喧嘩が始まった。

 今日、今すぐ帰りたくなる瞬間多すぎない?


「はいはい~加藤の番号~忘れてないって~」


 本気で怒りそうになった加藤を見て、風(かぜ)は慌てて最後の一枚――17号を目の前へ差し出して、そのまま伸びをしながら立ち去った。


「そういうの……私には効かない……」


 よく分からないけど。

 今のは、かなり加藤に刺さったらしい。


「本当に、試合に出られるんだ……」


 望月が自分の背番号を見つめたまま、信じられないような顔で僕の近くへ来た。


「そうだな。しかも今まで黙ってたとか、先輩たちも性格悪いよな。」


「違うの。女子が出られるようになったことは知ってたんです。」

「でも……本当に私が、みんなと一緒に戦える選手として見てもらえてたんだって思ったら……私……」

「泣き虫みたいですね、ダメダメ。ははは、本当に嬉しいです!」


 くそ。あと少しで望月を抱きしめる展開だったのに。

 しっかりしろ、望月の涙!


 背番号を配り終えると、先輩たちは練習へ戻った。

 人数がかなり減ったせいか、練習強度は一気に上がった。


 守備練習では、風(かぜ)が一球一球、本気で選手たちへ打ち込んでいった。

 打撃練習も全員遠慮なし。打撃投手を務める高木は、これでもかというほど打ち込まれていた。


 そのまま日が沈みかけるまで練習は続いた。

 

 そして終了直前。風(かぜ)がもう一度全員を集めた。


「ちょっと集合。さっき一個言い忘れていました。」


「今年の開会式は例年と違って、勝敗に関係ないエキシビションマッチが追加されます。」

「せっかく特別にやる試合だから、それなりのカードが必要らしいので、去年の優勝校と準優勝校でやってほしいそうです。」

「いいでしょう?本戦前に横浜スタジアムで、観客の前で黎明と一試合できるんですよ。」


 その話を聞いた先輩たちの大半は、明らかにやる気になった。

 ちょっと気弱そうな矢野先輩と、欠伸している高木以外は。


「羽冬、ちょっと来て。」

「はい。」

「これ。」


 風(かぜ)から一冊のノートを渡された。


「これは?」

「普通のノートだよ。」

「それは分かってます……」


 馬鹿を見る目やめろ!望月先輩の件、まだ怒ってるからな!


「情報収集をお願いしたい。基本的には、次の試合で当たりそうな相手を見てくれればいい。組み合わせはあとで渡す。」

「分かりました。先輩は?」

「黎明以外だと、将(しょう)帝(てい)の動きもちゃんと見ておきたいな。今年のメンバー、大半が二年らしいし。」

「了解です。」


 将帝?ヒロの学校じゃないか。

 偶然重なるな。


「じゃ、よろしく。望月連れてってもいいぞ~」

「はいはい~」


 それはもちろん望月を誘ってデート――

 じゃなくて、試合を見に行くだろ。


 仕事を頼み終えると、風は加藤のところへ向かった。


「奏音ちゃん~私、先に帰るね。」

「は~い。」


 一緒に帰るのか。いいね。


 僕には?

 僕には挨拶なし?ひどい。


「幸せそうだね~」


 少しずつ遠ざかっていく二人を見ながら、望月が呟いた。

 

 そうかな。

 風(かぜ)が前に突然言った、あの一言。

 それに、加藤が何度も何かを言いかけてやめていたこと。


 どうにも、そんな単純な話には思えない。


 まあ。今はあの二人のことは置いておこう。


「望月もなれるよ。」

「ん?」

「今日は、僕と付き合う準備できた?」

「まだね~」


 また振られた。残念。

Ch.013お読みいただき、ありがとうございます!


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