Ch.013③ 完璧すぎる風仙には、欠点がまったく見えない。
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本当にありがとうございます!
(ただ、今のところPVはちょっと寂しい感じですが……
第二巻、頑張れ~~~!)
明日は、番外編のような内容を更新します!
ぜひお楽しみに!
10
6月11日、土曜。
望月に初めて冗談で告白してから、もうずいぶん経った。
なのに、毎日のように聞いている「準備できた?」には、いまだ一度も肯定の返事をもらえていない。
悲しい話だ。
今日は、中間試験後では久しぶりに三年生の先輩たちが全員そろった。
昨日までは受験勉強があったため、練習にもたまに顔を出す程度だったらしい。
だが、夏の大会が近づいてきたので、これからは毎日参加することになる。
……望月とじゃれ合う頻度、大幅に減らさないとな。
そう思いながらも、僕はしれっと望月の隣に立っていた。
あとから望月に聞いて知ったが、先輩たちが甲子園に行くこと以上に気にしているのは、三年間一度も勝てていない神奈川の伝統強豪――「黎明大附属」らしい。
だからこそ、最後にもう一度挑める今回の大会には特別な思いがあるという。
偶然にもツネの学校だ。
今まで聞いていた呼び方は「黎大附商」だったけど、野球界ではこっちで呼ぶのか。
練習開始から三十分ほど経った頃、望月がふと階段のほうを向いた。
「先輩、お疲れさまです!」
抽選会へ学校代表として行っていた風と秋本先輩が戻ってきたらしい。
「お疲れ、望月!後ろの羽冬も!」
「お疲れさまです。」
風は一度グラウンドを見回すと、僕の肩に腕を回してきた。
「望月先輩も練習戻ってきたんだから、いつまでも望月の横くっついてると殺されるぞ~」
「何言ってるんですか。望月先輩が見てる時はちゃんと距離取ってますよ~」
「先輩、お疲れさまです!」
加藤の声が聞こえると、風は僕を放置してそのまま加藤のほうへ行った。
「今、先輩と何話してたの?」
望月がすぐ食いついてきた。
「忘れた~」
「え~教えてよ~」
というか望月、本当に自分の兄が危険人物だって知らないのか?
「だから何回も言ってるだろ!力任せに振るな!」
ベンチ横の打撃練習スペースから、松谷先輩の怒鳴り声が響いた。
「運動エネルギーの公式は何だ!二分の一エムブイ二乗だろ!じゃあ大事なのは何だ?スピード、スピード!スイングを滑らかにするのが前提だ!全員もう30球ずつネットバッティング!終わったら帰っていい!動け動け!矢野、何ちんたらしてる!後輩見てやれ!」
前キャプテンだけあって、風とはまるで違う厳しい指導だ。
その公式、そういう使い方で合ってる?
「今日終わるの早いな。松谷先輩怖いけど、いい人だよな。」
「でもスケベじゃなかった?」
「このあと何する?」
「お前ん家でゲームしようぜ。」
「どうせ今回の大会メンバーに入ってないし、今さら練習しても意味なくね?」
「眠い……」
「矢野先輩めっちゃ疲れてない?」
「望月、加藤、まだ残る?じゃあな!」
あっという間に人が減り、グラウンドには僕らマネージャー三人と、マウンド付近に集まった主力だけが残った。
高木、風、秋本先輩、矢野先輩。
それから三年生の先輩たち。
「羽冬、ちょっと準備しとけよ。」
しばらくして、風が背番号を配るため選手たちをベンチへ連れて戻ってきて、何の前触れもなく僕へそう言った。
……ん?ゼッケン、僕が持ってないけど。こっちに戻ってくるってこと?
「1号、投手。風仙。つまり僕だ。」
その瞬間、三年生たちから、露骨に不満そうな空気が漂った。
な、何?
「先輩、その顔何ですか?」
「よく自分で一番選ぶんだ?」
「私が欲しいかくらい、先に聞くと思ってた……」
「一文がお前より下だと思ったことないんだけど。」
「ちょっと強くなったからって、それはないだろ。」
「普通にちょっとひどいと思うな。」
城島先輩にエースナンバーを渡すべきだと思ってるのか。
いや、もう登録書類出してるんだろ?今さら揉めても遅いだろ?
「2号、捕手。秋本一郎。」
「はい。」
え?
「3号、一塁手。椎名易。」
椎名先輩は返事をせず、険しい顔で風を見ていた。
「取らないか?別にいいけど。次……飛ばして飛ばして……」
「8号、中堅手。矢野雄平。」
「はい。」
「次は……10号。高木陽輝。」
「はい。」
待って。
何してるのこの人たち。
「よし、こんなもんか。残りは……」
そう言いながら、風はそれまで先輩たちへ向けていた視線を僕へ移した。
そして、背番号を持った手をこちらへ伸ばした。
「羽冬。」
「僕を先輩たちの争いに巻き込まないでください!」
僕は高木みたいに派閥を選ぶ気なんてない!
ただの無害な羽冬夜良だ!
慌てて望月の背後へ逃げ込み、しゃがんで頭を抱えた。
「ほらほら、言うこと聞け。」
「嫌です!勘弁してください!」
「おい風、どういう意味だ。」
羽田先輩の声が、僕と風のくだらない攻防を止めた。
風は僕へ背番号を押しつけようとしていた手を止め、ゆっくり顔を上げた。
「キャプテンって……」
「チームをまとめる、要の存在なんです。」
「監督がいなくて、先輩が後輩へ技術を教えるしかない僕たちみたいなチームなら、なおさらキャプテンの立場は重要になる。」
そして風は、松谷先輩へ視線を移した。
「これは、松谷先輩から引き継ぎの時に言われたことです。」
「そのキャプテンに選手が従わないなら、チームはそこで崩れる。」
「先輩って立場にあぐらをかいて偉そうにする選手はいらない。」
……帰りたい。
野球部入る時、こんな修羅場あるなんて聞いてないんだけど。
なんで僕がここでこれ見せられてるんだよ。
「いいよ。全員やめろ。帰ろうぜ~」
最初に沈黙を破ったのは望月先輩だった。
そう言いながら列を離れ、風の横を通って荷物を片づけようとする。
「そこまでしなくていいですよ、偉大なる先輩方。僕が抜ければいいだけなんで。みんなを納得させられないキャプテンが悪いですから。」
風は右手で頭を掻いて、軽い調子のまま続ける。
「さっさと新しいキャプテン決めて、また黎明に負けて、気持ちよく卒業すればいいんじゃないですか。」
「てめえ……!」
望月先輩が振り返った。完全に頭へ血が上った顔で、風へ拳を振るう。
だが風はすぐに右手でその拳を払い、そのまま身体を沈めて望月先輩の脚をつかんだ。
待て待て待て待て!
空手で先輩投げ飛ばすな!
「兄さん!」
「先輩!」
ずっと不安そうに見ていた望月と加藤も、とうとう声を上げた。
ほかの先輩たちも止めに入ろうとする。
だが。
風の動きは、そのまま止まって、次の動作へ移ることはなかった。
「ぷっ……」
耐えきれなかったように吹き出し、望月先輩の脚から手を離した。
数歩後ろへ下がると、左手で前髪をかき上げ――
「はははははは!」
大声で笑い始めた。
「冗談ですって。」
そう言った風の目は、もう穏やかだった。
口元にも、無害そうな小さな笑みが浮かんでいる。
「どこに投げるつもりだったんだよクソガキ!」
「そんなに喧嘩したいのか!」
「面白いと思ってんのか!」
当然ながら、望月先輩、羽田先輩、椎名先輩は全く笑っていなかった。
「す、すみません……」
三人に詰められ、風は素直に謝った。
ひとまず大事にはならず、風は何事もなかったように地面へ落ちたゼッケンを拾う。
「はいはい。これで一回ずつ。お互い様ってことで。まったく、ゼッケンが汚れちゃったな。さっさと受け取りましょう。」




