表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第1巻完結!】僕らは正しい答えを見逃したようです。  作者: 八目律師
Vol.01 「ずっと後になってから、あれが『好き』だと気づいた。」
PR
28/35

Vol.01 Ch.009② 膠着

35

  午後1時20分。

  決勝のバスケットコートの周りには、すでにかなりの観客が集まっていた。ほかの二つの決勝より、どう見ても僕たちの試合がいちばん人が多い。

  「あっ、いた!ヨルー!」

  ウォームアップ中、夢ちゃんの声が飛んできた。夢ちゃん、ツネ、ヒロの三人がそろっているのを見て、今日は清水は来ないのだと分かる。

  ほかにも、高木や他のメンバーを呼ぶ声があちこちから聞こえてきた。見覚えのない顔まで名前を叫んでいるあたり、みんなそれぞれ友達を呼んでいたらしい。自分の学校の行事でもないのに、二日連続で来てくれるなんて、なかなかの付き合いだ。

  試合前、コートの周りを見渡してみる。

  1年D組側には、紫木、小山、友子先生、D組のクラスメイトたち、それに夢ちゃんたちや他のメンバーの友人たち。

  2年A組側には、野球部の秋本先輩と矢野先輩、そして少し離れた場所に加藤の姿も見えた。

  コートの向こうには、各学年の生徒が思い思いに集まっていて、野球部の部員たちもほとんどがこっちへ来ていた。バレーやサッカーの決勝より、こっちの試合を選んだらしい。

  「高木ー!やっちゃえー!」「風!頼んだぞー!」「望月ちゃん頑張れー!」「羽冬くんー!」「高木、先輩の上から叩き込めー!!」「望月さんー!」「風!二連覇だー!」「高木!風に見せつけろー!」「望月、ユニフォーム可愛いー!」

  望月への声援、僕より多い……

  ちなみに、僕たちがちゃんとしたユニフォームを着ているのは、高木が入学直後に作ろうと言い出したからだ。あの時は予選で負けたらどうするんだと思ったが、あとで見ると、ユニフォームだけ作って三角リーグで消えたクラスも珍しくなかった。そう考えれば、ここまで勝ち上がっただけでも十分元は取れている。

  青いユニフォームの胸には「Dragons」。D組らしくて悪くない。

  半袖の上にユニフォームを重ねているほかの女子と違って、望月はスポーツインナーの上にそのままユニフォームを着ていて、肩まわりがすっきり見えた。

だから、さっき「望月、ユニフォーム可愛いー!」と叫んでいた誰か、僕はあの声援に全面的に同意する。ま、まさにハニートラップだ!

  まあ、その策にはまったのは、同じチームの僕だけだ……

  2年A組のほうは、赤いユニフォームの胸には「Astronauts」。風という超大型戦力がいるのだから、あっちが気合いを入れるのも当然だろう。

  「ピーッ!」

  笛が鳴り、試合開始。

  ジャンプボールは2-Aのものになり、僕はすぐ風に張りついた。

  僕らの作戦は、辛うじて風のスピードについていける僕がマンツーマンで風を追い続け、残り四人がスリーラインの内側で四角く守る、いわゆる「ボックス・アンド・ワン」を使っていた。

  しかも、風は実質、右手しか使わない。だから高木には、風が右へ切り込んできた時に真っ先に塞げる位置へ寄ってもらい、僕が抜かれてもすぐヘルプに入れるようにしてある。

  「ボックス・ワンか。賢いね、羽冬。バスケ部の連中でもこんな守り方はしないのに。」

  風が楽しそうに話しかけてくる。

  「バスケ部は先輩に勝てないって認めたくないからな。」

  僕らはプライドがない。勝ちたいだけだ。

  「でもさ、羽冬。」

  「ん?会話で気を散らす作戦ですか?」

  「バスケ部がこれをしない理由はもう一つある。」

  「……?」

  周囲の動きを見ながら、横目で風を追う。

  「僕をマークする人が、そもそも追いつけないから。」

  「しまった!」

  その瞬間、風が一気に加速した。いや、そんな中二病みたいな台詞を吐きながら本当に飛び出すなよ!

  味方からボールを受け取った時には、もう風はスリーラインの中へ入っていた。そのまま一歩前へ運び、高木の前で中央へターンしながらシュートフェイク。高木が反応して跳んだ瞬間、風は平然とそのまま空いたスペースへ流れ込み、きっちり決めてきた。

  「やられたな。」

  高木が言った。

  「ゴメン。」

  「いや、俺も釣られたし。最初からそう簡単に止められるとは思ってない。」

  ん?高木、これまでの試合ではもっと適当なテンションだったのに、今日は少しだけ本気度が高い気がする。

  「ヨル!」

  コートの外から、ヒロの声が飛んだ。

  「諦めるの早すぎ。さっきだって一回はついていけてただろ。悪い癖なんだよ、本当に。」

  うわ。まさかここでもヒロに怒られるとは。

  まあいい。どうせ優勝を狙ってここまで来たんだ。これだけ人が見てるのに、今さら手を抜けるわけがない。

  僕たちの作戦はある程度機能していて、2-Aの攻撃効率は明らかに落ちていた。とはいえ、こちらも高木の高さを生かし切れず、第一クォーター終了時点で14対18。四点差で追う展開になる。

  ベンチに戻ると、みんなで自然に円になる。ヒロとツネも、いつの間にか控え組と普通に打ち解けていて、そのまま作戦会議の輪に入ってきた。

  「35番、マジで速いな。」

  ツネが感心したように言ったあと、ヒロはすぐに僕を見た。

  「ヨル、35番はたしかに俺より少し速い。でも左手使えないなら、怖がる必要はない。右しか行かないって分かってるなら、まず右を潰せ。」

  「分かった。」

  「それと、えっと……高木、だっけ?」

  「よう。」

  ヒロ、完全にコーチみたいになってるな。さ、さすが天才バスケ少年。

  「身長がお前の武器だ。ヘルプの時、早く飛びすぎ。リングとの間に入ることだけ意識して、35番の両足が完全に離れたのを見てから跳べばいい。あいつの身長はヨルと同じくらいだろ。後からでも十分間に合う。」

  「了解。」

  ヒロがそこまで言い切ったところで、ちょうど二分のインターバルが終わる。

  第二クォーター。いよいよ望月のショータイムだ。

  2-Aには、背番号29番の女子バスケ部員がいる。当然、ここまで1試合平均15得点を挙げている望月とのマッチアップになった。身長はほとんど同じだが、体格は29番のほうががっしりしている。

  だが望月は左右どちらでもドリブルもレイアップもでき、ジャブステップも上手い。何度もきれいに抜いて得点していく。

  ヒロも、望月のプレーを見て一瞬言葉を失って、僕とツネに言った。

  「……あいつ、男子だったら普通にお前ら二人より上だな。」

  「うっ……」

  「おい、それはさすがに認めたくねえ!」

  ツネだけは抵抗していた。

  ただ、望月も29番を止めきれない。結局、お互いに相手を止めきれず、点を取り合う展開になる。

  第二クォーターの途中、ヒロが再び声をかけた。

  「ヨル。高木にはさっきもう言った。次、もしまた35番に一歩で抜かれたら、そのまま前に走れ。35番の攻撃が終わったら、高木がリバウンドでもスローインでも、すぐお前にロングパス入れるから。」

  「分かった。」

  この先のオフェンスまで考えてくれて、やっぱりヒロを呼んで正解だった。

  「ヨル。」

  ベンチで少し休んでいると、不意に背もたれが小さく揺れ、右耳の少し後ろから夢ちゃんの声がした。

  「どうしたの?」

  夢ちゃんに振り返った。

  「さっきずっと35番に抜かれてたけど、それでも必死なヨルはかっこよかったよ。」

  うっ、だからそういうまっすぐを投げるなよ、梧原夢美!今試合中だ!

  動揺を隠すため、適当に別のことを聞く。

  「ブレスレットって、ちゃんと預かってくれてるか?」

  「持ってるよ~試合終わったら返してあげる。」

  そう言って夢ちゃんは僕の後ろにしゃがみ込んだ。その仕草が妙に可愛くて、少し見つめてしまう。夢ちゃんもそれに気づいたのか、じっとこっちを見返してくる。

  最後には、二人きりの時にだけ浮かぶ笑みを交わしていた。

  そこから視線をコートへ戻そうとした時、ふと紫木の姿が目に入る。選手たちにペットボトルの水を配りながら、少しずつこちらへ近づいてきていた。

  「あ、ちょうどもう残りこれだけだったから。」

  僕の前で立ち止まり、手元の最後の一本を見て、「しれっと嘘をつく」という、いつの間に覚えた新しいスキルを発動した。

  「おい。」

  「なんてね。はい!頑張ってね。」

  実に晴れやかに笑っていた。後ろにいた夢ちゃんには気づいていただろうに、昨日みたいな動揺は、もうまったく見せなかった。

  第二クォーター終了前、望月がスリーラインの外から迷いなく放った一投。29番は完全に反応が遅れ、ブザーと同時に、ボールがきれいにリングを通った。

  「うおおおおお!」

  第一クォーター終了時よりも、明らかに大きな歓声がコートを包む。

  スコアは32対31。望月が、本当にほとんど一人で試合をひっくり返してみせた……


最後までお読みいただき、ありがとうございます!


「続きも読みたい!」と思っていただけたら、

【ブックマークに追加】していただけると嬉しいです!


「キャラが魅力的!」「感情描写が繊細!」と思っていただけましたら、

下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると励みになります。


感想・リアクションもお気軽にどうぞ!

皆さまからの反応を、今後の執筆の励みにさせていただきます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ