Vol.01 Ch.009 ③ 劇的な幕切れ
36
第三クォーター。再び男子組の対決だ。
ヒロの指示もある。このまま第二クォーターの勢いに乗って、一気に押し切れる――そう思っていた。
だが、甘かった。
風は第三クォーターに入った瞬間、さらに一段ギアを上げてきた。最初の一本目から、僕を置き去りにしてゴール下へ一直線。
そして、そのまま――ダンク。
……ダンク?
いや、待て。今の、本当にクラス対抗戦で起きていいものか?
周囲の歓声が、一瞬で爆発した。
僕も一瞬止まったが、すぐヒロの指示を思い出し、抜かれた瞬間に前へ全力で走った。高木がロングパスを一直線に通してきて、そのまま得点。さすが投手、ボールが速すぎて、危うくこっちが取り損ねるところだった。
「板倉、僕が切り込んだあとは、相手の7番の速攻を見ておけ。田岡、市川、3番にボールが入った瞬間、パスコースを潰せ。できれば体を当てて、リバウンドも取らせるな。」
3番が高木、7番が僕の番号。いや、まだ一回しかやってないのに、もうオフェンスの中心が僕と高木だって見抜いたのか。しかもその場で即座に、味方へ指示まで飛ばしている。
でも冷静に考えれば、風がこちらの戦術の中心をすぐ見抜いたのは当然だった。実際、ちゃんとボールを扱えるのは僕と高木だけ。
ただ、向こうも結局は風一人が中心だ。高木の高さは簡単には止められず、僕も風以外ならそこまで簡単には止まらない。外しても、自分でリバウンドを拾ってねじ込むくらいはできる。
一方、風はスピードを上げただけでなく、ドリブルのリズムまで変えてきた。しかも厄介なことに、風はゴール下で何度もファウルを誘ってきた。
そんな感じで、第三クォーターは風の一人無双と、僕と高木の連携がぶつかり続け、最終的に48対48の同点で終わった。
「悪くない。第一クォーターよりずっといい。」
下がってきた僕たちに、ヒロがすぐ言う。
「35番、もう30点近く取ってるぞ……」
ツネが呆れたように呟いた。
「てめえ、ボールを持ったまま跳ぶ時の体の使い方、もっとちゃんと練習しろって前から言ってるだろ。見ろよ。あいつ、お前とそんなに身長変わらないのにダンクできるぞ。お前はせっかく跳べるのに、いまだにレイアップで外すし。」
いやヒロ、コーチの仕事って、選手を励ますことじゃないのか……
「次も同じ流れでいい。高木、パスが出せないならさっきみたいにゆっくり自分で運べ。それで十分。無駄に前に突っ込む誰かより、ずっといい。」
その「前に突っ込む」役、たしか君の戦術だ……
「それと11番、望月だよな。あいつにもっと持たせろ。セットオフェンスなら、あそこが一番崩せる。もうラストクォーターだ。ここを取り切れば優勝だ。」
ヒロは、中学の頃と何一つ変わっていなかった。プレーヤーとしてだけじゃなく、コーチ役に回っても、こいつはこんなに熱いのか。
そして、勝負の第四クォーター。
最初のオフェンスは、ヒロの指示通り、すぐに望月へボールを預けた。29番とのワンオンワン。望月は一度ドリブルして止まり、相手を揺さぶってから、そのままシュートへ入ろうとする。
――その瞬間だった。
風がどこからともなく飛び込んできて、望月のシュートを豪快にブロックした。そのまま自分でボールを拾い、一直線にゴール下まで走って、またダンク。
「おおおおおおおお!」
観客席がまた沸く。
おい、相手女子だぞ!
「ひどいな。」
追いつけもしないのに、こっちだって全力で後ろを追っていた。そう言いながら、僕は転がったボールを拾い、高木に渡す。
風は涼しい顔で言う。
「望月なら、むしろ本気で相手されたほうが嬉しいでしょ。」
言われてみれば確かにそうだ。
それにしても、風は第三クォーターでさらに速度を上げたはずなのに、まだこの爆発力を残している。本当に化け物だ。
望月という得点源が加わったことで、僕らのセットオフェンスは明らかに改善していた。ただし、そのぶん風もディフェンスで一切手を抜かない。結局、点は取れても劇的に楽にはならず、試合は最後までひたすら点の取り合いになった。一本決まるたびに、コート脇から歓声が上がる。
そのまま残り三十秒。スコアは62対62。
これ、ただのクラス対抗戦だろ?しかもほぼ時計止めないルールで、両チーム合わせて120点超えって何なんだ。
直前、風のドリブルが足に当たって外へ出た(やっと疲れたのか)。いまはこちらのボールになった。ただ、このオフェンスが終わったら、相手にはまだ一回、最後のチャンスが残る。
そこでヒロがタイムアウトを取った。
「次はフロントコートからのスローインだ。高木、まずトップで少し時間を使え。お前が持っていれば、35番も簡単には前に出てこない。残り10秒になったら、一回ヨルに入れて、すぐ戻す。そのあと望月へ。
望月、29番を揺さぶれ。35番は絶対にヘルプへ来る。だから狙いはシュートじゃない。高木かヨル、空いたほうへ出せ。
お前ら二人は、全員の意識が望月に向いた瞬間に動け。いいな?このあと、ボールデッドでもない限り、向こうはもうタイムアウトできない。決めれば終わりだ。」
ヒロはたったこの一試合で、風の行動パターンを見ただけで、そこをほぼ掴んでしまっている。やっぱり、バスケに関してだけは、ヒロのほうが一枚上だ。
タイムアウトが終わり、再びコートへ戻る。周囲の視線が一気に集まる。誰もが、最後の一球を見逃すまいとしていた。
ショットクロックが残り10秒の時、高木が指示通りに動き出し、ボールは最後に望月へ。
シュート体勢に入った時、ヒロの予想通り風が飛んだ。
望月はその一瞬を逃さず、ゴール下へ切り込んだ高木へ迷いなくパスを通した。
受け取った高木が、そのまま跳ぶ。
そして、叩き込んだ。
「よっしゃあ!!」
「うおおおおお!」
僕も味方も、思わず叫んでいた。周囲も総立ちに近い勢いで沸き上がる。
ついに、もう一度リードした。
でも、その瞬間、すでに風がボールへ向かっているのが見えた。全力で風の前へ回り込み、進路を塞ぐ。高木もすぐに寄ってきて、二人で挟み込む。
「4……3……2……1……」
風はハーフライン付近で、僕と高木に止められたまま、それでも最後の最後に、右手一本でボールを放った。
その瞬間、世界まで息を止めたように感じた。
ただ一本、孤独な弧だけが空へ伸びていく。
……いや、まさか。入るわけが――
入った!!!!?
「おおおおおおおおおおおお!!」
たぶん、今日いちばんの大歓声だった。
マジかよ!?片手でスリー!?あれが入るのかよ!?しかもラストショットで!?二人に囲まれて、リングなんてほとんど見えてなかっただろ!
「……あーあ。結局負けたか。」
最初に現実を受け入れたのは、高木だった。
「いい試合だったね。みんなよく頑張った。」
隣へ来た望月が、そう言った。目元は赤く、涙が頬を伝っている。
……ずるい。
今この瞬間なら、抱きしめても許されるんじゃないかと、一瞬だけ本気で思った。もちろん、そんな度胸があるわけもない。
「望月……」
「大丈夫だよ!こんな試合に出られて、一回はちゃんと逆転までできて、すごく嬉しかったの。だから、ちょっと泣いちゃっただけ!」
涙を浮かべているのに、その笑顔は妙に人を安心させる。
最終スコアは64対65。
コート中央で2-Aに礼をし、風と握手した時、彼は苦笑しながら言った。
「最初は外れたと思ったんだけどさ。でも、飛んでる途中で妙にリングへ近づいていって、そのまま入っちゃった。いやあ、ごめんね~」
ベンチへ戻ると、クラスの何人かはもう泣いていて、別の誰かがそれを慰めていた。小山が紫木をなだめているのも見えた。少し行って声をかけようかとも思った。でも、女子はたぶん、泣き顔を男子に見られたくないかな。
本当に、小説みたいな終わり方だ。
「ヨル、ほんとによく頑張ったね。」
横で夢ちゃんが優しく言う。そんな優しい言い方されたら、今すぐ寄りかかって泣きたくなるんだよ!
「十分すぎるよ。あの35番の運がよすぎただけだ。」
ヒロも悔しそうにしながら、そう言った。
「マジで反則だな。」
ツネも納得できない顔をしている。
「まあ、でもいいか。ただの体育祭だし。」
これが青春だな。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
「続きも読みたい!」と思っていただけたら、
【ブックマークに追加】していただけると嬉しいです!
「キャラが魅力的!」「感情描写が繊細!」と思っていただけましたら、
下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると励みになります。
感想・リアクションもお気軽にどうぞ!
皆さまからの反応を、今後の執筆の励みにさせていただきます!




