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【第1巻完結!】僕らは正しい答えを見逃したようです。  作者: 八目律師
Vol.01 「ずっと後になってから、あれが『好き』だと気づいた。」
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22/31

Vol.01 Ch.007④ 前夜

27

  4月28日、木曜放課後。1年D組教室。

  「【お知らせ】

  明日は会議なしです。ここしばらく本当にお疲れさまでした。今日からゆっくり休んで、明後日は朝七時半に会議室集合でお願いします。これから始まるパンドラ祭、しっかり楽しみましょう!」

全体グループの伊藤委員長からのメッセージ。明日からゴールデンウイークだから、わざわざみんなに伝えてくれた。

  この二週間は、体育祭の各競技と実行委員会議であっという間に過ぎた。進行が順調だったおかげで、祭り前日になってようやく少し息をつける。

  しかも当日は大半を生徒会が回すので、僕と紫木もクラスの模擬店を手伝う余裕はありそうだった。

  「よし、みんな!文化祭の準備始めるよ!まずは机を指定の位置まで動かして、そのあと店の飾りつけ!」

  放課後のチャイムが鳴り、教師が教室を出ていくや否や、瀬戸(クラス委員長)がすぐ教壇へ立って指示を飛ばし始めた。

  「今日は勉強して残るのは無理そうだな。」

  立ち上がって、後ろの紫木に声をかける。

  「勉強?ああ、今日はいいかな~」

  紫木は一瞬きょとんとしたあと、やけに軽い口調で言った。

  「いよいよパンドラ祭だし。さすがに私だって、今日はわくわくして勉強どころじゃないもん。」

  たしかに、一日くらい自分に休みをやるのも悪くない。

  「じゃあ荷物まとめよう。手伝うから。」

  「大丈夫、私できる!」

  そう言って机を持ち上げようとした紫木だったが、上がったのは机の脚二本だけだった。

  「んぐ……」

  まあ、そりゃそうだ。

  普段運動していないし、教科書も机の中に入れっぱなしならそうなる。

  「はいはい、そこまで。僕がやるから、紫木は椅子持って。」

  手をひらひらさせると、紫木は少し食い下がりたそうにしつつ、しぶしぶ手を離した。

  「……分かった。ありがと。」

  少し頬を膨らませながら、紫木は椅子を持って後ろへ向かった。と言っても、たかだか三、四歩だ。

  そのあと、僕が自分の机と椅子を持とうとした瞬間、紫木が椅子を先に奪う。

  「何してるんだ?」

  「『はいはい、私がやるから。羽冬は机持って~』」

  どうやら、さっきの僕の口真似らしい。

  僕は呆れた目で紫木を見る。

  公平にしたいのか?一人一回ずつ手伝って、おあいこにしたいらしい。

  椅子なんて何の負担にもならないけど。だから手伝いとして釣り合っているかと言われたら微妙だ。でも男として、そこをいちいち言うのも野暮だろう。

  「真似するなら、全然似ていないよ。」

  「えー! 今の、かなり似てたよ!?」

  「全然。」

  机と椅子を所定の場所に置いて振り返ると、ちょうど紫木と目が合った。

  そしてなぜか、二人同時に吹き出す。

  「いよいよ始まるね。」

  紫木がしみじみと言う。

  「ああ。」

  「こんなに真面目に学校行事に参加するの、私たぶん初めて。」

  「僕も。」

  小山の余計なおせっかいが始まりだったな。

  少なくとも以前の僕なら、こんな面倒事に自分から首を突っ込むことはなかった。

  でも、実行委員をやっているこの時間は、何というか。

  「羽冬夜良が、ちゃんとこの世界で生きてるんだ」って感じがする。

  「理香ちゃ~~ん」

  ……ほら来た。名前を思い浮かべた途端に本人が現れるの、何なんだ。

  「真衣、どうしたの?」

  「いやあ、ごめんねえ?二人のいちゃいちゃタイムを邪魔しちゃって。」

  「真衣! 変なこと言わないで!」

  「でも最近、理香ちゃんずっと羽冬くんと一緒じゃん。私もちょっと、うぅ、さみしいんだよ~」

  いや、仕事だから。

  「だから理香ちゃん、ポスター貼るの手伝って!私、背が低くて上届かないから!」

  「わっ、真衣!引っ張らないで!ちゃんと行くから!」

  泣き声も嗚咽も、全部わざとらしい。

  ポスターか。瀬戸が完成版をみんなに見せた時、クラスの反応はかなり良かった。

  ―『羽冬すごっ、これ一人で描いたの?』

  ―『羽冬ってそういう感じだったんだ。』

  ―『Oh~ちっちゃなアーティスト羽冬夜良~』これは誰の発言か、考えるまでもない。

  ―『次も頼むわ、羽冬!』

  褒められて悪い気はしない。ただ、どこか自分のことじゃないみたいな感覚がまだある。

  この数日、僕と紫木はバスケの記録係もこなしていた。僕が正式な記録表、紫木が個人スタッツ担当。最初は得点以外が苦手だった紫木も、三日目、四日目には「○番、リバウンド」「アシスト入るよね」と言えるようになり、五日目には雑談しながら記録できるまで成長していた。

  さすが学年上位組というべきか、吸収が早すぎる。

  本人は「意外と簡単だったかも!」なんて言っていたが、正式な記録表を書きながら紫木の内容まで確認していたこっちは、全然楽ではなかった。

  バスケは運も実力も噛み合い、1年D組は本当に決勝まで進んだ。高木は準々決勝で速攻ダンクまで決め、会場の歓声をさらっていた。

  背が高いなんてやっぱいいな。

  ただ、決勝の相手は、風のいる2年A組だ。

  他の競技は、バレーもサッカーも敗退。四百メートルリレーは転倒者が出て決勝進出ならず。

  クラス対抗リレーだけは何とか決勝へ残った。

  僕自身は、100メートルと200メートルで決勝進出。走高跳と走り幅跳びでは入賞できなかった。陸上部の跳躍を見た時点で、才能だけで勝てる相手じゃないと分かった。

  「ただいま。」

  帰ると、姉さんが台所で夕飯を作っていた。

  「おかえり、ヨル。ご飯よそっといて~あと一品だから。」

  「分かった。お茶いる?」

  「ほしい~」

  茶葉は相変わらず大量にある。全部売り払ったとしても消費しきれない気がするくらいだ。だから最近は、また何かにつけてお茶を淹れて飲む習慣を復活させつつあった。

  しばらくして姉さんは炒めた青菜を皿に移し、そのままそれを持って向かいに座る。

  「土曜はパンドラ祭なんだっけ?」

  「うん。やっと会議地獄から解放される。」

  ほんと疲れた。

  「へえ~じゃあ紫木さんと一緒にお仕事するのも、これでおしまいなんだね~」

  僕は黙って目だけ細めて抗議する。

  「何時から始まるの?」

  その無言の圧など完全に無視して、姉さんは聞いてくる。

  「九時。どうしたの?」

  「別に~六時ごろには出るの?」

  あまりに何でもないふうを装っているせいで、逆に怪しい。

  「……姉さん、まさか来る気?」

  「教えない~ヨルだって、夢ちゃんたちは誘ってるんでしょ?」

  まあ……そうだけど。

  家の食卓でこうして普通に話せるようになったのは、実はここ最近だ。外で一緒に食べるのは平気でも、家の中だと不思議なくらい沈黙ばかりだった。そういうのを少しずつ乗り越えて、今はようやく、自然に家族らしく話せる。

  もちろん、家族と呼べる相手は姉さんだけだ。

  「で、明後日、みんな来るのか?」

  食器を片づけて自室に戻ったあと、電話でツネに確認した。

  「行くよ。かなり前から言ってたし、その二日間はみんな予定空けてる。」

  「そっか。」

  「……あ、でも聞いた話だと、梧原が清水も誘ったらしいけど。」

  「え?そうなの?でも、ヒロが来るのは知ってるよな。」

  ウォーターパーク以来、清水とは一度も会っていない。ヒロと別れたあとの流れを考えれば、僕は完全にヒロ側だから、清水若希という存在は、もう自然に自分の生活から消えていくものだと思っていた。


  「さあな。」


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