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【第1巻完結!】僕らは正しい答えを見逃したようです。  作者: 八目律師
Vol.01 「ずっと後になってから、あれが『好き』だと気づいた。」
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Vol.01 Ch.004② 失言のあとしまつ

13

  「パンドラの箱の希望」の象徴は入れたい。同時に、この学校が勉強だけの場所じゃなく、各分野で競い合う場所だという感じも残したい。――そんな感じか。

  デザインの先輩たちと少し話したあと、LINEグループに追加された。入る前のトーク履歴は見えないが、アルバムのラフはどれも面白い。ただ、どれもあと一歩決め手に欠けると感じていたのだろう。ああいうイメージをメインビジュアルにまとめるのは簡単じゃない。

  普通の人には。

  少し手間だけど、いくつかの下描きを仕上げつつ、最後に自分の案も一つ描くことにした。

  .

  .

  .

  ん?もう午前三時?

  こういう作業に没頭すると、昔みたいに時間が飛ぶ。五枚のラフを線画まで整え、写真を撮ってグループへ送る。ずっと起きていたせいで溜まっていた疲れが、その瞬間になって一気に押し寄せてきた。僕は自動操縦みたいにベッドへ倒れ、一秒で眠った。

  .

  .

  .

  「リン―」……ん?もう六時か?早すぎるだろ……。

  少し遅めに出ればいい。そう思ってアラームを止めた。どうせ普段から保険でいくつか設定してある。

  「リン―」

  だが、すぐまた鳴った。そこでようやく頭が少し動く。さっきのと今の、アラームじゃなくてLINE通話の着信音らしい。

  見れば「理香ちゃん♥」からのLINE通話だった。

  …この表示名、本当に腹立つな。次に思い出したら絶対「紫木」に直す。

  「どうした?」

  「えっと、羽冬。もう一時間目終わったよ。友子先生が、どうしたのか電話してみてって。」

  「は?何言ってんの?今ってまだ……」

  スピーカーに切り替え、画面左上を見る。


  「9時38分!?」

  

  「やっと気づいたんだ。おかげで今日は、靴下の片方がちゃんと履けてないの、誰にも教えてくれなかったよ。トイレで鏡見て初めて気づいた。最悪。」

  靴下なんて今どうでもいいだろ!しかも君、普段アンクルソックスなんだから、多少ずれても誰も気づかないだろ!

  「次の先生には“羽冬くんはトイレ行ってます”って言っといて。十時までには着く。頼む、カバーしてくれ。」

  そう頼みながら、急いで制服に腕を通す。

  「は? 先生に嘘つけってこと? 私――」

  「ありがとありがと、頼んだぞ。紫木は一番だ、最高だ、大好きだぞ、じゃあな!」

  そう言って電話を切り、そのまま歯磨きする。

  この時、自分がどれだけ気色悪いセリフを吐いたのか分かっていなかった。

  「ヨル?まだ家にいる?琉香るか、ちょっとね。うちの馬鹿弟、まだ家にいるんだけど。」

  リビングを横切る僕を見て、朝食中の姉さんが悲鳴混じりに言う。スマホからは「はい~」と気の抜けた声。

  「姉さん! なんで起こしてくれなかったんだよ!」

  「は?いつも勝手に早く出るじゃん。分かるわけないでしょ。」

  「靴がまだ――」

  「はいはい、言い返さない。今日は友達と出かけるから、気分下げないで。ほら、こっち向いて。」

  靴は玄関にあるんだよ!

  言い返す前に、口へ何かを突っ込まれた。

  ゆで卵だった。

  「はい、さっき剥いたの。本当は自分で食べるつもりだったけど、もう朝ごはん買う時間ないでしょ。ちょっと雑でごめんね。さっさと行ってきな。」

  「いっえいあう!」(行ってきます)

  この女、心配してるのかしてないのか、本当に分からない。

  「今、失礼なこと考えたでしょ~?」

  悪寒に振り返ると、姉さんは“綺麗な”笑顔で、“優しく”ドアを閉めた。

  ――バタンッ!

  ……とっても優しい。

  読心術でも使えるのか?

  全力で走り、十時前には教室へ滑り込んだ。授業中だが、紫木が何とかしてくれている……はず。鞄を外に置き、トイレ帰りのふりで入る。

  「先生、すみません、今――」

  「羽冬、夜良くん、ですね?」

  その妙にゆっくりしていて、しかも少し圧のある口調を聞いた瞬間、僕は察した。

  紫木、失敗したな。

  今さらだが、なんで紫木に頼んだんだ?高木か望月のほうがまともだっただろ。

  「授業中にあなたの件をここで扱うつもりはありません。この件は茂木先生に報告します。紫木さんの分も含めて。外の鞄を取りなさい。」

  「紫木さん」のところだけ妙に強調し、教室の一番後ろを見た。

  「はい。」たかが寝坊で、また注目を集めるとは。どうぞどうぞ、好きなだけ笑ってくれ。

  席へ戻る途中、紫木と目が合ったが、すぐ逸らされた。

  教科書を出すと、スマホが震えた。

  「(理香ちゃん♥)ごめんなさい」

  ……は?

  画面を見て首をひねる。

  「大丈夫 あとで話そう」

  「(理香ちゃん♥)うん」

  休み時間になり、先生が出ていった。さっき“あとで”と送った時から、少し嫌な予感は今、当たりそうだった。

  「は~ねふ~ゆく~ん♪」

  ここまで高頻度で来られたら、嫌でも名前を覚える。やま

  「理香ちゃんにあんな大胆なことをさせるなんて、羽冬く――」

  「真衣、私が話すから。」

  紫木が珍しく強い口調で遮る。

  「最初はちゃんと先生に言ったの。でも信じてもらえなくて……羽冬が三時まで描いてたの知ってたから、つい口論になっちゃって……」

  小山は空気を読んで、妙な目配せだけ残して離れていった。

  何だその目配せ。余計なお世話だ。

  「別にいいって。無理させたのは僕だし、ごめんな。」

  先生に嘘をつかせるなんて、真面目な彼女にはさすがに重すぎた。

  「本当にごめん。全然力になれなかった。」

  「気にすんなよ。どうせ怒られるだけだし。それに友子先生って優しいから、たぶん大ごとにはならない。」

  それでようやく紫木は少し笑った。

  「全部羽冬のせいだからね!先生と口喧嘩なんてしたことなかったのに!」

  怒りながら笑えているなら大丈夫だろう。

  「ごめんごめん。ていうか、なんで昨日そんな時間まで起きてたの知ってるんだ?」

  「デザインの先輩が、今朝、メインビジュアルの線画を委員会の全体グループに上げてたの。羽冬が夜中に仕上げたって、すごく感謝してるって書いてあった。」

  「え?」

  「見てないの?」

  「君の電話で起きて全力疾走だったんだぞ。見る余裕あるかよ。」

  「今朝、本当に面白かった……あ。」

  紫木が急に赤くなる。

  「何?」

  「た、たとえ本気で私を口説くつもりでも、あんなこと気軽に言わないでよ!」

  「ちょ、声でかいって!」

  また教室が静まる。

  ざわつきが戻ってから聞いた。

  「僕、何言った?」

  「自分で忘れたの?」

  「忘れた。ていうか、そんな大げさなこと言わないだろ。」

  紫木は少し考え込み、

  「き、聞き間違い?」

  「たぶんな。」

  「とにかく気をつけてよ!さっきの空気、どうするの!」

  僕に聞くなよ。

  「はあ……、何とかしてみる。」

  授業開始の鐘が鳴り、僕は前を向いて、高木と望月にLINEを送った。

  「誰かに聞かれたら 誤解だって言っといて」

  これしかない。こういうのは、下手に説明するほど泥沼になる。

  「はいはい どうにかなるならな」

  「わかりました ちゃんと協力します 紫木さんのためにも」

  返信を見たあと、デザインのグループを開く。

  「羽冬やばすぎ」「描きかけまで仕上げてくれた」「神」「どの案がいい?」「羽冬案だ」「私もそう思う」「では全体グループに上げるね」「賛成」

  満場一致か。

  さらにリーダーは全体グループへ――

  「委員長へ:こちらが決定稿ラフです。羽冬くんが午前三時まで作業してくださったなんて、本当に優秀です。問題なければ着彩と仕上げに入ります。」

  どうにか進行はぎりぎり元に戻ったらしい。めでたい話だ。

  着彩も本来は一緒に詰めるべきなんだけど。正直、そこまで僕がまとめてやってしまってもいい。

  人生の役に立たない技能のくせに、こうして褒められる。

  ……滑稽で、つまらない。

  そういえば、クラス用の価格表とポスターもあった。瀬戸と話さないと。終わるまでは名前を忘れないようにしないとな。

  それと、紫木があそこまで赤くなった原因の言葉は、実は反応を見た時点で思い出していた。でも紫木は、人付き合いに関していつも迷っていて、自信がない。だから少し疑ってみせれば、彼女もまた自分を疑う。

  元は僕の失言だ。

  けれど、こう処理したなら、紫木を傷つけないはずだ。

  そうだろ、望月?

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


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