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「それで――――トウリは殺らないのか?」
傷心しているエルサの傍らで、死神はトウリの首に大鎌をあてがった。
推薦組の自己犠牲を摘み、浄化まで行ったエルサを、死神は未だ信じず。
アヤセ、スノウ、トウリがこの場にいる=『欠片の回収』であり、推薦組の猛追を退ける口実だった、だけではないかと。
「――欠片も養殖も、全員無に還れ」
まぁごもっともだ、と色欲の彼は動かない。
『トウリを守れ』の約束も、結局していなければ――――大鎌を振り上げた死神は、アヤセに殴られるからだ。
ぐー、で。
思いっきり。
死神の圧を物ともしないで、「本当は全員ぶん殴ってやりたい……」と、普段静かな分、凄みが。
殴り飛ばされた死神を見て、色欲の彼は笑った。
「神を名乗るなら、見極めねば。トウリに手を出そうものなら、2人とも容赦せんようだ」
支えられているエルサのほうも、スノウに首根っこを地味に掴まれて、殺意もひしひしと。
回収する気はないにしろ、トウリに至っては【死神に斬ってもらったほうがいいのでは】と思っていた時があり、それを知られて、窮地に陥っていた。
死神が口走った“養殖”は、なにを隠そう、トウリのこと。
元から人の良い彼に自己犠牲を植え付けたことで、『欠片』に足る者へ――――成功例が白徒に知られる前に葬らなければ、とエルサは何度思ったことか。
「スノウ、首が折れてしまいそうだ」
「折れればいいと思って力を入れてる」
「……恐ろしいねぇ、ガーちゃんの一部って」
暗に『欠片』だと仄めかすが、回収したとて灼けた天界は元には戻らない。
天界と どろどろに溶け合った3人の白徒に用いるよりも、【現世に良い影響を与えられるキミたち】に協力を仰いだほうが、ずっと有意義だ。
エルサはそう思って、シニガリの彼らを残したのだ。
「……協力って」
「友人想いのキミたちの優しさは、胸を温かくさせる」
「別に、万人に優しいわけじゃないんだけど」
「『あの人を見ていると元気が貰える。一緒に頑張ろう。今日も頑張ろうって』――キミたちは、そういう人。推薦組が目指した、お姫様だよ」
「せめて王子様……も、違うな」
あぁでもない、こうでもないと話していると、トウリとアヤセがやってくる。
後ろのほうで色欲の彼に肩を借りる死神もいるが、襲ってくる気配はない。
「決して悪いようにはしないよ」
トウリとアヤセにも、今一度、協力の要請を。
アヤセは「この場から逃がしてやるから協力しろって言いたいのか?」と、不満そうだったが、それもトウリを思ってのこと。
「僕たちはなにをするにも、約束を交わさないといけないからね」
エルサはまどろっこしいやり方を詫びた。
ずるくはあったが、協力してくれることの了承がただ欲しくて――――そんな一方的な言い分は、触れられることですぐに筒抜けてしまうのだけれど。
【キミたちが現世で生きる様は、
きっと誰かの生き甲斐になる……のは、
僕だけだろうか。
キミたちが現世で繋ぎとめていると思うと、
僕は永遠に頑張れる気がする】
トウリと、トウリに腕を引かれたアヤセにも、ばっちり伝わって、本当に恥ずかしさしかなかった。
スノウはずっと首根っこを掴んでいるし、普段余裕そうなエルサがたじたじなのは、色欲の彼から見ても面白くて。
少しばかりの寂しさを感じて、浄化されていく彼らを見送った。
一際輝く光が、冥府の空に旅立っていく。
エルサはひとりで立ち上がりながら、彼らに祈った。
「来世は――たまたま居合わせただけじゃなくて、もっと身近に。お互いを高め合えるような関係性になれることを――」
前世も、ここでのことも覚えてはいないだろうけど。
彼らは約束を違えない。
途方のない御礼参りが始まろうとも、勢いは――――いつか。
「それじゃあ、よろしく頼むね」
「てめえが摘みきれなかった奴は斬る」
「キミは囮に徹して」
死神として死を狩るのは、推薦組の浄化が終わってから。
それまでは、エルサと色欲の彼の頑張りどころ。
「胸くそになりながら、私に愛を囁けと言うのか」
「うん。できるだけ素早く摘むから」
「是非そうしてくれ。ぐちゃぐちゃに愛し合っているときに、おまえにちらつかれるのは勘弁だ」
死にたい、と嘆く声が近づいてくる。
死にたい、と思う余裕がなくなるくらいの愛を囁いて。
死にたい、なんて微塵も思わない来世を――――貴方に贈ろう。




