いつかの約束へ。
いつ頃からか下界を参考に、冥府は一般的なカイシャから『刑察』組織に体制を変えた。
死神一課。
局長含めて2名の、少数精鋭――――と言えば、聞こえはいい。
半裸から軍服を着こなす色欲の彼は『アスモ』と名乗り、局長を賜った。
寿命を全うできずにやってくるシ者を迎えるために、ひたすら判を押す作業のほうが退屈で。
「……猫になってまで、死神をおちょくってもな」
ローブ姿からスーツに、きっちりネクタイを結んだ死神は、シニガリの模範になるよう節制して、多少の誘惑は効かなかった。
「なんでスーツじゃねえんだよ」
「スーツなんて着てしまったら、これから来る子たちが仕事にならないからね」
「手ぇ出すなよ?」
「そこは心配いらないよ」
監視役――の、監察官はエルサが。スーツに白いトレンチコートを肩掛けした彼は、冥府に籍を置く。
新しい体制で動きがあるまで、とくにやることがなく、一課の一室でくつろいでいた。
「元気そうでなにより」「文明の利器を使えば、幅広い範囲に伝わるものだね」などと、独り言をぶつぶつ。
入手経路不明な端末を覗いては目を細めて――――
「アンタは暇そうだな」
死神の露骨な嫌みも、エルサは風紀の指摘で返した。
「死神くん、その言葉遣いはいただけないな。ネクタイも曲がってるじゃないか」
【キミの姿勢が、
これからの『刑察』の顔なんだから】
「……つー、わりには軍服と白トレンチって」と、呆れる死神が一番まともなのは、ここだけの話。
火事場泥棒して、煙に巻かれるような阿呆がやってくる。
何人もの女性を泣かしたツケで刺し殺されたり、不摂生、怠惰、不注意など――――ロクでもない連中ばかり、が。
けれど、以前よりも制約を設けた『刑察』は、引き続き擬似的な転生を行うだけで、冥府としての姿勢は崩さない。
病魔を駆逐し、天命をも凌駕しそうなヒトを後押しするのは、天界で十分だ。
それが今、機能していないのだから、いずれは代替えが。
わざわざ歯車になる必要はないのだと、冥府に生きる者たちはこの世界の摂理に気づいてすらいた。




