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1つの魂が浄化と転生を繰り返す。
成熟した魂を現世から切り離し、常世に来た魂が浄化できない場合には、永久の眠りを。
それが死を司る神の役割。
故に、歯車の狂った今、死者はすべて無に帰すのが、冥府の理――――のはずが、それを許容しとしない白徒と下級悪魔とが結託して、彼らを狭間に追い込んだ…………なんて、烏滸がましかったかもしれない。
白徒の事情など、知ったことか。
おまえらの面倒事など任されたくない。
もしかしたら、自ら幽閉されに行った節も――――有り得なくはなかった。
なぜならば、色欲の彼の時とは違って、幽閉された牢獄にすんなりとたどり着ければ、檻には誰も、鎖の一本すらない、もぬけの殻だったからだ。
ジオラマ調の冥府がそう見せているのではなく、雑居ビルの一室に、なにも置かれていない、灰色の空間が ただあっただけ。
万が一、斬りかかられてもいいように、エルサと――――「半裸で寒くない?」とトウリのジャケットを肩掛けした色欲の彼とが先行した意味もなくなって。
出端を挫かれた一行に、更なる追い打ちが。
「本当にこ――」
続かないトウリの問いかけに振り向けば、グレーのスーツを着た、またまた別の推薦組が彼を拘束して、瞬く間に拐っていってしまった。
気配も、物音ひとつも立てずに、見事な犯行だった。
トウリの問いかけがなければ、いつの間にかいなくなってた、になるところだった。
2人きりとなった色欲の彼は、あえてを口にする。
「……『あの子を守れ』は、協力条件に含まれていたかな?」
一瞬のこととは言え、色欲の彼が助けることはできた。が、エルサは「決定打のいない今、推薦組と対峙しても意味がない」と、淡泊な返答をした。
「私を解放した瞬間、あの子はもう用なし、か。さすが白徒様々だ」
「……白状しよう。もぬけの牢獄に気を取られていた、と」
「ほう?」
「僕はてっきり『推薦組が暴れているから、なんとかしてほしい。冥府、白徒共々』――そう思っていたけど、どうやら違うらしい」
――――このまま死神を野放しにしていれば、せっかくの欠片が。
「どこまでも白徒が保身に走ると言うのなら――――トウリは拐われてしまったほうがいいんじゃないか、って思ってしまったのだよ」
*
オフィス街を離れれば、地平線の彼方まで平地が広がる。
さらさらの白砂に、ぽつりぽつり。4、5人で集まる推薦組と、彼らの大鎌を首筋にあてがわれ、地面に突っ伏すアヤセとスノウの姿もあった。
2人のそばに駆け寄りたくても、トウリは後ろ手で拘束されたまま。トウリを連れてきた推薦組は「――あの方に、楽にしてもらいましょう」と、別の方向に手首を捻った。
一際、黒い塊を、皆が凝視する。
「あぁ……ようやく救われる」
白金に輝く、推薦組の大鎌なんて比じゃない。ボロボロのローブから覗く赤黒い刃文の禍々しさたるや。それを用いて、自分に襲いかかってくる推薦組を一刀両断――――死神を無理やり刺激して、終わりにしてもらっていた。
わずかな塵が舞う。
それすらも砂に紛れて、なにも。
なんの穏やかさも温かさも残らない。
そんな“完全なる死”――――を、トウリは望んでいなかった。
「アヤセとスノウはっ……、あの2人は関係ないんだっ……!!」
推薦組のひとりが、ゆっくりとトウリのほうを向いた。
「でも、2人のために貴方がシんだ」
そして、またひとり。
「苦しい現世を強いられて、白徒の求める誰かを巻き込んで、シにに行く」
「それが――」
推薦組の皆が声を揃えて、「私たちの宿命」だと。
何度目かの人生であっても、いつも苦行だ。
前世の知識など、なんの役にも立たない。
回避した先は、それ以上の困難が待ち受けて。
また誰かと――――の繰り返し。
推薦組は、そういうところ。
「転生したって、またシぬんだよ」
「そんな一生、嫌でしょ?」
「私たちみたいに壊れる前に、トウリは救いたい」
「そして、あのふたりも」
「天国の一部になるくらいなら、ここで――」
推薦組は口々に、死神に斬られることが最良だと疑わない。
手始めに、トウリを。
「やめろ!!」
「トウリ!!」
首に刃が食い込もうが叫ぶ2人を背にして、強引に死神のテリトリーへ押し込んだ。
トウリの拘束は解かれていない。
身をよじらせながら起きあがれば、ウザったそうな死神が目の前に。頭と身体を分かたんと大鎌を振り上げた。
……痛みは、なかった。
それもそのはず――――トウリを守るように間に入った推薦組のひとりによって、救済を免れた。
現世の、駅のホーム。
『おまえ、ふざけているのかっ!!』
そうトウリにぶちギレた、あのボブの子だった。
急所が外れても、背中を斬られた彼女はゆっくりと終わりに。最期の最後までトウリを守るように、ゆるく抱き締めた。
「あなたは……推薦組じゃない……」
推薦組は生前、なにをしたって輝かない。
死に際に輝くから、皆が手を伸ばすだけ。
でも、トウリは違う。
――落としましたよっ。
同じホームで、
いつもクマを作って、
フラフラになりながらも、
落としたパスケースを拾ってくれた。
見向きもされないはずなのに、
彼だけが。
私には太陽みたいな存在だった。
朝の、ほんの僅かな、私の楽しみになる。
恋なんて、甘いものじゃない。
言葉通りの、癒し――――
「……だから」
私が巻き込んでしまったんだ、と。
「転生して、明るい世界を……あなたは生――」
彼女の重みも思いも刹那に散っていく。
トウリの肩に、ほんのすこしだけ残った塵を見て、他の推薦組も狂ったように救済を求めた。
はやく。
はやくはやく。
もう、死にたい。
タガが外れた彼らの思いが、どんどん膨れ上がっていく。




