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「エルサだ。別の支社から応援に来た者とでも思っておくれ」
「よ、よろしくお願いします。トウリです」と、挨拶を交わす背後から、不満そうな空気が漂ってくる。
――トウリになにかあったら、ただじゃ済まないぞ。と、上層部やンププに半ば羽交い締めにされるアヤセとスノウを尻目に、エントランスから『外』に出た。
色味も、人っ子ひとりいないオフィス街は、巨大なジオラマみたいだった。
外観は完璧なのに、中身はスカスカ。
立派な車道には車の1台も通っていなくて、信号機も横断歩道もない。
堂々と車道のど真ん中を、2人で歩いていく。
「……」
「……」
形は違えど、すべてが灰かぶりなせいで、似たような景色が続いた。
次第に、同じところをぐるぐるしているような感覚に――――静かすぎる環境とも相まって、異様な圧迫感がトウリを襲う。
「大丈夫かい?」
エルサは平気だった。
「気持ち悪そうだね」
「す……すみま、せん……」
「もうすこしの辛抱だ……けど、キミの友人らにどやされるのも嫌だな」
――あまり触れたくはないのだけれど……。
エルサは小声でそう言って、トウリの手を取ろうとする。が、聞こえてしまったからには、甘えるわけにはいかなかった。
「その、ままで……」と、トウリは身動いで。
「エルサさんの……声、聞いて……たら、たぶん落ち着く……んで」
静寂の中での休憩も、きっと苦痛でしかない。
触れずにできる、最低限のお願い――――を、エルサは拒んだ。
「キミを毛嫌いしている、と言うことではなくてね」
トウリの手をやんわりと握れば、エルサの思考が直接流れ込んでくる。
【白徒と冥府間の問題なのに
無理矢理、僕に連れられて
慣れない状況に苦しんでいる。
なのに、
どうして文句のひとつも言わないの?
キミはもっと、
わがままに振る舞って――――】
決して口にはしないことが、触れることによってダダ漏れてしまい、トウリの思っていくことも、もれなく。
【常に余裕そうで、
飄々と、
目的のためなら手段を選ばなさそうな
エルサさんの意外な一面ー……。
あったかい人。
マジでベルサイユ……】
「……キミは不思議な子だよ」と、手を離したエルサは苦笑した。
トウリが最初に抱いていた印象のままでいたかったのに、『思ったよりも優しい人』となったことで、会話のなかった道中は一変する。
体調もすこぶる良くなって、足取りも軽かった。
「手、繋いだままなら、脳内で会話できますね」
もう1回しません? なんて。
「遠慮してもいいかな。キミの言葉は、たまに分からない」
「たとえば?」
「べる、さいゆ?」
「あぁそれは――――」
エルサのテレパシーめいた能力が分かったとて、相手の許可なしに触れようとはしない。
明るくて、人懐っこくて。そんな配慮までできるトウリが好かれやすいことを、エルサも身を以て知る。




