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――おまえだけ数が上がってない。
――ひとり頑張らないだけで、他の連中にどれだけ負担がかかっていると……。
凸凹したグラフの下に名前があって、成績が晒される。よく見た、ホワイトボードの前で叱られるまでがセット――――だったけれど、こちらに関しては生前よりマシだった。
見せしめのように叱られていた時とは違って、この部署をまとめる上司以外、皆、出払っていて。
「おまえがこのままだと、この部署からは誰も転生できないぞ」
ここに配属された時期もバラバラで、自己紹介も顔合わせのミーティングすらなく、どんな人がいるのか分からない中で、チーム一丸になれ、と。
「延いては、このシニガリ機関の存続が――」
話が大きくなっていく上司の背後から、突然。白金に輝く大鎌を振りかざす同胞が現れ、上司に言い放った。
「連帯責任とは、初耳だ」
そして、斬る。
汚物を見るような目をして。
間髪入れずに、背中から。
膝から崩れ落ち、床に這い蹲る上司の反撃を許さないよう、持ち手の先でトドメを刺せば、あっという間に塵と化す。
見事な不意打ちを成功させた同胞の、すらっとした女性はハジメマシテだ。規定なのか、彼女もグレーのパンツスーツで、下界で出逢った子よりも堂々した佇まいだった。……と、暢気に見ている場合じゃない。
外から野太い悲鳴が聞こえてくれば、普段静かなオフィスが一気に騒がしくなって、金属音がそこかしこ。
ストライキ?
まさか。
次は我が身――――だと、トウリも身構えるが、慌ててやってきた別の上司の登場で、彼女の意識はそちらに。
「推薦組のおまえたちがなぜ――!!」
速攻で逃げていった上司に感謝していいものか。
ひとり残されたトウリは事なきを得る、ものの。
「自分たちがなにをしているのか分かっ」
「よ、よせ!!」
「こんなことしてなんにな」
「助けてくれ!!」
「やめ」
普段ふんぞり返っている、お偉いさん方の情けない声の中に、アヤセやスノウがいないか、と。デスクの下に身を隠しながら、トウリはそれだけを心配していた。
*
しばらく――――上層部の、シニガリに対抗できる、ごく少数の人が彼女らを追い払った、あとのこと。
エントランスに集まった、トウリのように運良く助かった者の中には、アヤセもスノウもいた。2人は奇襲された際、上司にクソミソに怒られていて、難を逃れたんだとか。
「俺らに感謝しろよー」とスノウは上司の肩を組んで、おちゃらける。が、上司の方は満更でもなさそうだ。
上層部合わせても20人もいない集団で、できることなんてあるのだろうか。
「被害状況は――」
「推薦組と関わりが――」
「上司組は――」
「下界にいるシニガリの安否は――」
遅れてやってきた真打ちは「絶望的だねぇ」と、この状況を笑った。
赤髪の〈麗人〉に、白い布1枚を巻き付けた、古代のローマ人みたいな格好して、エントランスを闊歩する。
上層部のひと睨みも、なんのその。
「冥府は今、立て込んでいる。お帰り願いたい」
「それを立て直そうと、僕が来た――――って言ったら?」
より場が殺気立とうとも、ベルサイユの麗人は口角を上げたまま。
それが余計に上層部らを苛立たせるが、できるだけ感情的にならないよう質問を質問で返した。
「推薦組が暴れ回ったのは、貴方方の仕業では?」
「困るのは僕たちなのに? シニガリがシニガリを斬っても、数え切れないほどの次元に落ちてしまうだけだからねぇ」と――――彼らにしか分からない会話に、生き残ったシニガリは置いてきぼり。
スノウは肩を組んだままの上司に、声を潜めて問う。
「ンププさん、あの人ら、なに話してんの? 推薦組って?」
暇を持て余す、トウリ含めたシニガリたちも興味津々で。
会議に参加させてもらえなかったンププは「えーっと……」と、頼られることに密かに喜びながら、皆とスクラムを組む。
「キミたちが言う『天国』って、今どろっどろに溶けちゃってて。白徒――」
あの古代の人とか、と目配りして。
「いろんな次元に散らばった自分を回収したくて、躍起になってるんだけど。やり方がちょっとね。終いには『生前、良い行いをしていたから、○○を優先的に転生させてくれ』って、口出ししてきて」
「だから、推薦組?」
「そう」
「え、でもさ」
「そう! それが暴れてるから、〈冥府〉としては、なにしてくれてんねんって感じ。天界が機能しなくなって、魂の洗浄って言えばいいのかね。うちはそれができないから、悪人は悪人のまま。『生まれた時から悪い人なんていない』が、まかり通らなくなって。擬似転生を重ねに重ねた推薦組は、俺らを斬れるまでに洗練されてしまった――――と、あちらさんが宣戦布告してきたと思うわな」
推薦組は白徒の駒のようなもの。
そんな彼らに好き勝手されるのも、白徒側が中心となって冥府を立て直すのも、不快極まりないわけで。
上層部側も不満を爆発させる。
「元はといえば、おまえらが馬鹿みたいに死者を増やしたせいだろうが」
「こっちが死者を管理する代わりに“欠片”とやらを回収してやってるってのに」
「下界の言葉を借りれば『管轄違い』だ。貴様の助力など――」
しかし、ベルサイユの麗人は涼しい顔して、「閻魔くんは過労死寸前だし、八百万を称えるキミたちに管轄なんてあるの?」と、火に油を注いだ。
一触即発。
たったひとりの、動けるようになっただけの白徒になど、誰が従おうか。
それは――本人すら思っていたこと。
お喋り以外、役立たず。
推薦組をどうこうする力も、話し合いで解決するとも思えない状況を、早々に察していた。
だから、
「僕はシニガリ機関を継続していくために、閻魔くんの代行と、推薦組に斬られない強者の確保を提案しに来ただけ」
ベルサイユの麗人――――エルサは、白徒らしく“お告げ”にして、使者のスタンスを取ることにした。が、いかんせん終始にこやかな彼に、上層部の警戒心はMAXで。
「閻魔の……代わり?」
「誰かいない? キミたちがやりやすい人でいいんだけど」
その提案に乗っていいものか、冥府側はエルサを試した。
「……おまえの上司が幽閉した悪魔、でも?」
適任かはさておき、直属の部下であるエルサが解放することに意味があった。
背徳。
裏切り。
共犯。
こちらに堕ちてこい、と引きずり込む。が、エルサは一切渋らなかった。
「かまわないよ」
自らが解放することも快諾して、「誰かひとり、可愛げのあるシニガリを貸してくれないかな?」と。
「この状況含めて、たぶんスムーズに話し合いができると思うから」
そうして、どこまでも前向きなエルサの一声で、蚊帳の外だったシニガミをも巻き込んだ。
愛嬌皆無の面々。
スノウは――――なくはないが、懐に入るのが上手い≠可愛げ、で相手が好むのかも微妙なところ。
となれば、純粋無垢までいかなくても、懸命に生きた末にここに来たトウリが適任と、エルサは彼を指名した。




