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今日もキミはガラスの靴を落とす  作者: 次野/うずらの


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2/9



 本日ほんじつ――――が、いつなのかもあやしい、n度目(どめ)下界げかいへ。



 冥府めいふの、オフィスビルのエントランスを横切よこぎれば、部署ぶしょちがいの同期どうき・アヤセとスノウに出逢であった。

 かべにもたれかかり、他愛たあいのない雑談ざつだんをしていた2人(ふたり)は、トウリの姿すがたるや、「適度てきどにサボらねぇとぬぞ」と。淡々(たんたん)とだが、トウリを心配しんぱいする黒髪くろかみ無愛想ぶあいそうがアヤセで。


「もうんでるけどな」


 そうツッコむほうがスノウだ。

 金髪きんぱつベースにインナーカラーにくろを入れた、ちゃきちゃきした青年せいねんはスーツの上着うわぎもネクタイもほどいて、完全かんぜんオフモード。きっちりているアヤセとは対極たいきょくそうだが、かんがかたているらしく、よく2人(ふたり)でサボっていた。


 かれいわく、そもそもれてくるのが大変たいへんなこと。


 大半たいはん必死ひっしめているなからずのハジメマシテの『もう頑張がんばらなくていい』で納得なっとくするひとなんて、ほとんどいなくて。

 だからといって、無理むりはなせるほどの技術ぎじゅつもなく、死神しにがみをもじる、いっぱしのシニガリには幇助ほうじょ精一杯せいいっぱいだ。なのに、トウリの部署ぶしょしつ重視じゅうしし、それができないのならかずかせげと、ブラックに拍車はくしゃかっていた。



しつってなんだよ、ってはなしだよな」



 ――他部署よそ他部署よそ

 ――はいってもないうちから、とやかくうのは……。



 そんな、うっすらした生前せいぜんいているスノウは、くちとがらせてどくづくことしかできなかった。



「あんまこんめんなよ」

「なんかわれたら、下界げかいさがしまくってました、でれよな」

「ありがと、2人(ふたり)とも」



 こうして雑談ざつだんわすことが、ひとときの休息きゅうそくですらあった。が、2人(ふたり)にかけてくれればくれるほど、トウリのこころかげしていく。

 みんな、転生てんせいしたくて。

 馬車馬ばしゃうまのようにはたらかされて。

 娯楽ごらくもなにも。現世げんせよりも殺伐さつばつな、あのに――――アヤセとスノウをれてきてしまったのは、自分じぶんのせい、なのだと。




『シをもの』としてはたらうえで、生前せいぜんのしがらみはえるらしい。

「よくもわたしくるしめたなっ!!」と復讐ふくしゅう連鎖れんんさまれないように……とのことだが、トウリははっきりおぼえている。




 生前せいぜんも、ブラック企業きぎょうつとめて

 寝不足ねぶぞくで、足下あしもとはふらふら

 えきのホームから

 あやまってちてしまって



 現世げんせの、そのえきのホームにったトウリは、わすれもしない。



 たすけようとしてくれた

 おなどしくらいの、

 らずの会社員かいしゃいん

 ギターケースをかついだ、音楽おんがく関係かんけいひと

 ねられてしまった



 都心としんおおきなえきつながっているわりには家賃やちんやすいと、つねにそこそこんでいて。あさ通勤つうきんラッシュはげきヤバ――――だと知っているから、1時間じかんはや電車でんしゃっていた。


 終電しゅうでんかえってきたくせに、早起はやおき。


 睡眠すいみんよりもラッシュにまれたくない、を優先ゆうせんするのは、トウリにかぎったはなしではなく。

 ふらつきながらえきのホームにひとつけてしまう。しくもわか男性だんせいで、当時とうじ自分じぶんおなじようにあおかおをして、したいクマをつくって。



 ――もうらくになろうよ。



 そうわんばかりに、本来ほんらいめるはずの自分じぶん自身じしんが、自分じぶんそうとしていた。

 シニガリは、この『自分じぶんそうとしている男性だんせい』のればいいだけ。



 チャンスだった。

 おつかさまでした、と、ただ言葉ことばをかけるだけでかったのに。



 トウリはつい、男性だんせいうでつかんだ。


大丈夫だいじょうぶですか?」


「え……あ、ぁ……」と、いきなりってきたトウリに困惑こんわくするが、貨物かもつ列車れっしゃぎて状況じょうきょう理解りかいしたようだった。



「ありが――」



 かれがおれいころには、トウリはもうあのがわもどっており、男性だんせいからはえない存在そんざいに。

 つかれがまってるなり、心霊しんれい現象げんしょうなり、不思議ふしぎ体験たいけんとしてとどめていてくれれば、それでよかった。


 自殺じさつ幇助ほうじょなんかより断然だんぜんいい――――と、おもうのはトウリだけ。


 男性だんせいねらっていたべつのシニガリが、よこやりも同然どうぜん所業しょぎょうにキレらかした。



「おまえ、ふざけてるのかっ!!」



 グレーのスーツにつつんだ、ショートボブの小柄こがら女性じょせいに、むなぐらをつかいきおいでくしてられる。



「なにをてたっ?」「かすほう地獄じごくだろっ」「れていったほう絶対ぜったいよかった!!」「それでもシニガリか!!」



 それに対して、トウリは「ご、ごめんっ……」としかえず――――そんな中途ちゅうと半端はんぱ姿勢しせいでいるから、冥府めいふもどったあとも上司じょうしからげきんでくるのだ。



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