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ずれた四男の異世界暮らし ~僕の当たり前は、魔力社会の盲点でした~  作者: ただのゆきや
第4章 東の森のダンジョン

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第73話 四男は角のある子どもと戦う

 リズたちは外へ出ようとするのをやめ、ニコの治療を始める。

 壁際では、ラウガとミロスが身体を起こしていた。


 角のある子どもが、再び入口側へ足を向ける。

 グレンが盾を構え、その進路へ立ち塞がった。


 フィンの矢が走る。


 敵が片手を向けた。

 その前で魔力が膨れ、撃ち出された魔弾が矢を弾き飛ばす。


 勢いは止まらない。


 フィンは横へ身を投げ、迫る魔弾をかわした。


 間を置かず、ミレアが今度は炎弾を放つ。

 続けて、シリウスの炎弾も飛んだ。


 二つの魔弾が撃ち返される。


 一つはミレアの炎弾とぶつかり、激しく弾けた。

 もう一つはシリウスの炎弾を突き崩し、勢いを落とさず迫る。


 シリウスが両腕を突き出した。

 激しい衝撃が両腕を打ち、シリウスの身体を後方へ弾き飛ばした。


「シリウス!」


 石床を転がったシリウスは、すぐに片膝をついた。


「大丈夫です!」


 僕はその声を背に、敵の背後へ回り込んだ。


 フィンが、今度は氷をまとわせた矢を放つ。

 少し遅れて、ミレアの炎弾が続いた。


 またしても、二つの魔弾が迎え撃つ。

 氷の矢と炎弾は、それぞれ魔弾とぶつかって弾けた。


「おらぁ!」


 ラウガが横から走り込む。

 敵が片腕を向けた瞬間、ラウガは大きく横へ跳んだ。


 空いた正面へミロスが踏み込む。


 その時には、僕も敵の背後へ入っていた。


 肩口へ刀を振り抜く。


 刃がわずかに食い込み、上体が大きく崩れた。

 片膝が石床につく。


 すかさず、ミロスの剣が迫る。

 しかし、手で受け止められ、押し返される。


 その横から、ラウガが地を蹴る。


 身体ごと一直線に飛び込み、拳を突き込んだ。

 拳はもう片方の腕に阻まれる。


 ラウガはその腕を蹴り、反動で後方へ跳んだ。


 そこへ、ミレアの炎弾が飛び込んだ。


 炎が身体を呑み込む。


 だが、敵は何事もなかったように立ち上がった。

 肩口に指を触れ、浅い傷を確かめている。


 確かに刀は当たった。

 それなのに、斬った感触ではなかった。


 太い大木に打ち込んだような硬い衝撃が、まだ両腕に残っている。


 敵は、ゆっくりと僕を振り返った。

 初めて、その目がはっきりと僕へ向けられる。


「こっちです!」


 シリウスの炎弾が飛ぶ。


 僕から視線を外さないまま、片手で炎弾を弾く。


 その足元へフィンの矢が突き刺さる。

 氷が一気に広がり、両足を石床へ縫い止めた。


 すかさず、グレンが僕との間へ入る。


「下がってください」


「はい」


 僕が距離を取ると、敵は凍りついた足元へ手を向けた。


 魔弾が氷の内側で弾ける。

 両足を覆っていた氷が砕け、白い欠片が石床へ飛び散った。


 続けて、両手からいくつもの魔弾が放たれる。


 グレンとイリスが盾で弾き、ミレアは魔力を集めて魔弾を逸らす。

 フィンたちは左右へ散り、それぞれ魔弾をかわした。

 僕の横を抜けた一発が、背後の石壁を打ち砕く。


「くっ! 前に出ます!」


 グレンが盾を構え、飛んでくる魔弾を弾きながら距離を詰める。


 敵がグレンの盾へ蹴りを叩き込んだ。

 グレンの足が石床を滑り、身体ごと押し返される。


 その横から、ラウガが走り込んだ。


 拳を振りかぶり、正面から殴りかかる。

 敵が迎え撃とうとした瞬間、ラウガは床を蹴って上へ抜けた。


 そこへ、ミレアの炎弾とフィンの氷矢が別の方向から迫った。


 敵は石床を蹴り、二つの攻撃をかわす。

 空中で身体をひねり、その勢いのままラウガへ蹴りを叩き込んだ。


 ラウガが片腕で受ける。


 重い音が響き、その身体が弾き飛ばされた。

 それでも両足で着地したが、蹴りを受けた腕が力なく下がる。


「ちっ……折れやがった」


 敵が着地する。


 それと同時に、シリウスの炎弾が身体を捉えた。


 そこへ、グレンとミロスが左右から踏み込む。

 両腕が、それぞれへ向いた。


 僕は魔力を抑えたまま、その背後へ回る。


 間合いへ踏み込み、魔力を一気に巡らせる。


 その瞬間。


 敵が、にやりと笑った。


 誘い込まれた。


 そう気づいた時には、もう刀を振り始めていた。


 敵が振り返る。


 伸ばされた掌が刀の側面へ触れ、その軌道を横へ逸らした。


 振り切ろうとしていた身体が流れる。


 敵は僕の横をすり抜け、そのまま背後へ回った。


 横にはグレンとミロスがいる。


 二人は、僕を巻き込まないよう、振り出しかけた武器を止めた。


 振り返ろうとした時には、もう遅かった。


 左脇腹へ、蹴りが迫る。


 反射的に左腕を下げ、脇腹を庇った。


 蹴りが左腕ごと身体へ食い込む。


 左腕の奥で、硬いものが折れた。


 同時に、身体の中でも嫌な感触が響く。


 息が止まった。


 横へ大きく弾き飛ばされる。

 石床へ叩きつけられ、そのまま何度も転がる。


 右手から離れた刀が、床を滑ってすぐそばで止まった。


 起き上がろうとしても、息が入ってこない。

 左腕を動かそうとするだけで激痛が走り、脇腹の奥まで痛みが広がった。


「ユキア様!」


 リズとイリスが駆けてくる。


 敵の手がこちらへ向き、魔弾が放たれた。

 イリスがリズの前へ飛び込み、盾で受け止めるが、後方へ弾かれる。


 リズが僕のそばへ膝をついた。

 震える手が、左腕と脇腹に触れる。


「治します」


 前方では、シリウス、フィン、ミレアが攻撃を重ねていた。


 炎弾と氷矢が敵へ飛ぶ。

 敵は魔弾を撃ち返し、腕で弾き、身をかわしながらこちらへ迫ってくる。


 グレンとミロスも後を追う。

 ラウガは折れた腕を庇いながら、敵の横へ回ろうとしていた。


 その間に、止まっていた呼吸が戻り始めた。

 脇腹を締めつけていた痛みも、わずかに遠のく。


 左腕は、少しだけ動くようになった。

 けれど、力を入れればすぐに鋭い痛みが走る。


 それでも、敵の足は止まらない。


「リズ……逃げて」


 やっと出た声は、ひどくかすれていた。


 リズは首を横へ振る。


「治します!」


 手を離そうとしない。


 僕は右手を伸ばし、床に落ちた刀をつかんだ。


 左腕には力が入らない。

 刀を握ったまま右肘を床につき、無理に上体を起こす。


「だめです。まだ治っていません!」


 片膝を立てる。


 脇腹に鋭い痛みが走り、息が詰まった。

 それでも、どうにか立ち上がった。


 敵が目の前まで迫る。


 僕はリズを背に庇い、右手だけで刀を構えた。


 敵が間合いへ踏み込み、拳を突き出してくる。


「だめえええええ!!!」


 リズの声が、建物に響いた。


 次の瞬間、身体の奥へ何かが流れ込んだ。


 自分のものとは思えないほど強い魔力が、内側からあふれる。


 敵の目が、わずかに見開かれた。


 初めて、その表情が揺れる。


 突き出した拳が止まり、敵が後ろへ退きかける。


 だが、伸びた腕だけが引き遅れた。


 その一瞬を逃さず、右手一本で刀を斜めに斬り上げる。


 最初に感じた硬さを、刃が越えた。


 その腕が、肘より先で斬り離される。


 切断された腕が石床へ落ちた。


 敵は目を見開いたまま、何もない宙を見つめている。


 脇腹に痛みが走ったが、右足を踏ん張り、どうにか踏みとどまった。


「兄様!」


 シリウスの叫びと重なるように、敵の向こうからミロスの剣が迫る。


 敵は身をひねってかわし、そのまま残った手を振り上げる。

 いくつもの魔弾が周囲へ散らされた。


 グレンが僕とリズの前へ滑り込み、盾で魔弾を受け止める。

 イリスもニコとバウルを守る位置へ戻り、正面から飛んできた魔弾を防いだ。

 ほかの者たちも散開し、迫る魔弾をかわし、打ち落としていく。


 敵は魔弾を放ち続けながら、僕たちから距離を取る。


 中央まで下がると、残った手をこちらへ向けたまま、その口を動かした。

 聞いたことのない音の連なりが、短く発せられる。


「何を言っているんだ……?」


 フィンがつぶやいた。


 聞いただけでは、僕にも何を言っているのかは分からない。

 それなのに、頭の中へ言葉の意味だけが響いた。


 ――貴様、何者だ。


 何と答えればいいのか分からない。


 敵の目が、僕をじっと見る。


 やがて、その視線が、僕に寄り添ったままのリズへ移った。


 ――違うな。そこの女か。


 リズの身体は、まだ小さく震えている。

 僕の傷に触れた手は、離れないままだ。


 敵はリズを見たあと、もう一度僕へ目を戻す。


 ――いや……まあいい。


 敵の身体が淡い光に包まれ、輪郭が薄れていく。

 姿が完全に消えた直後、石床に硬い音が響いた。


 落ちていたのは、無色に近い透明な石だった。

 内側には、淡い光が残っている。


 純正魔石に似ていた。


 同時に、僕に触れていたリズの手から、力が抜ける。


「リズ?」


 リズの身体が傾き、その場に崩れ落ちた。


「リズ!」


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