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ずれた四男の異世界暮らし ~僕の当たり前は、魔力社会の盲点でした~  作者: ただのゆきや
第4章 東の森のダンジョン

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第65話 四男は出口を切り開きたい

 二体のゴブリンが、通路を駆けてくる。


 まだ、巡らせない。


 ゴブリンの足音が近づく。

 粗い息遣いと、武器が石壁へ触れる音が重なった。


 一撃で終わらせない。

 点ではなく、線でつなぐ。


 一体目が、間合いへ入る。


 その瞬間、一気に魔力を巡らせた。


 足が石床を蹴る。

 踏み込みとともに刀を抜き、横へ振り抜いた。


 一体目の身体が崩れる。


 そこで止まらない。


 刀を返し、そのまま頭上へ振りかぶる。

 二体目が武器を上げるより先に、斬り下ろした。


 二体目も倒れ、二つの姿が消えていく。


 僕はすぐに魔力の巡りを抑えた。


 胸が強く上下する。

 腕には、二度の斬撃をつないだ重さが残っていた。


「前へ進みましょう」


 息を整えている余裕はない。

 僕たちは、その場を越えて先へ進んだ。


「左に一体います」


 バウルの声が飛ぶ。


 岩陰からケイブラットが跳び出した。


 近づくまで待つ。

 間合いへ入った瞬間だけ魔力を巡らせ、刀を振るう。


 倒したら、すぐに抑える。


「右から来ます」


 曲がり角から出てきたゴブリンへ踏み込む。

 一息に斬り伏せ、すぐに魔力を抑えた。


 巡らせる。

 倒す。

 抑える。


 短く繰り返しながら、少しずつ出口へ近づいていく。


 長く魔力を巡らせていない分、グレンたちほど空気の重さに身体を引かれてはいない。

 それでも、踏み込むたびに脚は重くなり、刀を握る指に疲れが溜まっていった。


 後ろで火が弾ける音がした。


「こちらは大丈夫です!」


 シリウスの声に続き、何かが石床へ倒れる。

 後方から追ってきた魔物を止めてくれている。


 僕は振り返らずに前を見る。


「次、複数来ます!」


 バウルの声が硬くなった。


 通路の先から、二体のゴブリンが並んで走ってくる。

 その後ろで、ビッグラビットが身体を低くした。


 僕は刀の柄を握り直す。


 一体目が来る。


 魔力を巡らせ、横へ斬る。


 刀を返し、二体目へ斬り下ろす。


 二体を倒した直後、ビッグラビットが地面を蹴った。


 刀は下がっている。

 身体を返そうとしても、足が追いつかない。


 間に合わない。


 鋭い音とともに、矢が飛んだ。


 矢尻がビッグラビットを打ち、跳びかけた身体が横へ傾く。


 できた一瞬の隙へ、僕は踏み込んだ。

 刀を振り抜き、ビッグラビットを倒す。


「ニコ」


「ユキア様は前を。援護します」


 ニコは矢筒から次の矢を抜きながら答えた。


 そうだ。

 僕が一人で、すべて対処する必要はない。


「お願いします」


 僕は前を向き直った。


 前から来る魔物へ踏み込み、短く魔力を巡らせて斬る。

 横から近づく魔物を、ニコの矢とバウルの槍が止め、その隙に僕が斬りつける。

 背後からは、剣のぶつかる音とシリウスの声が聞こえてくる。


 僕たちは互いの持ち場を守りながら、少しずつ通路を進んだ。

 やがて、道が広がった。


 その中央に、大きな影が立っている。


 太い腕。

 ゴブリンより二回り以上大きな身体。


 オークだった。


 オークが低い声を上げ、こちらへ向き直る。


 僕が正面から受け止められる相手ではない。

 グレンは戦えず、ミロスの力は最後まで残しておきたい。


 僕はイリスを見る。


「イリス、オークを引きつけてもらえますか。僕が後ろへ回ります」


「承知しました」


「頼みます」


 イリスは迷わず前へ出た。


 オークが腕を振り上げる。

 イリスは盾を掲げ、身体をわずかに横へずらした。


 重い一撃が盾へぶつかる。

 イリスは踏みとどまると、盾の陰から剣を振るい、オークの注意を引きつける。


 僕は魔力を抑えたまま、オークの横を抜ける。

 その途中、右の横穴から小さな影が飛び出した。


 こちらへ向かってくる。


 魔力を巡らせれば、オークに気づかれる。


 僕は向き直らない。


 大丈夫だ。


 矢が風を切った。

 横から来た魔物の身体が弾かれる。


 続けて氷が砕ける音がした。

 グレンを支えたまま、リズが放った魔法も重なり、その魔物を横穴の壁へ押し戻す。


 僕は振り返らず、そのまま進んだ。


 オークの背後へ入った。


 そこで、一気に魔力を巡らせる。


 刀を横へ振り抜く。


 オークの巨体が止まった。

 ゆっくりと傾き、姿が消えていく。


 イリスが短く息を吐き、剣を下げる。

 僕はすぐに、その先へ目を向けた。


 通路の奥が、白く明るい。


「出口です!」


 シリウスの声が響いた。


 外の光は見えている。

 けれど、入口までの通路には、まだいくつもの影が動いていた。


 後ろからも、爪が石を掻く音や足音が近づいてくる。


 ミロスが剣を握り直し、僕を見た。


「もういいっすよね」


「はい。ここを抜けましょう」


「了解っす」


 ミロスが前へ出た。


 抑えていた魔力が身体を巡り、一気に加速する。

 正面のゴブリンへ剣を叩き込み、ゴブリンごと横の魔物へぶつけた。


 できた隙へ、イリスが踏み込む。

 シリウスの火魔法が後ろから迫る魔物を押しとどめ、ニコの矢とバウルの槍が横から入り込もうとする魔物を止めた。


 全員が、残っている力を振り絞っていた。


 僕もミロスが崩した魔物へ刀を振るい、出口へ続く道を広げる。


 倒しきる必要はない。

 外へ出るための道さえ作れればいい。


「グレンさん、もう少しです」


 リズの声が後ろから聞こえた。


 振り返ると、グレンはリズに支えられながら、一歩ずつ進んでいる。

 剣も盾も、もう構えてはいなかった。


「グレンさん!」


 ニコは弓をリズへ預け、すぐにグレンの前へ回った。


「僕が背負います。リズさんは後ろをお願いします」


 ニコはグレンを背負うと、そのまま出口へ向かって走り出した。


「先、行ってください!」


 ミロスが荒い息のまま叫ぶ。


 その声に押され、僕は前へ向き直り、入口の外へ出た。


 すぐに振り返り、続く皆の姿を確かめる。


 ニコはグレンを背負い、その横をリズが走っている。

 シリウスとバウルが続き、最後にミロスとイリスが魔物を押し返しながら通路を抜けた。


 八人全員が、ダンジョンの外へ出た。


 森の風が、汗で濡れた頬を撫でる。

 葉が擦れる音と、土の匂いが戻ってきた。


 ダンジョンの中で身体へまとわりついていた重さが、少しだけ和らぐ。

 それでも、脚からすぐに力が戻るわけではない。


 ミロスは数歩進んだところで剣を地面へ突き、その柄へ身体を預けた。

 イリスも片膝をつき、肩で息をしている。


 僕の脚も重い。

 魔力より、何度も刀を振った身体の方が先に限界へ近づいていた。


「グレンさんをこちらへ」


 リズの声に応じ、ニコが木の根元でグレンを背から下ろす。

 リズはその身体を支えて座らせ、顔色と呼吸を確かめた。


 僕は一人ずつ顔を確かめた。


 グレン。

 ミロス。

 イリス。

 シリウス。

 バウル。

 ニコ。

 リズ。


 全員いる。


「戻れましたね」


 シリウスが息を切らしながら言った。


「みんな、出られました」


 バウルの声にも、安堵が混じっていた。


 僕は頷く。


「うん。全員で出られた」


 その時。


 草むらの奥で、何かが動いた。


 バウルの耳が立つ。


「何か、来ます」


 低木が大きく揺れた。


 枝が折れる。

 続いて、地面を踏みしめる重い音が、森の奥から近づいてくる。


 ミロスが剣を持ち上げようとして、顔をしかめた。

 イリスも立ち上がろうとするが、足に力が入っていない。


 リズはグレンのそばを離れない。

 シリウスは剣を構え、ニコもすぐに弓を取る。

 バウルも槍を握り直した。


 僕も刀の柄へ手をかけた。


 身体が重い。


 それでも、音は止まらなかった。


 木々の向こうから、大きな何かがこちらへ近づいてきていた。


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