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ずれた四男の異世界暮らし ~僕の当たり前は、魔力社会の盲点でした~  作者: ただのゆきや
第4章 東の森のダンジョン

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第59話 四男は開発の手を探す

 森へ入らない日の朝は、足音がいつもと違う。


 剣や盾の金具が鳴る音は少なく、代わりに紙の束や筆記具を入れた革鞄が、歩くたびに軽く揺れた。


 東の森では、あまりよくない変化が進んでいる。

 魔物の目撃が増え、魔獣も前より多くなり、草が薄くなった場所もある。


 一方で、町の中には、前よりよくなったものもある。

 風魔石の使い道が少しずつ増え、役目が生まれていた。


 変わったものが、全部いいものとは限らない。

 でも、全部悪いものでもない。


 そんなことを考えながら、僕は管理棟へ向かっていた。


「ユキア様、本日の午前は、オスカー様との打ち合わせから始まります」


 リズが、胸元に抱えた書きつけへ目を落としながら言った。


「ありがとう。森へ入らない日は、少し気が楽だね」


「はい。ですが、午後の訓練もございますので」


 リズの声は穏やかだ。

 けれど、最後の一言だけは、僕が気を抜きすぎないように添えられている。


 僕は小さく頷いた。


 ドリスタでの滞在は、もう見るだけではなくなっていた。


 午前は、鉱山管理側の仕事に関わる時間だ。

 僕はオスカーの管理業務を補佐しながら、採掘、加工、在庫、出荷、森の監視記録などを確認する。

 それに加えて、最近は魔道具開発管理の仕事も動き始めていた。


 リズは、僕の書きつけや確認事項を整理してくれる。

 同じ紙の束でも、僕が持つとただの紙の山になり、リズが持つと確認順に並んだ資料になる。

 これは、地味だけどかなり大きい。


 ニコは、僕の従者として荷物や連絡を受け持つ。

 バウルが加工場へ入る日は、記録や連絡の補助としてそばにつくことも多い。


 バウルは、魔石加工の補助として、属性魔石の品質確認に関わっている。

 言葉にするのはまだ得意ではないけれど、三年前よりはずっと短く、必要なことを伝えられるようになっている。


 シリウスは、ドリスタで警備側の補佐として現場を学んでいる。

 僕が管理側の仕事に関わる一方で、シリウスは巡回や警備の動きを見る。

 ティナもドリスタへ同行しており、出発前の身支度と連絡を整えた後は、戻ってからの予定や荷物の確認に回るらしい。


「シリウス、今日は巡回?」


「はい。町中を回ります。警備の人たちと巡回に出る予定です」


 返事は早い。

 その声には、隠しきれない張り切りが混じっていた。


「ちゃんと列から離れないようにね」


「兄様、僕を子犬か何かだと思っていませんか。僕だって、少しは成長しています!」


 そこは自覚があったんだ。


「ごめん、ごめん。シリウスも、いつまでも子どものままじゃないよね」


「はい! ですから、今日はちゃんと見てきます」


 イリスが、こちらへ静かに頷いた。


「ご安心ください。シリウス様を、私の目の届かないところへは行かせません」


「イリス、それは護衛ではなく見張りです!」


 シリウスが、少しむくれたように言った。


「イリス、相変わらず硬いっすね」


 ミロスが小さく呟いた。


「お前は軽すぎだ」


 グレンが前を向いたまま、短く返す。


 ミロスは軽く肩をすくめ、イリスはシリウスの半歩後ろで通りの先へ視線を戻した。


 シリウスの護衛にはイリスがつく。

 僕の護衛は、変わらずグレンとミロスだ。


 森へ入る日も、町で仕事をする日も、護衛の確認がなくなるわけではない。


 そんなことを話しているうちに、管理棟が見えてきた。


 扉をくぐると、紙とインクの匂いがした。

 外の石粉や土埃とは違う、乾いた匂いだ。


 オスカーは、いつものように机の上へ記録を並べていた。

 紙は項目ごとに分けられ、端がそろっている。

 その整い方を見るだけで、誰の仕事か分かるようになってきた。


「ユキア様。本日の確認分です」


 オスカーは一枚目の紙をこちらへ向けた。


「採掘量は大きく落ちていません。加工済み魔石の納品数も、記録上は予定内です」


 数字が続く。


 以前なら、僕はその数字を追うだけで手一杯だったと思う。

 今でも全部をすぐに理解できるわけではないけれど、どの数字がどこへつながっているのかは、前より見えるようになっていた。


 採掘量があれば、加工場へ回る石がある。

 加工量があれば、倉庫と出荷の予定が動く。


 それに、森の監視記録も今は別の紙束として残されている。

 町の数字と、森の記録。

 どちらも別々のようで、ドリスタの今を見ようとすると、どちらも無視できない。


 ひと通りの確認が終わったところで、僕はオスカーへ顔を向けた。


「オスカーさん。魔道具開発の方に、魔石加工を見られる人を一人回してもらうことはできますか」


 オスカーの手が、紙の上で止まった。


「魔石加工を見られる者、ですか」


「はい。今は作業員の方たちに、材料運びや部品整理、記録補助をしてもらっています。それだけでもかなり助かっています。でも、試作や量産、標準化を考えるなら、魔石そのものを見られる人が必要だと思います」


 魔道具開発管理は、新しい道具を思いつくだけの仕事ではない。

 使える魔道具を開発し、量産へ回せるように、材料、手順、品質の基準を整えていく仕事でもある。


 けれど、それを机の上の記録だけで進めるのは難しい。

 同じ形に見える魔石でも、削り方や濁り、魔力の通り方で結果が変わる。


 僕の前世の知識は、入口にはなる。

 でも、正確な設計図ではないし、この世界の魔石を削れる手でもない。


 だから、実物を見て、削り、形を変え、比べられる人が必要だった。


「直営加工場なら、仕事の早い者がいます」


 オスカーはすぐに答えた。


「加工数も安定しており、標準品の仕上げも早い。開発側へ回すなら、その者が最も扱いやすいでしょう」


「いえ」


 僕は首を横に振った。


「開発は、うまくいくか分からないことも多いと思います。今の仕事で必要な人を外すのは、もったいないです」


「もったいない、ですか」


「はい。早くて安定している人は、今の加工場で必要な人です。開発に向いているかどうかも、また別だと思います」


 オスカーは目を細めた。

 感情が動いたというより、条件を計算し直している顔だった。


「では、どういう者を希望されますか」


「若い人か、できれば丁寧な作業ができる人がいいです。早く数をそろえるより、試して、何が違ったのかを見られる人の方が合うと思います」


「丁寧な作業、ですか」


「同じものをたくさん作る時は、早さと安定が大事です。でも、開発では、似て見えるものの違いを見ることも必要になります。失敗したものも、ただ捨てるのではなく、どこが違ったのか見ておきたいので」


 オスカーは、机の端に置かれていた別の記録へ手を伸ばした。

 数枚をめくり、指を止める。


「……一人、思い当たる者はいます。テオリーナという若手職人です。品質は悪くありません。ただ、評価は高くありません」


「なぜですか」


「遅いのです」


 オスカーは短く答えた。


「決められた形に整えるだけの作業で、石の向きや流れを気にしすぎると聞いています。加工後の品質は悪くありませんが、標準作業の流れには乗りにくい」


「石を見る目はある人なんですね」


「記録上、仕上がりの不良は少ないです。ただ、加工数が伸びません」


 なるほど。


 オスカーにとっては、扱いにくい数字だ。

 品質は悪くない。でも数が出ない。

 そういう人は、標準作業の場では評価されにくい。


「それと」


 オスカーが、言いにくそうに言葉を続けた。


「仕事外で、半端な魔石や不良魔石を買い取り、変わった形に削っているという話があります」


「変わった形に、ですか」


「はい。用途は不明です。確認するなら、ローデリヒに聞くのが早いでしょう」


 僕はリズと目を合わせた。

 リズは、書きつけに小さく何かを書き足している。


「では、確認させてもらえますか」


「承知しました」


 オスカーは紙を整え、立ち上がった。


 そして、僕たちは管理棟を出て、直営加工場へ向かった。


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