表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ずれた四男の異世界暮らし ~僕の当たり前は、魔力社会の盲点でした~  作者: ただのゆきや
第3章 森の魔力

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
52/72

第49話 四男はギルドに提案する

 僕は少し黙っていた。


 グレンとミロスは、魔力を抑える訓練をしている。

 だから、確認したい対象になった。


 なら、僕はどうなのだろう。


 僕は、訓練で魔力を抑えているわけではない。

 そもそも、自然に魔力が巡っていない。


 もし、魔力酔いが魔力の巡りと関係するのなら。


「……僕も、行ってよいでしょうか」


 口にした瞬間、グレンがこちらを向いた。


「ユキア様」


「坊ちゃん、それはさすがに」


 二人の反応は早かった。


 ベルガも、目を細める。

 ガレスは腕を組み、エルヴィンは黙ったまま僕を見た。


「僕は、普段から自然に魔力が巡っていません。魔力なしと呼ばれているのも、そのせいです」


「だから、比較対象になると?」


 ベルガが確認する。


「はい。魔力抑制が魔力酔いに関係するなら、僕がいた方が差を見やすいかもしれません」


 言いながら、自分でも危ないことを言っている自覚はあった。


 ただ、今の僕は、前に森で魔獣と向き合った時と同じではない。

 身体づくりも続けているし、剣の扱いも、魔力を巡らせる感覚も、少しずつ前に進んでいる。


 それでも、ひとりで森へ入ってよいほど強くなったわけではない。

 魔獣と遭えば、守られる場面も出るだろう。


 けれど、準備をして、役割を決めて、護衛や同行者と一緒に動くなら。

 僕にも、ただ足手まといになるだけではない形があるかもしれない。


 そう思ってしまうと、黙っていることはできなかった。


「ユキア様。それは、検証の材料にはなります」


 ベルガは、否定しなかった。


 けれど、その声は硬い。


「しかし、領主家の子息を危険な採取地へ連れて行くことは、まったく別の問題です。護衛対象が増えれば、回収役や警戒の負担も変わります」


「俺も、さすがに今ここで頷く話じゃねえな」


 ガレスが言った。


 意外だった。

 もっと勢いで面白がるかと思ったけれど、ガレスの表情は真面目だった。


「役に立つかもしれんことと、連れて行っていいかは別だ」


「ユキア様、私は反対です」


 グレンがはっきり言った。


「採取同行がどの程度の危険を伴うか、まだ確認できていません。魔力酔いの検証が目的であっても、魔獣が出る可能性はあります」


「俺も、今回はグレンさん側っす。坊ちゃんが役に立たないって話じゃないです。むしろ、意味はあると思います」


 ミロスの声にも、軽さはほとんどなかった。


「でも、坊ちゃんが行くなら、俺たちは検証協力じゃなくて護衛になります。そこを同じ枠で考えると、話が変わるっす」


 短い沈黙が落ちる。


 僕も、すぐには言い返せない。

 言っていることは、全部分かる。


 それでも、何もしないで待つだけでいいのかという思いが、胸の奥に残っていた。


「止めても無駄じゃろうな」


 そこで、エルヴィンが口を開いた。


「爺さん。無駄って言い方はねえだろ」


 ガレスが眉を寄せる。


「無駄じゃ。坊主は一度気づいてしまったことを、見なかったことにはできん」


 エルヴィンは、杖の頭を指で撫でた。


「こういうところは、アルノルトに似ておる」


「父様に、ですか」


 思わず聞き返してしまった。


 父に似ている。

 そう言われると、どう受け取ればいいのか分からない。


「昔のアルノルトも、似たようなことを言っておった。役に立つことがあるなら、なぜやらん。誰もやらんのなら、自分が行く。そう言って譲らんことがあった」


 エルヴィンの声には、少しだけ昔を思い出しているような響きがあった。

 でも、長く語るつもりはないらしい。


「決めた方向へまっすぐ進もうとするところは、よく似ておるわ」


「アルノルト殿か」


 ガレスが小さく息を吐いた。


「昔から、そういうところはあったな。あの人は、無駄には動かねえが、必要なら早い」


 ガレスが父を知っているような口ぶりをしたことは、意外だった。

 エルヴィンほど近いわけではないのだろう。

 それでも、父が昔、冒険者側と関わったことがあるのかもしれない。


 父の名が出たことで、グレンとミロスは言葉を挟みにくそうだった。


 僕は、苦笑いをした。


「父様に似ていると言われるとは思いませんでした」


 エルヴィンが鼻で笑った。


 張りつめていた空気が、わずかにほどける。

 けれど、ベルガはそこで空気に流されなかった。


「似ているかどうかはともかく、条件の問題です」


 ベルガは、書きつけを一枚引き寄せた。


「ユキア様が同行するなら、検証上の意味はあります。しかし、護衛上成立するかは別です。そこを曖昧にしたまま、話を進めることはできません」


「だな」


 ガレスが頷いた。


「グレンとミロスの検証協力については、鉱山管理側と、お前さんたちの予定を合わせて詰める。二人の護衛任務もあるからな」


 ガレスは、今度は僕を見る。


「ユキア様を同行させるかどうかは、ここでは決められん」


「はい」


「同行予定のラウガに見てもらう。お前さんを護衛しながらでも、採取への同行が成り立つかどうかだ。ラウガが問題ないと言うなら検討する。駄目だと言えば、その時点でなしだ」


 ラウガ。


 その名前が出ると、グレンとミロスの空気がほんの少し変わった。

 完全に納得したわけではない。

 でも、護衛の判断をする相手として、ラウガの名には、それだけの重みがある。


「分かりました。その条件なら受け入れます」


「受け入れるも何も、こっちが条件を出してるんだがな」


 ガレスが笑った。


「ユキア様」


 グレンが静かに言う。


「ラウガ殿が不可と判断された場合は、同行を諦めていただきます」


「はい。約束します」


「坊ちゃん、今のちゃんと聞きましたからね」


 ミロスはまだ不満そうだったが、それ以上は言わなかった。


 ベルガは、場がいったん落ち着いたのを確認して、書きつけをまとめる。


「では、検証方法、記録の取り方、回収役、護衛配置については、こちらで案を整理します。鉱山管理側との調整も必要です」


「ラウガにも話を通しておく」


 ガレスが言った。


「はい」


 まだ、何も決まったわけではない。


 それでも、東の森と魔力酔いの問題は、もう遠い場所の出来事ではなくなっていた。


          ◇


 冒険者ギルドを出る頃には、朝の通りはさらに人が増えていた。


 荷車の音。

 鉱山へ向かう足音。

 冒険者ギルドへ入っていく人の声。


 同じ町の音なのに、来た時とは少し違って聞こえる。


「坊ちゃんも、なかなか無茶なこと言いますね」


 しばらく黙っていたミロスが、ぽつりと言った。


「……そうだね」


 否定はできなかった。


 僕の同行は、ラウガの判断次第だ。

 グレンとミロスの検証協力も、まだ相談の段階でしかない。


「グレン」


「はい」


「ごめん。また、迷惑をかけるかもしれない」


 グレンは少しだけ足を緩めた。


「迷惑ではありません」


 短い返事だった。

 けれど、声は硬い。


「私は、先ほど反対だと申し上げました」


「うん」


「その考えは変わっていません」


 グレンは前を見たまま続ける。


「それでも、ユキア様が行くと決めたのであれば、その時はお守りします」


 ミロスが軽く息を吐いた。


「そこは俺も同じっすね。できれば、行かないで済む方が楽ですけど」


「それは正直だね」


「正直なのは大事っすよ、坊ちゃん」


「じゃあ、僕も行くって言ってよかったのかな」


「前言撤回っす。正直すぎるのは駄目っす」


 少しだけ、空気が緩む。

 僕は、前を歩くグレンの背中を見ながら、ゆっくり息を吐いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ