表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ずれた四男の異世界暮らし ~僕の当たり前は、魔力社会の盲点でした~  作者: ただのゆきや
第2章 魔石鉱山町ドリスタ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
24/71

第22話 四男と冒険者とエルヴィン

 急な問いに、僕は匙を持つ手を止めた。


「どう、と言われても……少しずつ、です。まだ思ったようにはいきませんけど」


「打ち込みは?」


「続けています。ニコ相手の時は、基礎を見てもらっているだけです」


「おう、ニコ。こいつの足運び、少しはましになったか」


 急に話を振られ、ニコが口の中のものを慌てて飲み込んだ。


「え、ええと……僕が判断できるほどではありませんが、以前より受けにくいと感じる時はあります」


「ほう。なら上等だ」


 ラウガは、なぜか自分のことのように満足そうに頷いた。


「……ありがとうございます。ラウガさんに見てもらったことも、無駄にはなっていないと思います」


「おう。分かってるじゃねえか」


「そこで自分から胸を張られると、少し言わなければよかった気もします」


「がはは! 遠慮すんな、もっと褒めろ!」


 まったく遠慮のない人だ。

 けれど、こうして僕の前進を喜んでくれることは、思っていたよりありがたかった。


「え……あの」


 それまで会話を聞いていたミレアが、遠慮がちに口を開いた。


「爺さん、というのは……あの?」


「ああ。エルヴィンの爺さんだ」


 ラウガが、いつもの調子で答えた。


「こいつは、爺さんが見てる坊主でな。魔力の扱いだの、身体の動かし方だの、いろいろ面倒を見てもらってる」


「エルヴィン様が、ですか!?」


 さっきまで、僕に話しかけるだけでも緊張していたミレアが、突然、卓の上へ身を乗り出した。


 その目は、明らかにさっきまでと違っていた。


「ど、どのようなことを教わっているんですか? 魔法ですか? 魔石の扱いですか? それとも、古い術の読み方を……?」


「落ち着いて、ミレア」


 フィンが苦笑しながら止める。


「で、で、でも、エルヴィン様が直接見ておられる方なんですよね?」


「直接、というか……僕が通わせてもらっているだけです。魔石について教えていただいたり、訓練を見ていただいたりしています」


「では、どんな魔法を……」


 期待を向けられると、答えに詰まる。


「すみません。僕はまだ、まともな魔法を使えるほどではないんです」


「え……?」


 ミレアの目が瞬いた。

 興奮が消えたわけではない。

 ただ、その表情は、急に魔法使いらしい真剣さへ変わっていた。


 彼女は、じっと僕を見る。

 視線で何かを探るような、そんな目だった。


「……本当に、魔力の気配が……薄い、というより……感じられない、ような……」


 その言葉に、リズとニコが揃ってこちらを見た。


 初めてエルヴィンに言われた時ほどではない。

 けれど、他の魔法使いにもそう見えるのだと思うと、胸の奥が、かすかにざわついた。


「こいつはな、魔力を扱うのが、とんでもなく下手なんだ」


 ラウガが、ためらいもなく言い切った。


「……ラウガさん。もう少し言い方はなかったんですか」


「事実だろ」


「否定はできませんけど」


 僕は、苦笑するしかなかった。


 ミレアは、驚いたように目を丸くしていた。

 やがて小さく息を吸い、もう一度、ラウガへ顔を向けた。


「それで、エルヴィン様が見ておられるのですか?」


「まあ、そういうことだ。爺さんも、最初はずいぶん妙な顔してたからな」


「そう、なんですね……」


 ミレアはまだ納得しきれていないようだった。

 それでも、さっきまでの緊張とは違う。

 魔法使いとして、分からないものを前にした時の顔に見えた。


「ミレア、さっきまでの緊張はどこへ行ったんだい?」


 フィンが、呆れたように笑った。


「あ……!」


 ミレアは自分が身を乗り出していたことに気づき、慌てて椅子に座り直した。


「も、申し訳ありません……!」


「いえ。僕も、魔力のことは知りたいと思っているので」


「ユキア様も、ですか?」


「はい。まだ分からないことばかりですけど」


「……それでも、エルヴィン様が見ておられるなら、気になります」


 小さな声だったけれど、そこだけは妙にはっきりしていた。


 さっきまでのおどおどした様子とは、少し違う。

 魔法に関わることになると、緊張するより先に、知りたい気持ちが出る人なのかもしれない。


 なんとなく、親近感が湧いた。

 僕も、魔石のことになると似たような顔をしている気がする。


「ユキア様、少し嬉しそうですね」


 隣で、リズが小声で言った。


「そう見える?」


「はい。魔石のお話ができる方に会えたからでしょうか」


「……たぶん、そうかも」


 僕が答えると、リズは納得したように微笑んだ。


 その後も、食卓は賑やかだった。


 ラウガは相変わらず大雑把で、フィンはそのたびに呆れたように笑っていた。

 ミレアはまだ緊張を残しながらも、エルヴィンの話になると、また小さく身を乗り出しそうになっていた。


 雨で採掘現場へは行けなかった。

 けれど、今日ここへ出てこなければ、ラウガたちとこうして食卓を囲むこともなかっただろう。


          ◇


 食事処を出る頃には、空はすっかり暗くなっていた。

 雨はまだ細く降っているものの、軒先から落ちる雫の音は、来た時よりずっと静かになっている。


「では、僕たちは戻ります」


「おう。また会うこともあるだろう」


 ラウガが大きく手を上げる。


「明日、現場へ行けたとしても、浮かれすぎて転ぶんじゃねえぞ」


「転びません」


「そういう奴ほど危ねえんだ」


「最後までそれですか」


 フィンが小さく笑った。


「今日は失礼したね、ユキア様。ラウガが先に教えてくれていれば、もう少しまともにご挨拶できたんだけど」


「俺のせいにするな」


「君のせいだよ」


「あ、あの……」


 ミレアが、ためらいながら口を開いた。


「またお会いできましたら、エルヴィン様のお話を伺ってもよいでしょうか」


「僕に分かる範囲でよければ」


「ありがとうございます」


 ミレアは、嬉しそうに頭を下げた。


「ユキア様、そろそろ戻りましょう」


 グレンの声に、僕は頷く。


「はい。それでは、また」


 僕たちは三人と別れ、滞在場所への道を戻った。


 濡れた町並みには、まだいくつもの灯りが残っていた。

 昨日は、雨の向こうに見えただけの町だった。


 けれど今は、その灯りの一つ一つが、少しだけ近く感じられた。


          ◇


 翌朝、目を覚ますと、雨音が消えていた。


 昨日まで聞こえていた音がない。

 それだけで、朝の空気が少し軽くなったように感じる。


 僕は寝台から降り、窓へ向かった。


 屋根も道も、まだ濡れている。

 通りの窪みには水が残り、軒先からも時折しずくが落ちていた。


 けれど、空は明るい。

 雲の切れ間から差した光が、濡れた屋根の上を淡く照らしている。


「晴れたんだ」


 自然と、口元が緩んだ。


 その時、扉が軽く叩かれた。


「ユキア様、お目覚めですか?」


「起きてるよ、リズ」


 扉が開き、リズが入ってくる。

 その表情も、昨日の朝より明るく見えた。


「先ほど、エーベルト様からご連絡がありました。運搬路と、見学予定の採掘区画の安全確認が済んだそうです。本日は、採掘現場から見学を始められるとのことでした」


「そうなんだ。ようやく見られるんだね」


 昨日、紙の上で辿った流れの始まり。

 魔石が、地中から掘り出される場所。


 雨で一日延びた分、少しだけ待たされた気はする。

 それでも、その待ち時間も今日で終わりだ。


「支度するよ。朝食のあとに出発だよね」


「はい。グレンさんも、出発の支度を進めておられます」


「分かった」


 僕はもう一度、窓の外を見た。

 濡れた町は、差し込む光の中で、昨日よりくっきり見える。


 今日、僕はその先へ行く。


 ドリスタという町の奥にある、魔石の始まりの場所へ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ