第十九章 血の海
最初に見えたのは、
彼の姿だった。
「……レイ……」
声が、かすれる。
何度も夢に見た。
何度も、失ったと思った。
それなのに、
目の前に立っている。
「……会えた……」
リオナは、その場で立ち尽くした。
胸が、いっぱいで、
呼吸の仕方を忘れそうになる。
その横で、
ユリとエリカが、
小さく微笑み合っていた。
言葉はない。
それでも、同じ気持ちだと分かる。
――四人、揃った。
――やっと。
次の瞬間。
足元から、
冷たい感触が伝わった。
ぬるり、とした液体。
リオナは、
ゆっくりと視線を落とす。
赤。
血。
「……?」
周囲を見渡した瞬間、
理解してしまう。
ここは、床じゃない。
海だ。
血でできた、
終わりのない海。
その上に、
無数の――
「……っ……」
声が、喉で止まる。
浮かぶ遺体。
閉じた目。
動かない胸。
息をしていない。
数えきれない。
「……なに、これ……」
恐怖が、
一気に身体を支配する。
膝が、震える。
歯が、噛み合わない。
リオナの身体が、
その場で崩れそうになった。
その瞬間。
腕が、伸びてきた。
強くも、乱暴でもない。
けれど、確かな温度。
「……大丈夫だ」
レイの声。
低く、近い。
リオナは、
思わず、彼にしがみついた。
震えが、止まらない。
「……こわい……」
言葉が、
子どものように零れる。
レイは、
何も否定しない。
ただ、
しっかりと抱きしめる。
「……分かる」
短い言葉。
それだけで、
リオナの呼吸が、少しずつ戻っていく。
ユリは、
その光景を見つめながら、
静かに周囲へ目を向けた。
血の海。
眠る遺体。
そして、
この場所そのもの。
「……なぜ」
低い声。
震えてはいない。
「……なぜ、ここに」
問いは、
誰に向けたものでもなかった。
エリカは、
胸に手を当てる。
あの声を、思い出していた。
――終わらせて。
レイは、
リオナを抱いたまま、
この場所を見つめている。
怒りでも、
恐怖でもない。
知っていた場所を、
ようやく目にしたような目だった。
リオナは、
まだ、彼の腕の中にいる。
震えは、完全には止まらない。
それでも、
一人じゃない。
「……ここが……」
ここが、
すべての行き先。
すべての終点。
そして――
終わらせるべき場所。
血の海は、
静かに揺れていた。
まるで、
四人を待っていたかのように。




