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甘党探偵月影ましろ〜ボクとブラックでスイーツな日々〜  作者: ツキノ
15章 トリックスター〜ニャルラトホテプとシャンタク鳥〜
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4話 トリックスター

 廃墟ビルの最上階。月明かりが差し込むビル中に、佇む人影が2つ。


「うう……」

「おやおや。もう終わりかい?聖女なんていなくても、ゲートくらい開けるって言ったから手を貸したのに」

「そこまでだ!這い寄る混沌!」


 猫琉羅斗の前に蹲っている、フードにローブ姿のクトゥルフ教団の信者と思わしき人物。あろうはロングソードの切先を猫琉羅斗に向けた。


「ああ……、うわぁっ!!」

「あ、おい待て!!」


 今にも転びそうな勢いで信者は逃げていった。追いかけようにも猫琉羅斗がその場に佇んだままだ。あろうは猫琉羅斗を前に、クトゥルフ知識の少ないましろを置いて二手に分かれるのはマズいと判断した。


「猫琉さん……」

「キィ!キィ!」

「ああ、ましろくん。わざわざシャンタク鳥を届けに来たんだね。すぐに大きくなるから、それまで飼っててもらえないかなぁ。依頼料は弾むよ?」

「嫌な予感がするのでお断りします」

「そうか。残念だよ」


 猫琉羅斗は肩を竦めると、ましろの持っていたカゴを受け取った。


「猫琉さん、さっきの方は?」

「ん?ああ、ただの信者のひとりだよ。別に君たちが割って入らなくても何もするつもりはなかったさ。本当だよ?」

「月影ましろ。そいつは猫琉などでは無い。ニャルラトホテプ。這い寄る混沌と呼ばれる存在だ」

「ニャルラトホテプ……這い寄る混沌?」

「ああ。クトゥルフ神話に登場する神でも、トリックスターと呼ばれるようなヤツだ」

「確かに、さっきゲートがどうのって言ってたっけ」

「さっきの信者は自分がゲートを開けると満身創痍だったから、試しに召喚呪文をひとつ教えただけだよ。ナイトゴーントがわらわらと出てくるのを見て少し発狂してたから、僕が倒してあげたら更に発狂しちゃってさ。困ったものだよ」

「……」


 ニャルラトホテプが戦っている姿を目撃したとなれば、SAN値の減りがただじゃ済まない。あろうは突き付けたロングソードを降ろすか躊躇った。


「剣を下ろした方が賢明な判断だ」


 猫琉羅斗は夜闇鴉よやみあろうに言い放つ。


「くっ……」


 放たれる威圧感。言われるがままに剣を下ろしたあろうを見て、猫琉羅斗はましろに問い掛ける。その顔には笑みが張り付いていた。


「ましろくんは、僕と戦う気があるのかい?」

「仮にボクらが今この場で貴方と戦った場合、勝てますか?」

「うん。勝てると思うよ。一度はね」

「よせ!月影、挑発に乗るな!」

「君は少し黙ってくれ。ましろくんの選択が見たいんだ」

「っ!?」


 猫琉羅斗が言うと同時に、あろうは声が出せなくなっていた。あろうは喉元を押さえる。


「……」


 一度は、という言葉に引っかかりを感じ、ましろは手にしていたマドラーをポケットにしまう。

 その様子を見て、猫琉羅斗は再び笑みを浮かべる。


「うん。僕はまだまだ君たち人間で遊びたいから、賢明な判断だよ」

「遊びたい……?」

「この世界でスローライフを満喫するのも悪くなかったけど、やっぱり根本にある性には逆らえないものだ。人間が恐怖と隣り合わせであるところを見るとゾクゾクしてね」

「うーん。それは趣味が悪いですよ、猫琉さん」


 ましろにざっくりと言われ、猫琉羅斗はキョトンとした表情になったと思えば、腹を抱えて笑い出した。


「あははっ!君に面と向かってそんなにはっきりと言われるなんて、思いもしなかったよ!」

「あたふためいているこっちからしてみると、いい気分じゃないです」

「ましろくんはゲームマスター寄りの素質があるからねぇ。そんな君がゲームマスターにしてやられるのは他の人間より一段と嫌だろうさ」


 ましろは平常心を貫いていたが、その一言で眉を顰めた。猫琉羅斗は口が裂けそうなくらい笑みを釣り上げる。


「僕のことが嫌いになっただろう?ましろくん?」

「……」

「無反応かい?つまらないなぁ。まぁ、楽しみは次にとっておこうか」


猫琉羅斗がパチンと指を鳴らす。


「っ……!!っおい!さっきから一方的に好き勝手に喋りやがって──」


 ようやく喋れるようになった夜闇鴉よやみあろうが一歩踏み込むと同時に、猫琉羅斗は背を向ける。


「じゃあね。ましろくん。次の仕掛けを楽しみに待っておいてね」


 そのまま猫琉羅斗──這い寄る混沌と呼ばれるニャルラトホテプは闇に包まれて消えた。

 廃墟ビルに残されたましろとあろうを、月明かりが静かに照らす。


「……ニャルラトホテプは炎に弱いという噂がある。貴様の炎で確かに『人間の姿の』ヤツは倒せはすると思うが、ヤツの真の姿を見て、オレたちが発狂せずにいられるかどうかがわからない」


 猫琉羅斗の気配が完全に消えたのを見計らい、あろうはロングソードを鞘に収めた。


「猫琉さん、炎が嫌いなのかなぁ。道理でボクが執着されてるわけだよ。あぁー、ひと段落ついたからお菓子食べよ」


 ウエストポーチの中から個包装のマシュマロを開けて食べるましろを見て、あろうはため息を吐く。


「貴様、あのニャルラトホテプに狙われているとはっきりわかったのに、マイペースだな」

「だって、ボククトゥルフ詳しくないし。そのニャルなんとかってよくわからないから。猫琉さんは気配でなんとなくすごいってわかるだけで」

「……この際少しは読んだらどうだ、クトゥルフ」

「うーん……やめておくよ。読んでどうにかできることじゃないし」

「クトゥルフ知識ほぼゼロで発狂しないほど甘くはないぞ、ニャルラトホテプは」

「だったらボクが発狂せずに証明してみせようかな」

「フン。勝手にしろ。──貴様に付き合うのもここまでだ」


 無口なラプスを連れて、あろうはスタスタと階段の方へ歩き、姿が見えなくなった。


『ましろ、夜闇鴉よやみあろうの忠告も少しは聞くべきだよ』


 それまで無言だったラプスがペタペタと床を歩きながら呟く。


「ううん……。クトゥルフかぁ。あんまり気が進まないなぁ……」

『ましろったら童話もそれで手をつけないし。解説は来夢らいむに頼りっきりだよね』

「うん!」

『そこは元気に返すところじゃないよね!』


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